【鉱物言葉集】

ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』

より鉱物に関する言葉







「からしは鉱物だったかしら」

とアリス。


「もちろんそうですよ。」

公爵夫人はアリスの言うことならなんでも同意する勢いで言いました。





ルイス・キャロル

『不思議の国のアリス』

河合祥一郎=訳 角川文庫 p.118





大人がアリスを読むなら、

「なぜ?」は厳禁。




アリスの世界では、

そうなっているからそうなのだ。




でも…気になるのは

なぜアリスは

からしが「鉱物」だと考えたのか。




「からし(mustard)」と

「鉱物(mineral)」は似ていない。

だから、アリスの「聞き間違い」ではない。




ルイス・キャロルが生きた

ヴィクトリア朝時代のイギリスでは、

世界のすべてのものを

「鉱物、植物、動物」

この3つに分類する考え方が広まっていたという。




アリスは、

この3つにわけられることを知っていて

からしはどのグループか

考えたのだろう。




さらに面白いのは、

侯爵夫人がそれに対して

「もちろん鉱物ですよ」と

適当に答えるところ。

実際は、鉱物ではないんだけど…

それを言ったらナンセンス。

それがアリスの世界だ。




このように

意味を重要視しない文学を、

「ナンセンス文学(Nonsense literature)」と呼ぶ。








ふつう、物語には

ある程度の枠組みやメッセージがある。

読者はその筋道をたどり、

物語の世界に入り込むことができる。




でも『不思議の国のアリス』は、

そんな常識的な枠組みを壊している。




たとえばアリスは、

ウサギを追いかけて穴に落ちる。

このときのアリスは落ちたあとの

ことはまったく考えていない。

「どうして落ちるんだろう?」と悩むこともない。




また、

アリスの体は小さくなったり

大きくなったりするが、疑問に思わない。

その理由や意味も、

私たちには

わからないまま物語は進む。



このようにアリスの世界では、

すべてが流れに任されている。

なぜ?と考えてばかりの

私は頭がクラクラしてしまう。

流されてみたいのに、

アリスを楽しむには大人に

なりすぎてしまったのか…




でも、そんな私が

自然に楽しめた場面がある。



理由もなく「首をはねよ!」と

命令する女王に向かって、

アリスが「ナンセンス!」と言い放つ場面。


ナンセンスな女王に、反発。

アリスにはsenseがあるのだ。







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