【鉱物言葉集】

下村敦史『サハラの薔薇』より

石に関する言葉





 


 シャリファが急に「あら」と声を上げ、砂地にしゃがみ込んだ。

「珍しいものを発見」ガラスの造花でも扱うように両手で優しく保持したまま、立ち上がる。


 彼女が拾い上げたのは――砂色の薔薇だった。たしかに珍しい。

『砂漠の薔薇』だ。


 一説によると、岩石から削り取られた石膏の塵が砂丘にばらまかれ、そのミネラル分が地下から染みだす水に溶けて薔薇の花びらのような結晶ができるという。

 

 「ほら、見て」とシャリファが他の面々に声をかける。どんよりした鉛色の空気を和らげようとしたのだろう。


  ただ永井が振り返り、シャリファの手の上を見た。その瞬間――彼は目を剥き、『砂漠の薔薇』を叩き落とした。結晶が砕ける。永井は肩で息をし、恐ろしい形相で破片を睨みつけた。




下村敦史『サハラの薔薇』

角川文庫 p.179





サハラ砂漠をさまよい歩く一行が、

ようやくたどり着いたオアシス。

しかし、水は干上がっていた……。

絶望が広がるその中で、

シャリファが見つけたのが、

「砂漠の薔薇」。




その鉱物は、

石膏でできたものと、重晶石でできたものがあるそうだが、彼女が拾い上げたのは

おそらく石膏のほうで、

ジプサムローズとも呼ばれる。




石膏の砂漠の薔薇(ジプサムローズ)




永井という人物の行動がまた謎を呼ぶ。

なぜ「砂漠の薔薇」を叩き落としたのか……。



この結晶の美しさの背後には、

見過ごせない事実が隠れており、

物語が進むにつれて読者はその真相に近づいていく。









この小説は、

サハラ砂漠が舞台のミステリー。

主人公・峰は考古学者で、

エジプトで奇妙なミイラを発見した後、

フランスへ向かう途中、飛行機が墜落。

砂漠の真ん中で数名の生存者とともに助けを求めて歩き始める…。




物語はやがて、

国際的な資源開発の問題や、

人間が引き起こした環境汚染といった重いテーマへと踏み込んでいく。

大変読みごたえのある一冊だった。




そして鉱物好きの私にとっては

「砂漠の薔薇」という鉱物が

物語のキーアイテムになっている小説に

出会えて嬉しかった。




心が折れそうになるような状況下で、

「砂漠の薔薇」を見つけたシャリファは、

「ガラスの造花でも扱うように」

丁寧にそれを手に取る。




その慎重な仕草には、

鉱物を宝物のように見つめるまなざしがあるように思う。




鉱物は、

人の心の渇きを潤すこともあるのだ。







私は理想の形状の

重晶石の砂漠の薔薇(バライトローズ)を探しているが、まだ見つかっていない。。

私の砂漠の薔薇はどこに…






砂漠の薔薇(1番上と真ん中)の写真
https://www.photo-ac.com/

赤い薔薇、砂漠の写真