小説始めます。「手書きのタイムマシンneo」 ~(中略)

手書きのタイムマシンneo 9.電話開通 より。連載第10回です。

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第10回「不協和音」

春休みは、新入生歓迎および大学の自治委員勧誘行事の数々で、大変忙しかった。楽しそうなクラブやサークルと競って、有望な後輩を捕まえなくてはならない。新歓行事で結構アピールしたが、来てくれるだろうか? 有望なというのは、小間使いのようによく働いてくれる人とか、人や自分が楽しむために壮大な仕掛けを思いつける人という、縦にでも横にでも何か突き抜けた人材を指す。

 

授業はというと、これが楽観できない。2年生ともなると専門科目がぐっと増え、勉強も大変になった。

俺などは、いささかテツガク的な興味のため、本や映画の研究に忙しく、ついテスト勉強を後回しにする傾向がある。そして、10代のころの無敵の記憶力に陰りが見えてきたのも否めない。脱サラはつらい。

(いや・やっぱりただの怠け癖だろう・反省しよう)

同じ自治委員仲間で、勉学方面の出来もいい外池貴子は、実に頼れる仲間である。

 

というわけで、今日も自治会会議のあと外池にノートを借りるのであった。

「いいたかないけどねえ…大澤君、ちょっと生き方考えた方がいいよ」

話題を変えたくなった…

「ほんとだねえ…あ、外池、字がきれいだね。凛さんみたい」

「え? 今誰って言った?」

 

思わず口をついて出た名前に外池が食いつき、見事に話は変わった。

 

「え? 凛さん…はね、あの、金沢の大学の人。去年の自治会地方別研修で同じ班だった――」

「もしかして、おのりん?」

「え、知ってるの?」

「長い黒髪の下がり眉の小野さんなら…高校同じだよ」

 

「えーっ…君、金沢だったのか」

そして…

「知り合い?」

「いえ… そうね。知ってはいるわ。有名人だったから」

ああ、そうだな。立ち居振る舞いが凛として目立つ…親の名付けの通りか…それでいて取り澄まさず、一度話したら忘れられない個性があるし。

なんて、同性の前で褒めるのはマナー違反だと聞いたことがあるので言わないでおく。

 

「まさかねー… 世間は狭いんだぁ…」

「あの、どんな人なの? 高校時代は何部?」

「え、あ、あんまり詳しくは知らない…かな」

あれ?

自分から振った話なのに、言いたくないことを思い出したらしい。ちょっと歯切れ悪くなってきた。

「今でも時々やり取りしてるんだ。またなんか情報教えてよ」

「やりとり?」

 

手紙のやり取りが4往復したといったら悶絶した。

「うそ! あ、あの男嫌いの凛さんが…文通!? 意味わかんないよ!」

「知らないよ! …へえ、そうなの?」

「うーん、その、噂でしかないんだけど…難しいんじゃないかな」

「なんだよそれ。難しいようなことしてないって!」

「振られるわよ…」

「だから! 振られるようなことしてないから」

 

男子が彼女とコミュニケートすることは、体層難しいことらしい。

生身のオトコは苦手なのかな?

俺の人徳…いや。文通だからよかったんだろう。文章の中の俺は気に入られてるってことか。

 

気になるらしく、外池は『凛をどう思ってるか』と聞いてきた。後ろめたい気持ちがなぜか湧いた。思わず軽口で返す。

「お前より心安く思ってるよ」

「…あっそう。だったらもう、私なんかにぃ、聞くことぉ、ない、で、しょう? 自分で、いろいろ聞いてみ・た・ら?」

 

わあなんて悪い顔。いや俺のせいなのか?

ちょっと憎まれ口が過ぎたかな…

(続く)