焚き絞められた 香のかおる室内
その暗く 甘美な空間とは不釣り合いな
外から聞こえる 祭りの喧騒
畳の縁が
目の前の異空間と
日常を 分ける
境界線の様で
その縁を 越えられず
障子の手前で
立ち尽くす
『 ここまで おいで 』
室内の 奥
闇の中に
その人は居た
闇に慣れ初めた目に
シルエットだけだった人の影は
輪郭をあらわに見せ始め
『 残念だけど
この屋の血縁で
唯一残れそうなのは
お前 だけ… 』
静かな声で
『 だけど お前は
それを 望まない… 』
歌うように 語る
影
『 …泣いていたのか? 』
影が普通に 話しかけるので
臆せず 問うた
…ずっと 聞こえた
寂しげな
声
その主なのか?
問いに答えぬまま
影
『 …いいものを
見たくはないか? 』
影が
手招く
畳の縁
踏み越えよう…
…行っては なりません…
頭の中
乳母の声
動きが止まる
影
『 そうか …やはり お前か 』
突然
闇に 体が包まれる
障子の閉ざされる音
室内に
異空間に
入ってしまった
否
連れ去られた
影の居た
室内の
闇の中に
影は
美しい 姿かたちをしていた
その
腕の中に
抱かれている
眠れぬ夜
乳母が
してくれるように
影が
顔を撫で
眺める
『 …お前は 私 』
祭りの喧噪も
もう
届かない
――――――――
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