我が家であるクライスト・チャーチの学寮から出たところで声をかけられた。
「チャールズ、今晩私の家に来ないか?娘たちが君に会いたがっていてね。」
学寮長のヘンリー・リデル氏だ。
数年前に妻子と共に転任してきた彼は、自覚ある変わり者の僕にとっては、数少ない親しい友人の一人だ。
彼には3人の娘がおり、僕を慕ってくれているのだ。
僕は11人兄弟の長男で、姉が2人と妹が5人いるため幼い少女との付き合い方に慣れていたこともあり、彼女たちととても仲がよい。
「ぜひ行かせてもらうよ。僕も彼女たちと遊ぶのが楽しみだよ。」
そう言いながら僕は思案を巡らせた。
彼女たちとの遊びは、もっぱら僕が創作した御伽話を聞かせることなのだ。
そして僕は夕方まで頭を悩ませることになるのだった。
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ある晴れた夏の日、リデル氏の3姉妹とボートに乗っていた。
そこでも御伽話を要求された僕は、次女を主人公にした話を作って聞かせた。
以前、彼女と森に出かけた時に兎の巣穴を見つけたので、そこを出発点にして不思議な世界を旅する話を即席で作ったのだった。
話し疲れて「あとはこの次。」と言う僕を「いまがこの次!」と急かす姉妹たちはとても可愛らしくて、僕は結局最後まで頭と口を酷使してしまうのだった。
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あの夏の日にした御伽話を彼女―主人公たる次女である―が「ご本に書いてね」と言っていたので、僕は文章に起こし、挿絵を描いて翌々年のクリスマスにプレゼントした。
「親愛なる子へのクリスマスプレゼントとして、夏の日の思い出に贈る」と添えたその本を喜んでくれた彼女は12歳になっていた。
ある日リデル氏の家を訪ねると、彼女は母親と言い争いの最中だった。リデル氏曰く、「そろそろ反抗期なのかもな。」だそうだ。
嗚呼、彼女も少女から娘へ、そして女性へと変わっていくのだ。
至極自然なことだと理解しているつもりだが、どうしようもなく寂しくなった。
(ここで述べておくと、僕は大人の女性というものが苦手であり、少女が好きだ。
というと勘違いされるのだが、まず僕は純然たるヘテロであり、かつ少女に対して抱くのは友愛の情だけなの だ。
彼女らは僕の友人であり、少女愛者なぞには嫌悪どころか憎悪すら抱くのである。)
この頃から僕は穴を掘るようになった。
孤独な兎のように、
心の穴を埋めるように、
穴を掘る日々。
昼間は普段通り過ごし、夜になると森に入る生活を続けていた僕の穴はもう覗いても底が見えなくなっていた。