久しぶりに彼女と2人で森を歩いた。
姉のロリーナはもう僕について遊ぶ年齢でなくなったし、妹のイーディスは森に入るにはまだ幼かった。
僕らの話題も、もはや御伽話ではなくなった。
歳月がすべてを変えた。
歳月はいつか、あの夏の日すらも「忘れろ」と彼女に囁くだろう。
この先の彼女の青春に、僕なんて登場することすらないだろう。
そしてきっと、僕の愛しい少女も歳月が連れ去っていくのだろう。
……………
「ねえ、この穴はなにかしら?随分大きいけれど…。」
気がつけば僕らは森の奥の穴の前にいた。
なにかの巣穴のようなこの縦穴は、僕が夜毎掘り続けたものだ。
「これは兎の穴だよ。前にも見たろう?」
「前に見たのはもっと小さかったわ。」
「いつかしたお話の兎の穴は女の子が入れる大きさだったろう?」
「あれはお話だもの。
……でもこの穴は私くらいなら入れてしまいそうだわ。」
彼女の好奇心だけはどんな歳月をもってしても衰えないらしい。
「すこし覗いてみようかしら。
ねえ、押さえていてね?絶対に放さないでよ?絶対よ?」
念を押しながら身体を傾ける彼女の肩に手を掛けたまま、僕は言った。
「初めて会った頃を覚えている?
小さかった君がこんなに大きく成長したなんて、僕はとてもうれしく、そして寂しく思うよ。
もうすぐ少女の君には会えなくなってしまう。
君が永遠に少女でいればいい。
いや、君は永遠に少女であるべきなんだ。」
「ごめんなさい。よく聞こえないわ。
ねえ、もう少し私を前に出して。暗くて奥が見えないの。」
そう言って彼女は前進するべく身を捩った。
「さあ、冒険の始まりだよ。
いってらっしゃい、アリス。」
そう言って僕は
そっと彼女の肩から
手を放した。