扉が開き、月龍が現れた。
振り返ったアレックスのやや怒り気味の表情と目の縁が赤い英莉を見て、何かが起きたことを瞬時に悟った。
「。。。」
中には入らず、二人を仰視したまま月龍は立っていた。
先ほどまでの穏やかな空気感がやや緊張味のあるピリリとしたものに変りつつあった。
アレックスはギロリと強い視線を送り、まるで喧嘩をふっかけるかのように勇ましい口調で言う。
「なにか用か? そんな所で突っ立ってんじゃねぇよ」
「別に。。。ちょっと騒がしいからどうかしたのかと思ったよ。あぁ、仲良くしているところを邪魔して悪かったね」
アレックスの下心を見透かしたかのように可笑しそうに笑う月龍。落ち込んでいる英莉を慰めるだけのつもりが、それ以上のことを求めてしまったことをアレックスは自覚していた。それだけに月龍のセリフが忌々しく、彼は視線をそらしながらも舌打ちをした。
「チッ、そんなんじゃねーよ」
フッと冷めた笑みを浮かべたまま、月龍はアレックスに問いかける。
「シンを見なかったかい?」
”シン”という言葉に 動揺した英莉の肩がわずかに震えた。月龍は目ざとくそれに気づいた。
「。。。しらねーよ! てめぇで探しやがれ」
アレックスは英莉に向けられた月龍の視線を嫌がり、わざとそっけなく答えた。
「そう、じゃぁ自分で探すよ。。。ねぇ英莉、どうかしたの?」
「え?? 私。。。」
どう答えてよいか分からず戸惑う英莉を庇うように、アレックスが彼女の前に立ちはだかった。
「いいからお前はシンのところへ行けよ。あいつのことを探しているんだろ? いつもシンとべったりだもんな。。。。まるであいつがいないと何にも出来ねぇみたいだ」
アレックスも英莉とシンの間で何が起きたのかはハッキリ分からない。だが彼女がシンのことを好きなのはずっと前から感じ取っていた。そして恐らくシンのせいで英莉は傷ついて苦しんでいる。
これ以上英莉を傷つけてたまるものかと、アレックスはやや興奮気味に月龍を睨みつけた。
月龍は冷静さを保ってはいたが、シンとの関係について言及してきたことが気に入らないようで、顔から笑みが消えた。
「。。。何が言いたいの? 彼は大切な友人であり、大事なビジネスパートナーでもある。嫌でも一緒に行動することが増えるさ。アッシュと英二だっていつもべったり引っ付いて友情ごっこしているだろう?彼らの方こそどうかしていると思うけど?」
「おまえ、、、ボスと英二をバカにするのか?」
アレックスは拳を硬く握りしめた。その手はブルブルと震えていた。
「そんなつもりはない。僕たちのことをどうこう言う前に、身近にいるアッシュと英二にどうして言わないのか不思議に思っただけさ」
怒りでアレックスの顔が真っ赤になっていく。英莉はハラハラと二人を交互に見る事しかできなかった。
「。。。」
(どうしよう。。。喧嘩とかになったら。。。シン、助けて。。。)
どういうわけか、英莉は心の中でシンに助けを求めてしまった。
アレックスと月龍のにらみ合いは続いていた。月龍に手を出すと問題が大きくなることくらいは理解していた。だからといって、尊敬しているアッシュは大事な仲間をバカにされることは許せなかった。
「ボスと英二は親友同士だ。あいつら二人は。。。全く対等な関係なんだ。アンタとはちがって。俺にはアンタがシンを都合良く扱っているようにしか見えないぜ」
対等な関係でなければ友と見なされないとアレックスに言われているようで、月龍は下唇を噛んで睨みつけた。
「シンは仕方なく僕といるとでもいいたいのかい?」
「お前も知っているだろう? 英二は。。。俺たちと全く違う種類の人間なのに、自ら命をかけてアッシュを守ろうとゴルツィネの元から奪い返そうとした。だけど、アンタはどうなんだよ?体を張らず、いつも傍観しているだけじゃないか。いつもシンやブランカに守られるくせに、自分では動かない。俺はそう言うところが気に入らないんだ。」
「”力づく”でないと納得できないのかい? 人には向き不向きがある。僕は僕なりにできることをしてきた。まぁ、君にどう思われようが僕は構わないけど」
ますます険悪なムードになる二人に英莉は耐えきれず、アレックスの腕を掴んで振り返らせた。
「ね、もうやめなよ、アレックス。二人が言い争うところなんて見たくない」
アレックスは戸惑いながらも、まだ冷静になりきれていない。
「でもよ、こいつが。。。色々と邪魔しているようにしか思えなくて。。。」
アレックスは【シンと英莉の邪魔をしているのはおまえだ】と言いたかったが、英莉を傷つけたくなくて口にすることは出来なかった。
戸惑うアレックスを見て、月龍は確信した。
「そういうことか。シンはそう言う事何も話してくれないからね。エリ、目が少し腫れているよ。シンと何かあったの?」
「!!」
ハッキリとシンの名前を出され、英莉は胸がズキンと痛んだ。呼吸ができずに息苦しい。苦しさから英莉は思わずギュッと目を強くつぶり、何かに耐えるようにブルブルと震えだした。
その様子を見たアレックスはとうとう完全に頭に血がのぼり大声で月龍を怒鳴りつけた。
「てめぇ!!ふざけやがって!!」
アレックスは月龍に詰め寄り、彼の細い腕を勢い良く掴んだ。今にも殴りそうなアレックスを止めようと英莉も思わず叫んだ。
「やめて! アレックス!」
*続*
どちらもそれぞれ立場があって、言い分もあるので どっちの味方をしていいのやら(笑)
ちょっと意外な組み合わせのバトルかもしれませんね。
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