小説始めます。「手書きのタイムマシンneo」 ~(中略)

手書きのタイムマシンneo 14.真美襲来 より。連載小説第15回です。

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第15回「慟哭抱擁」

目覚まし時計の音に飛び起きる。

部屋を見渡し、ああと思いだした。

 

真美とそのお友達、マコトさんとサヤカさんが泊まっているのだ。

(マコトの方はサヤカに気があるようなんだが、二人は「友達」なのだ)

山鉾巡行に間に合うように起きようとアラームをセットしたのだった。

夜が更けてもずいぶんしゃべり続けたので、朝起きられるか心配だったが、なんとか皆動き出した。

さあ、山鉾を観に行こう。

 

掛け声と、笛・鉦・太鼓の囃子に送られ、勇壮に山鉾が動き出す。

次々と出発し、四条通へ進んでいく。

2人は、追いかけて走って行ってしまった。

真美は手を振って見送る。するとこれは予定の行動なのか。

真美が、俺に何か話したがっているのだ。

 

「さわにい…聞いてくれますか」

「あ、ああ…もちろん何でも」

 

「ケージくん、実は…今日のこと、迷っていたどころじゃないんです。私の話聞いてもくれないんです」

「そうか。つらいな」

彼は授業には出なくなったが、今後のことを話し合うために学校には行っているとのこと。

ふっと、彼はすでにうつの症状を呈しているのではないかと感じた。

スクールカウンセラーより、メンタルカウンセリングが必要なのではないか。

ご両親はそういう感じをわかっているのか。

親は彼をサポートできるのだろうか。

推測だし、口を挟むのもおかしいから、何も言わないでいた。

 

人波の方向を見ながら、その実、いま彼女は何も現実の風景を見てはいない。

「もうなんか、全然ダメなんじゃないかな。私じゃダメ。もう何にもできない」

真美は、まだ彼を切り捨ててはいない。その分、今も苦しんでいる。

「ケージったら勝手に悩んで人生変えちゃって…つらいよお」

 

顔がくしゃっと歪んだ。

「ケージのバカぁ!」

 

声を張り上げる。

すぐ周りの人はいぶかしげに振り返るが、周囲の喧騒はそれ以上なので、大して目立たない。

真美は俺の方を向いた。

目が合った。

その目に涙がふるふる溢れて―

何が起こるか分かった。

 

「あああああん!」

俺の胸で、真美は泣き始めた。

 

 

こんなに人が大勢いるのに、今俺と真美は二人だった。

現実感から切り離され、お互いの体だけを感じていた。

人の波に逆らい、俺は彼女の肩を抱き、立ち尽くしている。

だが、俺がケージと大差ない男であることを、真美は知らない。

俺もまた、過去に彼女を勝手に捨てた男…

自分を守りたくて、見下される前に彼女を突き放した男なんだ。

(続く)