【鉱物言葉集】

プルースト『失われた時を求めて 』より

石に関する言葉




 



ある過去の忠実な番人として、私に、コンブレーの祖父母の家の私の寝室にあった、天井から細い鎖で吊るされたボヘミアンガラス製の壺型常夜灯のともしびやシエナ産大理石でできた暖炉を想起させた。



それははるかに遠い日々のことではあったが、正確に頭に描くことこそできないとしても、いま現在目の前に存在するものとして想像することができたし、もうすぐ完全に目が覚めればもっとくっきりと目に浮かぶはずのものであった。





マルセル・プルースト

『失われた時を求めて 1〜第一篇

スワン家の方へ1』より

(光文社古典新訳文庫、p.23)






読書に慣れている人でも、

読了に数カ月かかると言われる

『失われた時を求めて』。




この長い物語は、

こんな描写から始まる。




主人公がベッドに入って

ウトウトしていると、

昔の記憶の断片が甦ってくる。




そういえば、

祖父母の家の寝室には、

ボヘミアンガラスの常夜灯や、

シエナ産大理石の暖炉があったなあ…

と、思い出す。




見ている風景は、

夢のようだけれど

はっきりと覚えている記憶の断片。




甦る記憶の中で、

大理石はどのように見えたのだろう。

その色は。質感は。

そこまでは描かれていないので

私は「シエナ産大理石」について

調べた。





シエナ産大理石(Giallo di Siena、イタリア)
(Photo: Giallo di Siena marble, by BeatriceM, 
CC BY 3.0, via Wikimedia Commons)





シエナ大理石は、

濃い黄色〜赤色が基調。

ところどころに斑点や割れ目が見え、

白やベージュの細い脈が走る。



この脈ができる仕組みは

意外とシンプル。



石灰岩が

地中で高温・高圧にさらされて

大理石に変わる過程で、

石の中に細い割れ目や亀裂ができる。



そこに、

鉱物や微量の不純物を含んだ水が

長い時間をかけて染みこみ、

脈が生まれる。




表情豊かなこの石は、

中世からルネサンス期のイタリアでは、

主に教会や宮殿、貴族の邸宅の床や壁、

暖炉などに使われた。




個人的に好きな色である。

かけらで良いから欲しいなあ…






白いコースターはインド産大理石

飲み物ではなく石を乗せる。





時計の写真