彼はただ手始めに
パンを望んでいただけだった。
このバリで生きていくのに
必要な最低限のものを、
これから石をひとつひとつ
積み上げていくための
ささやかな場所を。
エミール・ゾラ「ナンタス」より
(『オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家』所収、光文社古典新訳文庫、p.54)
物語の舞台は、
19世紀末のパリ。
主人公のナンタスは、
いつかのし上がってみせる、
という強い意志を持つ青年である。
引用は、
パンを買う金も無くなり、
雨の中、仕事を求めるが
断られるという苦い場面での
ナンタスの言葉。
ナンタスはこの時、
まだ大きな成功を手にしていないが、
未来のために小さな努力を積む覚悟を
持っていた。
「石をひとつひとつ積み上げていく」
という言葉の通りに、
彼は石を積み上げて行き、
高みに上り詰める。
しかし、
全てを手に入れたかのように
見えた彼には、ひとつだけ
手に入れられないものがあった――。
私はこのブログを、
石を積むような感じで
続けていきたいと思っている。
石を選ぶことに時間がかかったり、
石が見つかっても
書けない日もあるけれど。
それでも、
積み続けることに意味があると
信じる私の頭のなかには
巨大な石のタワーのイメージ図が
あるのだった。


