連載小説・第52回です。

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第52回「令嬢再訪」

凛が教育実習の報告をしてきた。

高校での実習で、生徒たちには好評だったという。

「わたくしがちゃんと仕事をできるようになって、一人前に認めていただけるよう頑張ります」と、ガッツを見せている。

 

先日の「先生」口調の凛を思い出した。歳も近く、かわいいお姉さんでありながら、口を開けば朗々と、詩吟で鍛えた通る声、流れるような美しい日本語。ギャップが面白かったろうと思う。

あれでやられたら、普通の生徒は背筋がピッと伸びるだろうと一人笑う。

高校でなら教師になれるのではないだろうか。いや密かな思いに悩む男子高校生が増えそうだが…

(「亜人ちゃんは語りたい」の佐藤早紀絵先生)
 

 

もう一つ重大なことが書いてある。

夏休みに旧都に来るという。祇園祭宵山を挟んで何日か滞在するようだ。

これは避けられない。会わなければなるまい。しかし…

俺にとって忘れられない特別な日なんだ。

昨年の祇園祭。中江真美が俺の胸で泣いた日だ。その思い出はしっかりアンカーとなって俺になにも行動させないようだ。そんな日に、平静な気持ちで凛と会えるのか。

俺はどうしたいのだろうか。

 

もちろん、彼女のことは気に入っている。言葉を交わすのも好きだ。

それに、普段抑えているであろう彼女の才気は、俺と会っている時はのびのびと余すところなく発揮されていると思う。これを愛でることができるのは、正直、俺を置いてないと思う。それは嬉しいことだ。

しかも、家族からも気に入られているようであり、障害がない。

 

しかし、だからこそ彼女との付き合いには「責任」という言葉がちらつく。

俺との交流はすべて彼女にとって「初めて」であり、彼女の人生のスタンダードとなるだろう。無垢な彼女にそんなことをするのは、冬の平原に積もった雪を踏みにじるような心持ちがする。

それほど彼女は触れがたい存在感だ。彼女の背景の巨大な人間関係を含めて。

彼女を受け入れることなどできるだろうか。

もしかしたら外池との「偽装婚約作戦」を発動しないといけないかもしれない。

にわかに緊張してきた。凛に背中を押されるように「事態」が進んでいる。

 

 

「千里さん!」

白い帽子とワンピース。白く柔らかなカーディガン。白いロンググローブ。思わず周りを見回す。ここは軽井沢かと見間違えた。

「ここです!」

ぶんぶん手を振る彼女に噴き出した。

別に小さくて見えなかったわけではない。大丈夫だよ。

「残暑の旧都は暑いですね!」

本当にうれしそうに笑顔を見せる。一段と生き生きしてきたようだ。

バスに乗ろうと、歩き出す。後ろからついてくる…ようなのだが、なんだかもぞもぞしている。

手をこちらに振り上げては、すっとおろす。何度も何度も。

ついに俺の袖に触れた

しかしすぐ引っ込める。

「…何してるの?」

「…あ…あの」

上目づかいで真っ赤になって、俺の袖をつまんだ

 

「ここ…いいですか?」

「あ、ああ。いいよ」

とたんに、嬉しそうに俺の二の腕にからみついた。狙いは袖じゃなかったのか!
まあ、なんというか、奥手ぶりが10代のデートのようだ。

でも体への快感の侵襲は、もう10代ではない。ぞくぞくが昇ってくる!

(続く)