「…そういう事なら
君に飲ませない方がいいのか?」
低音ボイスの
僕を
痺れさせてた威力が
飲酒のせいで
効かなくなったと
知るや
建て前ではなく
本音の部分
口にして
早速
僕の前から
カクテルの
まだ残っているグラス
すっと
取り上げると
自分の方
に寄せて
「…君は水を飲みなさい」
そう
言いつつ
僕が開けたデコラティブな瓶
寄こしてきた
から
…まぁ
そう指示されれば
そうしますけど
と
差し出された瓶
手に取り
言われた通り
口を付ければ
いわゆる
ラッパ飲みする僕の事
じっと見てくる客
その視線の中に
何かしらの期待感
感じ取れるから
少しだけ
意識が傾向する
他のテーブル席でも
その手の話題で
ハラスメント的にアウトなやり取り
うまく回避しながら
キャストが盛り上げているのを
今の僕が参考にするなら
客の期待に応え
舌を見せ
注ぎ口を舐めて見せる
パフォーマンス
くらい
…ぼくも やるべきか?
と
挑発する行為
軽く酔った今なら
抵抗なくできる
…からとて
そういう要員ではないと
自分の立ち位置
ちゃんと理解できているから
へれっと笑って
なにもせず
口を付けた瓶
テーブルに戻して
…さて
飲み食いする訳でもない
この宴会場で
僕は何をして盛り上げればいいのやら
と
早速
途方に暮れていれば
「…静かに飲む…ってのもいいもんだろ?」
僕の
盛り上げ不足をフォローしてか
もう
僕には効かない
低音のビブラートで
問うてきた客
彼の声を
何度耳にしようとも
襟足への痺れる感覚
皆無で
あぁ…ホント
酔いって
体の機能が鈍くなるんだ
と
今更のように
感心しつつ
客に対して
無敵になった気分から
そっと
控えめに
ぐっとこぶしを握って
小さく息を吐けば
びくびくしなくなった僕に
当然
客側は
面白くないのだろう
ならば
せめて
美味い酒で
自分が酔うかぁ…って
腹をくくったか
度数の高いカクテルを
ぐいぐい
飲み干し始め…
つつも
流石に抹茶は甘いのか
進まない様子から
彼の持つ
グラスを覗き込めば
「それ…底に沈んでいるのって?
今や懐かしい もちもち触感の?」
黒い粒々
まさか?と
隣から
チャチャを入れれば
「ん?…いや…これは多分…」
そう言いつつ
グラスをくるくる
回し
紙…ではないストローで
底に沈む黒い粒
すくい上げて
客が
僕に見せてくれたのは
「…小豆?」
抹茶に小豆…って
和菓子テイストなカクテル
「餡子ならそりゃぁ甘いかぁ」
と
どうでもいい話で
ひとつのグラス
二人で眺めながら
客が
最後の一杯
飲み干すのを待たずして
「…どうしようか?
この辺
片付けてもらう?
おかわりするってのも有りだけど?」
サポートの黒服
常備していないテーブルだと
席についてるキャストが
てきぱきとこなす
美観の維持
酔いたい様子の客に
その意思を語らせる格好で
問えば
「…あのぉ…さぁ
こういう場所で
君の作品
もう一度…
全部って事ではなく
部分的に…でも
…見せてもらうってのは
ルールとか分からないから
聞くんだけど…可能…なの?」
相変わらず
低音で
囁くような声のまま
客が
僕がここに居ていい理由ともいえる
作品鑑賞を
申し出て来た
つづく