2020年2月1日。これはまだ、新型コロナウィルスが全世界で猛威を振るう前のお話。
日本でも感染者は数名、自粛ムードは無く、まだ大規模なイベントも普通に行われていた頃である。
大阪は京橋のラストファイトで、第14回BAM★BAM★CUPが開催された。
最近では、テレビを開けば即コロナ、新聞を見れば即コロナ、スマホを開けば即コロナ。
果ては、オーバーシュート、ロックダウン、クラスター。何かの必殺技みたいな単語が、嫌でも毎日耳に侵入してくる。
 
日々現場で従事されている医療関係者の方や、とんでもないプレッシャーの中で治療薬やワクチン開発を試みている研究員の方には頭が下がる思いでいっぱいである。個人的にはさっさと日本中で2~3ヶ月くらいロックダウンかまして、政府はせっせとその間の休業補償をして、日本一丸となってベタオリすべきだと思うのだが・・・法律や諸問題もありそう簡単にはいかないのが現実か。
 
さて、間違いなく世界史の教科書に載る一連のコロナ騒動の片隅で、ギリギリ日本史の教科書に載るかどうかの第14回BAM★BAM★CUPの決勝の様子をお伝えしたい。かなり遅くなってしまったが、皆様の手元にお肉券が配られる前にお伝えができて良かった。
(って言っているそばから、政府は対象を絞って現金配るって表明しましたね)
 
2016年に産声をあげたBAM★BAM★CUPには、一つの夢があった。
それが今回の、大阪開催である。
これまでBAM★BAM★CUPは、皆様と一緒に色んなことを乗り越えてきた。
 
1日に5回役満(しかも全部違う役満)が出たことがあった。
家から持ってきた優勝盾が割れていたこともあった。
「ぶんちゃんへの質問タ~イム!」で、参加者の方が2軒リーチを受けている最中にも関わらず強制的に豊後葵に何か質問をしなくてはいけない地獄のようなイベントがあった。
で、参加者を後ろからつんつんしていたぶんちゃんの右手に持っている手が、つんつんし過ぎて折れたこともあった。
女流プロがひしめく中、ビンゴ大会で巨大なTE〇GAが放出されたこともあった。
どうしてこう、4年間本当に色々あったのに、出てくる想い出はろくでもないものばかりになるんだろう。
 
気を取り直して、初の関西遠征の様子をお伝えしたい。
ゲストはこのかた、最高位戦日本プロ麻雀協会所属、木崎ゆうプロ(写真右)。
なんかTEN〇Aの話の後に申し訳ない。
左の方と同じ元『More』であり、第20期女流名人戦で優勝、夕刊フジ杯争奪麻雀女流リーグ2020個人関西予選1位通過、パチスロから競馬と趣味も幅広く、実力と人気と顔を全て兼ね備えた女流プロである。
やはり西日本での開催は、西日本のスーパーゲストで迎え撃ついうのが礼儀というもの。
 
そしてなんと、日本プロ麻雀協会の会田日和プロ(写真左)がプライベートで参戦してくれた。
多忙を極める中、大事なオフの日をBAM★BAM★CUPに充ててくれるとか、控えめに言ってただの神様である。
 
参加者の皆様も、大阪の方だけではなく、京都、和歌山、兵庫、奈良、愛媛、九州と、遠方含めて実に多くの地方からご参加戴いた。また、黙っていればまた東京でも開催することも分かっていて、応援の気持ちでわざわざ朝早く新幹線で東京から移動して参加戴いた猛者の方も多数いらっしゃった。
マジメな話、運営一同この場を借りて皆様に厚く御礼を申し上げたい。
私の写真加工能力が低いせいで、ところどころ写真の左下に「ULIKE」の文字があるのは見逃して戴きたい。
 
そして、決勝卓に残ったのはこの4人。
まずは1位通過、BAM★BAM★CUPと言えばこの人、ご存知シンUさん。
2位通過、3回戦で91600点を叩き出したきよぴさん。
3位通過は、お名前からして関西代表、まいどさん。
4位通過は、楽しく打てば全員勝者、いつもにこにこゆきまるさんである。
予選のポイントは関係なく、決勝戦のトップ者が優勝となる。
起親から、きよぴさん、ゆきまるさん、まいどさん、シンUさんとなった。(以下、敬称略とします)
奇しくも、東京からの遠征組きよぴ、シンUと、西の刺客ゆきまる、まいどの構図である。
 
東1局、まずは関西代表まいどが挨拶代わりに軽く仕掛けてきよぴの親番を流す。
4677m556677p チー768s ロン5m ドラ西
東2局、親番のゆきまるが少考の後リーチを宣言した。
両面ながら、自身で3枚使っていることが不満と言えば不満か。
3444556p123678m ドラ5s
その陰で、上家のきよぴがとんでもない数のドラを抱えていた。
5sをツモって暗刻にしたところで、リーチの一発目に何を切る?
123m555666s357p56m ドラ5s
対親リーチと言えど、通っていない筋が多すぎる上に、自分の手が十分な勝負手であるため、3pか7pを打つと思っていた。
しかしきよぴは違った。柔らかく中筋の6sを切り、最後にピンズを勝負する形に構えたのだ。
 
結果、宣言牌の7pで放銃してしまったが、きよぴの柔軟さを受け取った。
親リーチに打ってしまった形のきよぴだが、次局すぐに、メンピン赤ドラで復活を果たす。
456p234456s99p78m ロン6m ドラ6p 裏中
東3局、テンパイしたゆきまるが、打点を求めて両面に受けず北と三のシャンポンに構えた。
33m234p西西西北北678s ドラ5p
だがここでも、リーチの現物4sを鳴けたきよぴが、オールスター満貫をアガリ切る。
きよぴのこの捨牌では、シンUの4m放銃も致し方ないか。
45566m456p55s チー423s ロン4m ドラ5p
しかしきよぴの手には、よくドラが入る。
 
連続満貫でリードを果たしたきよぴ。このままきよぴに走らせる訳にはいかないゆきまる、まいど、シンU。
東1局に2000点をアガって以来、静かにしていたまいどが、カン2pを入れて147sのピンフ即リーチを入れた。
 
丁寧に対応する3人。
あっさりと7sをツモって裏を乗せ、1300・2600のまいど。
きよぴの独走を許さない。
23456789s12377p ツモ7s ドラ9m 裏2s
ここまで、シンUが大人しい。
全く手も入らず、他3人のドンパチを冷静に眺めているのみである。
 
シンUは、BAM★BAM★CUPにおいても第1回、9回、10回に続く4回目の決勝である。
記念すべき第10回大会では優勝も果たしており、表彰式の壇上で
「優勝という結果はとても嬉しいです。けれども順位などは本当はどうでも良くて、ここにいらっしゃる皆様とワイワイ楽しく麻雀を打てることが、何よりの幸せだと私は思っています。」
という珠玉のコメントを残している。
 
その実力は疑いようもなく、今回も遠く東京から遠征組での決勝進出である。
このまま座して死ぬつもりはない。
 
しかしまたしても、ゆきまるから25s待ちの早いリーチが入った。
ゆきまるも丁寧な手順で、テンパイを入れるのが上手い。
123456p1134678s ドラ8p
対するシンUはリーチが入った時点でこの形。
223458p45m23789s ドラ8p
ドラの8pがポツンと浮いており、リーチに打ちづらい。
 
しかしここからがシンUの本領発揮である。
あの手牌からたった3巡。引き寄せた6pと共に、シンUの手が開かれた。
2234578p234789s ツモ6p ドラ8p 裏西
メンピン一発ツモドラの2000・4000。
やはりこの男は恐ろしい。
 
南2局、そろそろ各家がトップを意識した打ち方になる。
きよぴの5巡目が難しい。
123s123p134556m東東 ドラ中
現状、34100点のトップ目。既に自身の親番が無い事を考えると、大きな加点が欲しい。
一方で、あと3局何事もなく流してしまえば優勝、という気持ちもある。
 
1mを切ってピンフとするか、5mを切って三色に構えるか。
少考の末、きよぴは静かに1mを離した。
 
全体的に萬子はやや高く、またドラの中も見えていないため、中盤以降押し返された時にカン2mではやや弱い。
そう考えたのだが、無情にも直後にゆきまるから2mがツモ切られた。
 
47mが中々姿を見せず、他家の手だけが進んでいく。中盤から終盤に差し掛かった。
ここで熱くなってもおかしくないところ。しかしきよぴは冷静に、ドラの中をつかんでピンフテンパイの手を崩した。
この押し引きが、ファイナリストの風格を感じさせる。
結果、ゆきまるの1人テンパイで流局。
 
きよぴが33100点、ゆきまる、まいど、シンUがそれぞれ2万点台前半。
ドラポンで抜け出そうとしたシンUを、まいどがダブ南のみで咎めた。
11345m34s666p ポン南南(南) ロン2s ドラ7s
南3局、親番のまいどにズルい手が入った。
3巡目チートイツ西待ちリーチ。西日本代表の西である。(言いたいだけ)
これに対子落としで同じく西日本のゆきまるが飛び込み、裏裏で12000。
北北西東東99s33p22m66s ロン西 ドラ4p 裏西
ゆきまるの放銃は仕方がなく、むしろしっかりとした守備を見せた故に12000点の失点となってしまった。
南3局、親番もなく11600点持ち。絶望的な状況に立たされたゆきまるの目は、しかし死んでいなかった。
112456m2477p白中中 ツモ3p ドラ7p
ドラドラ赤で役牌入り。カン3pを入れ、絶好のイーシャンテン。
これをアガれれば、優勝に望みを繋げられる。自然と息も深くなった。
 
チュン出ろ・・・!の想いもむなしく、きよぴから良い形の両面リーチが入り、まいどがつかんだところで、ゆきまるのBAM★BAM★CUPは終わってしまった。
123345s11555p78s ロン9s ドラ7p 裏1p
オーラス。トップはきよぴの41100点。2着はまいど、26900点。
ハネツモ満貫直撃で逆転である。
 
満貫はともかくハネマンは、狙っても正直そんなにできるものではない。
まず配牌に左右されるし、一発や裏ドラに頼らなくてはいけないケースが殆どである。
 
注目のまいどの配牌・・・は、なんとドラ5枚内包で、一発や裏ドラどころか仕掛けても条件を満たす。
南3s2567m555667p中 ドラ5p
あとは丁寧に手牌の手綱をひくだけだ。
 
しかしここで流石のシンU。
門前で高打点を仕上げたいところ、不穏な空気を察知したようにチーして1000オールでまとめた。
卓上に落とされる息、がっくりのまいど。
567888s4588p チー423m ツモ3p ドラ5p
にじり寄るシンU。逃げ切りたいきよぴ。
そして、第10回優勝者シンUがついにきよぴのテンパイ打牌を捉えた。
34589m123789p44s ロン7m ドラ8s 裏8s
さあ、あと一歩だ。既にきよぴの表情からは、余裕が消えている。
シンUは眼鏡の奥で、熱く卓上を見据えていた。
まいどとゆきまるも、いま自分にできる最高の手を必死に探している。
 
世の中は、新型コロナウィルスという未知の脅威に晒されている。
少なくとも私は全世界がここまで心を一つにして何かに取り組もうとしている姿は初めて見るし、これからも多くあるものではないと思う。
 
それに比べたら、瑣末な世界かもしれない。歴史の教科書に載ることもない。
それでも、この小さな卓上で東日本と西日本の心を一つにして楽しさと真剣さを分かち合ったこの決勝戦を、私は忘れない。
最後の力を振り絞ってリーチに踏み切ったゆきまるとまいど。
どうしてもあと1牌がひけず、テンパイを入れられなかったシンU。
 
丁寧にオリ切ったきよぴが、第14回BAM★BAM★CUP覇者に輝いた。
いま世間では、ご存知の通り次々とイベント中止・自粛に追い込まれている。
今回のBAM★BAM★CUPも、あと数週間遅ければ開催できなかったかもしれない。
 
先が見えない状況だが、こうしてみんなで楽しかった思い出を共有して、またみんなで楽しめるように、いまは精一杯我慢をしようと思う。
藤原哲史 記