らぶばなです 。こちらは2018年ハロウィンを記念した、バナナフィッシュ二次創作小説の後編です。アッシュの心の救済と原作への愛情を込めて、創作しました。前編はこちらです。
Let's blow bubbles together!(後編)
ー12年前、ケープ・コッドー
日は暮れて、辺りはすっかり暗くなった。この地域の風はいつも強く、森は暗闇に覆われていてカサカサ、ガサガサと木々が擦れる奇妙な音が聞こえてくる。
幼いアッシュ・リンクスは硬くて腐りかけた板の上に膝をたてた状態で座っていた。彼は臆病で、怖いものがたくさんあった。例えばお化けがでそうな暗闇、誰もいない静かな部屋、強風でガタガタと響く音、自分をほぼ相手にしてくれない父などがそうだった。
ビュービューと強風が吹くたびに、彼の背後にある古びた窓が揺れてガタガタと気味の悪い音をたてる。風が彼の体温を少しずつ奪っていく。
『。。。クスン、クスン』
寂しくて涙が出てきた。すぐ後ろの建物には彼が寝るための部屋もベッドがあるが、中に入ろうとせず、玄関先に座り込んでいた。
父親に恋人ができ、離れに追いやられたアッシュは誰もいない部屋に入る気がせず、硬い板に座ったまま腹違いの兄の帰りを待っていた。
もうどれぐらい座っていただろうか、しだいに眠くなり、うとうとしてきた頃にようやく待ち人が帰ってきた。
『アスラン? こんなところで何をしているの?』
優しくも驚きの混じった兄の声に反応し、アッシュは目をこすりながら顔を上げた。
『グリフ!」
アッシュの瞳が輝いた。グリフィンを見ただけで、彼の冷え切った心が温まったがした。
『泣いていたのかい?アッシュ?』
グリフィンは赤くなったアッシュの瞳の端を優しく撫でながら、穏やかな口調でたずねた。
『友達に言われたんだ。僕のお母さんはグリフのお母さんを追い出してお父さんと一緒になったのに、すぐに僕のことを捨てた最低な女だって。。。』
『アッシュ。。。』
『きっと僕のことが邪魔だったんだ。。。だから出ていった。。。』
グリフィンはなんとも言えない表情でアッシュの頭を撫で、部屋に入るよう促してドアを開けた。アッシュはおとなしく後をついていくが、心の中でずっと聞きたいと思っていたことを思い切ってぶつけてみた。
『グリフもお父さんやお母さんと同じことを考えているの?僕に優しくしてくれるけど、本当は僕のことを煩わしいと思っている?離れたいと思っている?』
アッシュは涙に震えながら両腕で自分自身をギュッと抱きしめた。
『そんなはずない!お前は大事な弟だ。。。なぜそんなことを聞く?』
グリフィンは驚き、アッシュの肩をつかみ、彼の顔を覗き込んだ。
『じゃぁ。。。どうして僕をおいて戦争に行くの?』
『アスラン、知ってたのか。。。』
『この間、お父さんと口喧嘩してたよね?それを聞いたんだ。。。』
『。。。手紙をたくさん書くよ。どこにいてもお前のことを想っているから』
グリフィンはできるだけ優しく言い、ハンカチでアッシュの涙をぬぐってあげた。
『。。。。。。』
なんだかはぐらかされた気がしたが、アッシュはそれ以上何も聞けなかった。答えを聞くのが怖かったのだ。
(僕のことが大事なら、そばにいてくれればいいじゃないか。。。)
喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。
それからひと月が経ち、グリフィンが戦場に向かう日が目前に迫った頃、彼は元気のないアッシュにあるものを手渡した。
『ほら、アスラン。今日はこれで遊ぼう』
アッシュの手のひらにはシャボン玉液の入った容器と拭き棒が置かれていた。それを見るなり、アッシュは喜んでその場でなんども跳ねて飛んだ。
『見て、見て!グリフよりも大きなシャボン玉を吹いたよ!』
はしゃぎながら、フウッと一生懸命にシャボン玉を吹くアッシュをグリフは優しい瞳で微笑みながら褒めてくれた。
『アスランはシャボン玉を作るのが上手だなぁ。。。』
『グリフもやってよ。僕に向けて吹いて! 全部潰してやるんだから!』
『ほらっ、いったぞ!』
太陽の光を反射して泡の表面がキラキラと輝いている。いくつもの泡が風にさらわれるように流れていくのをアッシュは追いかけながら、パンチして潰していく。
『エイッ、エイッ!』
この楽しい時間が永遠に続けばいいのにと感じていた。
***
ーハロウィンの夜ー
「アッシュ? 聞いているの?」
英二の声にアッシュはハッと我にかえった。彼の口から ”ケープ・コッド”という言葉を聞き、グリフとの思い出が鮮明に蘇ったのだ。腕組みをして天井に視線を向けていたアッシュを見て、英二は何か起きたのかと心配し、声をかけてきた。
「あ、あぁ。。。ちょっとボーッとしていた、悪い。。。それで、兄貴の部屋に行った時だと言ってたな」
「うん、引き出しからお兄さんの手紙と写真が出てきただろう?あの時、僕はネズミに驚いたけど。。。引き出しに吹き棒と小さな容器が入っていたことに気づいたんだ。なんでこんなところにシャボン玉のセットがあるんだろうって気になっていたんだ。。。」
見た感じ、シャボン液はほとんど入っておらず、吹き棒も壊れかけていた。英二はこの不自然な組み合わせがなぜか心にひっかかっていた。
「きっとさ、アッシュとの思い出を大事に取っておきたかったんじゃないかな? お兄さんは君のことを本当に愛していたんだよ」
「。。。」
アッシュはすぐに頷くことはできなかった。
(兄貴は故郷と自分から逃げたかったのでは無いか)
漠然とした不安が今もずっとくすぶっていた。戦争に行く前のグリフに嫌な質問をして困らせた記憶がある。
父親の女癖の悪さ、ろくでなしの母親がしたこと、それらはほとんど周囲の噂話であったが、巡り巡ってアッシュの耳にもちょくちょく入ってきていた。
いまも思い出すと息苦しく感じられる。
「正直分からない。。。俺の存在がグリフを苦しめてきたのではないかってずっと思っていた。。。腹違いの弟への同情心で優しくしてくれていたのかも。。。それでも俺は構わなかった」
「アッシュ。。。」
英二は膝を床についた状態で、アッシュと向かい合い、彼の肩に触れた。
「あの狭い世界では色々と言う奴もいるし、息苦しかったと思う。グリフは俺の母親のように逃げたくなって。。。俺から離れたくなったのではないかって」
小さな田舎で弟を一人で育てるのは無理だ。親からの資金援助も期待できない兄は少しでも金になる仕事をと思い、戦場に向かったのかもしれない。そう思うことで自分の心を慰めてきた。
ようやく兄と再会した時、BANANAFISHを投与されたその姿を見た時、もはやその答えを聞くことは不可能だと悟った。
「ばかだなぁ、そんなわけないだろう?本当の理由は僕にも分からないけど、お兄さんが君を愛していたのは確かだよ。君と過ごした時を忘れたくなくて、大事にとっておきたかったから引き出しの中にそっとしまい込んだのさ。そんな優しい人が君のことを愛していないわけがないじゃないか。」
(兄貴が俺を愛してくれていた。。。)
アッシュにはグリフの愛情が嘘だったとは思えなかったが、それでもジリジリと負の感情が背後から押し寄せてくる。生い立ちに自信が持てず、自分の存在価値なんて、せいぜいだらしない下半身の大人を喜ばせるだけのものだと思い込んでいた。
「君とシャボン玉遊びすることで、お兄さんとの大事な思い出を共有できたらいいなって思ったのさ。ちゃんと一緒に遊んだことを覚えていたじゃないか」
「あぁ。。。そうだな。でもグリフはもういないし、俺自身はとっくの昔にクソみたいに汚れちまっている。。。 ディノ達にいつ狙われるかもわからない状態だ。。。まぁ、殺されるのを静かに待つほど俺は大人しくないが。。。時々思うよ、俺の生死はシャボンの泡みたいに儚くて脆いものだなって。。。」
過酷な環境の中で耐え忍び、かつて自分を愛してくれた兄を保護してきたが、彼はもうこの世にいない。その兄を救えなかった英二にはその言葉が胸に突きささった。
(非力な自分にはアッシュを敵の攻撃から守ることはできないかもしれないけど。。。お兄さんの代わりにはなれないけど。。。それでも僕はアッシュの心を守りたい。。。)
「君は出会って間もない僕の命を助けてくれた。。。本当に汚れた人間ならとっくに見捨てているはずだよ。どんな辛い状況でも君は諦めずに精一杯抗おうとしている。。。生きようとしている。。。そんな君を見ていて、僕も変わらなくちゃって思った。本当に君には感謝している」
「英二。。。」
「日本のオニイチャンが保証する!アッシュ・リンクスは強くて優しくて賢い立派な人間だって。。。! 君が寂しく感じなくなるまで。。。心から楽しく感じられるようになるまで、何度だって一緒にシャボン玉を吹いてあげる。。。覚悟しておけよ、君が弱音を吐いたら、また全身泡まみれにしてやるぞ」
英二はバブルガンを手に取り、アッシュに吹きかけるそぶりをみせた。
「勘弁してくれ。。。納豆、カボチャの次はシャボン玉かよ。。。」
苦笑しながらも、アッシュの表情はとても穏やかなものに変わっていた。全ては、英二なりの不器用な愛情表現だったのかとようやく理解できた今、アッシュは泣きたいぐらいに目の前の存在が愛おしく頼もしく感じられた。
(俺を救ってくれたのは、お前の方だよ。)
アッシュにとって、英二は兄弟でも恋人でもなく、友人や親友というカテゴリーに当てはめるのも少し違う気がした。それが何なのかは分からないが、分かっているのはたった一つ。この奇跡のような存在のおかげで、自分は生きていられるのだと感じていた。
「今度はもっと大きな泡を作ろうぜ!人がはいるぐらいの!また競争しよう!」
「はいはい。オニイチャン、楽しみにしているよ」
次回もまたくだらない勝負をするのかと呆れながらも、アッシュはごく自然に破顔していた。
***
夜中、部屋に響く電話の音でアッシュは目が覚めた。オーサーとの勝負の時がやってきたことを告げる電話だ。
(とうとう連絡が来たか)
電話を切った後、フローリングの上でいまだ心地好さそうに寝ている英二を見て安堵した。先ほどまで幸福感で満たされていたが、突然やってきた現実に目を向けなければいけなかった。
(嫌いだなんてわけがない、本当はずっとそばにいたいさ。でもお互いの未来のために。。。必要な判断をしただけだ。。。)
アッシュには自分を置いて戦場に行った兄がどんな心情だったのか少し理解できた気がした。置いていかれる側の気持ちもわかってはいたが、あえて考えないようにした。迷うと決断ができず、前に踏み出せなくなってしまうからだ。
英二の背中に向かって膝をつき、しばらくそのまま彼をみていた。アッシュは瞳を閉じ、彼の背に向かって誓いのことばを心の中でつぶやく。
(俺は必ず勝ってみせる。おまえを絶対に守る。そのためにオーサーを、ディノを倒す。もし俺が生き延びることができたら、その時はまた。。。)
英二の黒髪に触れて艶やかな髪先にキスをし、それからシャボン玉の吹き棒を二つ彼のそばにそっと置いた。
顔を上げたアッシュにもう迷いはなかった。
「おまえたち、起きろ。。。」
そして近くで仮眠をとっていた子分たちに声をかけた。
ハロウィンの夜、大事な友人とささやかな期待を部屋に残して、アッシュはアパートを去っていった。
*終*
今回の創作ではシャボン玉を通じてアッシュの心の救済を目指してみました。長文になってすみません。元々は、2歳の息子がシャボン玉にハマっているのですが、やってみると結構楽しくて。。。周囲にも子供達が集まってくるし、「もっと大きいの作って!」と期待したキラキラした目をみるともうたまらない。 大きめの泡ができると子供は大喜びです。アッシュにもこんな思い出があったらいいな。。。 グリフが去って寂しかっただろうな。でもグリフや英二はちゃんと君を愛しているよと伝えたくて今回のお話を創作しました。時間がなくて睡眠を削っての創作は辛かったですが、BF愛で乗り切りました。。。誤字脱字、設定の矛盾などご容赦いただければ幸いです。
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