この物語はフィクションです。
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「東雲口からロープウェイがあるんですけど。乗ります?」
「お任せで」
勝手がわからないので、引き回されておく。
少し冒険をしてみることにした。
手袋を脱ぐ。手を引き寄せてみる。
真美はちらっと視線をくれ、手袋を脱いだ。
手がつながれた。一瞬冷たい感覚―すぐに暖かくなる。
お互いの体の熱が流れ込んでくるような気がする。
でも、まだ話はろくにしていない。観光地案内くらいしかしゃべっていないのだ。
「真美、今日は何時ごろまでいいの?」
「ん、今日はずっとOKですよ」
空けてくれたのだろう。
「ほら、ここからはそれなりに夜景とか見れるんですよぉ」
本丸前の広場で跳ね回る真美。
天守閣は黒船来航の翌年落成した、江戸時代最後の完全な城郭建築…とかで重要文化財だそうだ。
二の丸庭園に降りてきた。カップルもそれなりにいるのは、冬休み、わけても大みそからしい。
のちにここは「恋人たちの聖地」に認定されるのだが、その時はしるよしもない。
「さわにい、そんな顔してちゃやだ。せっかく久しぶりに会えたのに」
そんなこと言われても、だ。俺はここに何をしに来たのだろう。
恋しい人にただ会いに来た?
――そうじゃないだろう。
庭園にいる恋人たちを見て連想したのは、ドラマで有名になったあの海辺の駅だった。
「梅津寺駅って…」
「あは、さわにいも聖地見てみたいとかあるんだ?」
赤面。
「じゃ市役所前から路面電車に乗りますね」
「その、ケージ君はどう?」
「…なんとか、ね。落ち着いて。リハビリ始まってますし。車いすで散歩するんですよ、私と」
「そう」
「足、少し動くんです。引きずるくらいには上げられるようになって。足の裏を床につけるんだけど、ギプスしてるし、骨折してるから立てないの。だから、うんしょって、前からこう、ちょっとずつ持ち上げておしりを何回もずらせて車いすに乗るの」
「へえ! 大変だね…けどよかったね」
「彼の首ね、プラスチックのカラー巻いてて、変よ。タンバリンに頭が乗ってるみたい」
「笑っていいのかな?」
「ふふっ。でね、彼のお母さんも毎日のようにお見舞い来てくれて。なんか反省したって。お父さんも家にいるようになって、仕事探してるんですって。息子のピンチに、一家団結したみたい」
「そうなのか。本当によかった」
それで――真美は?
俺の知りたい「核心」に触れられないまま、乗り換えの、駅に、着いた。
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前回のタイトルは清原元輔のうたをイメージしています。ゆえに物語の行末を暗示しています。
周知のことですが、「末の松山」は愛媛県の松山とは関係ありません。でも使いたかった。
思いついたときは体が震えました。
男と女の間は、移ろいやすいもの。「末の松山ならぬ身」は。