土曜日。
朝の光の中。
トントントントン。
せっかちなノックの音がした。
「せんぱぁい!」
梨恵が飛び込んできた。
文字通り。
「り、え ! … まず靴を脱げ」
「きゃあ! ごめんなさい! 先輩、大丈夫!?」
早くも大粒の涙。それを見て、とても素直に言葉が出た。
「梨恵…ごめんよ。心配かけて」
「惟先輩から聞いて! びっくりして。ほら、お弁当持ってきました!」
「えっ…そ…ど…」
「もう! お勉強できるのに、どうして体調管理できないんですか」
「お金がないんだよ… っていうか一番の原因は金銭感覚がないことかなと」
「根本的に! 体第一って思ってないんじゃないですか!」
「ああ…」
「今日は、生活全般見直ししていきましょう!」
「あの、バイトは行くよ?」
「はい!その間にお掃除とかしてきます」
「で、あの、せん…彩人さん?」
ドキッ。いいなあ。名前で呼ばれるの。
もじもじしている。
わかってるけど。ちょっとすねた気分なので、じらしてしまう。
でも俺だって、早くしたくてたまらなかったんだよ。
ぎゅっと抱き寄せて、キスをした。
「大好き…」
1DKを見渡して。
部屋のものを点検して、足りないもの、あった方がいいものを検討する。
調味料や食材を考える。
一緒に、スーパーに買い物に出た。
買い物ってなんて楽しいんだ。
お弁当を一緒に食べると、午後は塾の先生に変身する。
スーツを着る俺を、梨恵はうっとりとみている。
「彩人さん…大人みたい」
「はっはっは。変身スーツだからな」
「じゃ留守番お願い…ああ」
先ほど作った合鍵を渡す。
ほとんど涙ぐんで彼女は押し頂くように受け取る。
「いってらっしゃい」
出がけにも、大切にキスをした。