らぶばなです。14歳のアッシュがもし可愛い黒猫(黒猫英二)と出会っていたら。。。というif設定です。時代設定や内容が原作とかなり異なりますが、ご了承ください。フワッとしたファンタジー系のストーリーですが、お楽しみ頂ければ幸いです。!
「黒猫と14歳のアッシュの出会い(13)」
第十三章:ささやかな希望と約束
翌日、スキップがアッシュの元を訪れた。基本的に彼はアッシュの外出中にグリフの世話するために留守を任されているのだが、この三日間スキップはアッシュがいる・いないに関係なく家にやってきていた。
今日もどこからか集めてきた猫用のオモチャをパーカーのポケットから取り出し、黒猫英二と遊んでいる。
「おーよしよし!ベイビー、こっちおいで! んーお腹すいたのか? ビスケット食べる?」
黒猫エイジに向かって手を広げながらスキップは笑顔で話しかけた。
「みやぁ!」
(わぁい!スキップ、ありがとう。ビスケット大好き!)
手のひらの上のビスケットを舐め、黒猫英二はカリカリと食べ始めた。スキップはまだ子供とはいえ、スラングを使うので残念ながら英二にはほとんど聞き取れていなかった。だが、言葉はわからなくてもスキップは表情豊かなので、かすかに聞き取れる単語を元に、彼が何を言いたいのかは何となく理解することができた。
「よしよし、もっと食べろ」
ニコニコ笑いながらスキップはビスケットを与え続けている。その様子をアッシュは若干呆れ顔で見ていた。
「おいおい、スキップ、そいつをデブ猫にするつもりか? 」
自分でもおやつを与えすぎだと分かっているスキップはバツが悪そうだ。
「やっぱり餌をやりすぎかな?でもこいつ可愛いし。。。つい甘やかしたくなっちゃって」
ペロッと舌を見せた後、スキップは黒猫英二を抱き上げてその艶やかな毛並みを楽しむかのようにゆっくり優しく撫でた。
「あぁ、明日でお別れか。。。寂しくなるなぁ。俺のこと忘れないでくれよ、ベイビー!」
スキップは黒猫英二の頰にチュッと軽いキスを連続でした。
「ーにぃ!」
(あはは!くすぐったいってスキップ!)
目を細めながら黒猫英二はゴロゴロと床に転がった。
「。。。。。。」
アッシュは黒猫英二を観察していた。3日間だけ手元に置くと決めてから、毎夜不思議な夢を見ていた。それはいつも彼を苦しめる悪夢ではなく、もっと生き生きと輝いているものだとはわかるのだが、なぜかその内容は覚えていない。
(何かこの黒猫と関係があるような気がする。。。気のせいか? 俺は。。。疲れているのか?)
***
3日目のその夜、再びアッシュは夢の中で英二と会った。やはり前回と同じ高校のグラウンド上での再開だった。不思議なものでこの夢の中では奥村英二という日本人の少年が黒猫の姿になってNYにいる自分の元に現れたのだということは理解できた。
英二は穏やかに笑みを浮かべた。
「やぁ、アッシュ! 今日は君にたくさん話かけたんだよ?でも猫の言葉だから君には伝わっていないだろうね」
「そういえば、やたらニャーニャー鳴いてたな。スキップが空腹だと勘違いしてたらふく餌をやってたぞ?。。。ちなみに俺に何を話しかけたんだ?」
英二は頭をポリポリと掻いた。
「えーっと、今日はぼんやりしているけど、どうしたの?とか、牛乳はグラスに注いでから飲んだ方がいいよ?とか。。。?」
どこか平和ボケしている印象の英二を見て、彼の住む国がとても安全なのだろうとアッシュは感じていた。だからと言って彼を見下すつもりもなかった。屈託のない笑顔に澄んだ瞳、そしてどこか懐かしさを感じる優しい顔つきに不思議とアッシュの心が落ち着いていくのを感じた。
「ハッ、なんだそれ。。。変なやつ。。。」
「そ、そうかな?」
照れ臭そうに英二が笑う。
「なぁ、エイジ。。。俺と”友達になろう”と直接言ってきたのはお前が初めてだよ。どうしてだ?おまえ、俺を見てたのなら分かるだろう?ロクでも無いやつだって」
「。。。。。。」
英二はしばらく沈黙してアッシュをじっと見ていたが、力強く答えた。
「そんな風に言うなよ。僕はただ。。。君を見ていて思ったのだけど。。。 悪い大人や君を傷つけようとする連中に対して容赦無く強いところもすごいけど、それだけじゃなくて仲間や家族を愛していて、困った子供や僕みたいな小動物も大事にする優しい心をもった子だなと感じたよ」
英二の言葉にみるみるアッシュの顔が赤面していった。
「。。。!!!なっ、な。。んだよ。。。それ!!」
アッシュは自分でもこれほど狼狽えるとは思わなかった。
「ん?どうしたの?」
「おまえ、そんな恥ずかしいこと良く言えるよな。。。」
「あ、照れてるの? 可愛いなぁー」
「か、可愛いだぁ? ふざけんなっ!俺はガキじゃねぇ!」
思い切り子供扱いされてアッシュは怒り出した。だが英二は気にせずマイペースに続けた。
「アッシュは何歳?15、16歳くらい?」
「。。。。14だ」
「え!! こっちの子供って大人っぽいんだね。。。」
大きな目を皿に見開きながら英二はアッシュを上から下まで見た。
「何言ってるんだよ。お前だってジュニアハイになったばかりのガキだろう? そんなアニメみたいな鳥のシャツ着てるし」
「ハァー!? 昨日も言ったけど、僕は高校生! 16歳で君より年上だ!それにこれはノリノリ君と言って、すっごくクールな鳥キャラなの!」
「俺より年上だって? 冗談だろ? そんなシャツを着ていてどこがクールなんだ? ハハハハ!」
「ちょっと、何だよその言い方!!ノリノリくんをバカにするやつは!」
頭にきたエイジがアッシュに掴みかかろうとしたが、ひょいとアッシュは避けた。そのまま更に英二を揶揄うのかと思いきや突然真剣な顔で英二を見つめてきた。
「落ち着け、エイジ。俺に触れちゃいけない。。。昨日みたいに俺たちは触れると元の世界に戻ってしまうんじゃないか? 」
アッシュの言葉に納得した英二は腕組みをしながら頷いた。
「。。。。なるほど、わかった。一旦休戦しよう」
「どっちにしろ明日でお別れなんだ。」
突然 ”明日でお別れ” と言われた英二は首を傾げた。
「何だよ、それ?」
「お前はショーターの知人の家に行くんだよ」
「エー!何だよそれ。せっかく友達になれたのにいきなりお別れだなんて!」
頰を膨らませて不満げに英二は文句を言ってくる。
「仕方ないだろう。俺の家でお前を飼うのは危険なんだ」
「危険って?」
「お前には分からないだろうが、色々あるんだよ。スキップもおまえを気に入っている。俺たちは周りに隙を見せるとヤバイんだ」
完全には納得していない様子の英二だが、アッシュの悲しそうな表情を見て心がざわついた。
「ふぅん。。。そうなんだ。。。でもたまには会えるだろう?」
「あぁ、たぶんな」
アッシュの瞳はどこか遠くを見ているようだった。美しい翡翠色の瞳は、希望や夢なんて存在しないとでも言いたげだ。
「猫の僕は記憶が曖昧だからなぁ。。。目が覚めた時は綺麗さっぱり忘れてるし。。。」
「俺たち、別々の場所で住んでいて、夢を見ている時だけNYで会えるのか?すげーな、さすがは夢だ。何でもありだな」
彼の言葉は嫌味っぽく聞こえるが、その中にどこか純粋な驚きも混じっていた。
「うーん、でもどんどんその時間が減っている。はじめは丸一日猫の姿だったけど、最近は1時間とか30分とか。。。そのうちこの夢や猫になるっていう状態も無くなる気がするんだ」
「その方がいいだろう。猫になれるだなんて方がおかしいんだ。日本という国は平和だと聞いたことがある。おまえにはピッタリだ」
「。。。でも君はちゃんと存在しているんだね。じゃぁ、僕、もっと英語を勉強していつかアメリカにも行ってみたいな。その時はちゃんと人間同士の姿で会おうよ!」
どこまでも前向きで希望を失わない目の前の異国の少年がやたら眩しく見えた。
「ははは、俺が生きてたらな。。。」
アッシュの住む厳しい世界のごく一部しか知らない英二にとって、彼の言葉は単に冗談を言っているにしかみえなかった¥」
「なんの冗談?」
「別に。。。エイジ、棒高跳び頑張れよ」
「うん、ありがとう。。。でも今日のこともすぐ忘れちゃうんだよな!? せっかく君と話せたのに。。。残念だよ。猫になれるのもあとわずかだよ」
シュンと俯いてしまった英二をなぜか慰めたくて、アッシュはできるだけ明るい口調で言った。
「俺は”外の世界”を知らないが。。。お前みたいなやつもいるんだな。クソみたいな世の中でもちょっと面白いと思ったぜ」
「何言ってんの?僕たちはまた会えるよ。もう少し大人になればね。その時まで楽しみにしていて」
英二の笑顔を見ていると、本当にまた会えるのではないかと思えてきた。何の根拠もないが、不思議とそう思えてくる。
「。。。そうだな。生きる楽しみは ”全く無い”よりも ”一つでもあった方がいい」
アッシュは微笑んだ。
「じゃ、握手しよ。その時まで待ってて!」
そう言って英二は右手を差し出した。
「あぁ、待ってるよ」
アッシュも手を差し出して、ガッチリと握手をした。英二の手は思っていたよりも硬く、タコができていた。日々の鍛錬で鍛えられた手だった。
「ありがとう、アッシュ。くれぐれも気をつけて。また会えるのを楽しみにしている」
「またな、エイジ」
二人は握手をして、それぞれの現実世界に戻っていった。
*続*
(あとがき)
お読みいただきありがとうございます 黒猫英二を3日間手元においているうちの最後の夜の話でした。(翌日ショーターが迎えに行く予定)よければ小説へのご感想、リクエスト等お聞かせくださいね。
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