藤川?

 

そういえば話をしたような。

俺が電話したのか? したな。そういえば。

 

「あきれたわ」

体温計をさっさと俺の脇に突っ込む。

「ほんとに痩せて死にそうなんて。栄養失調ってどこの国よ」

…あ、医院の看護婦さん(当時はこういう職業名でした)にも同じこと言われたぞ。

「そんなに体を大事にしないから医学部落ちるんでしょ」

あ、キッツい。えぐられる。関係あるのかよ…

「あるの」

ちょっとドスが効いてます、姐さん…

 

「世の中舐めてんじゃないわよ。あのね、もっと周りに甘えなさい!友達いないの?」

藤川、怒ってる?

「あんた一人のお世話くらい、世間様はしてくれるの、そんなに世の中バカにしたもんじゃないのよ!」

…はい。なんだか、ごめんなさい。

「まあ、私からのお説教はもういいよね。週末、梨恵がきっと半狂乱になって飛んでくるから、自分のしたことたっぷり反省しなさい」

 

食べ物のにおいがする。卵かな?

「雑炊。作っといたから。あとこの壺、梅干ね。冷蔵庫にお漬物と一緒に入れとくから。お茶くらい毎日いれなさいね。このやかん、麦茶炊いたけど、古いねー」

帰るのか?

「ああ、今日は無理だったかもしれないけど、鍵かけといたほうがいいかもよ。じゃあね」

 

作ってもらった食べ物だ…

温かさに涙しながら、生活を見直そうと考えた。

これを、社会人になってからやらかしていたら、大変だったなあ。

完璧に頭を打つ機会がなければ、一歩進まないなんてダメ男だなあ。

それにしても。

藤川惟に、命まで救われた。頭が上がらなくなっちまった。

 

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「叱る」には教科書的にはscoldを当てるのかもしれませんが、怒るではget angry(at~)かget mad、怒鳴るほどだとyell。さらに立場が上の者からのくどくどお説教はchew out、口をパクパク動かすニュアンスでしょうか。chewing gumは噛み噛みするものですね。