フジタとお弁当とラムカレー。
宿泊先を探す時、俺は基本的に朝食付きのところを選ぶようにしている。素泊まりの方が安いけど、チェックアウトしてから朝食の店を探すのも最近は億劫だし、バイキング形式の朝食をあれこれ摂るのは楽しい。だから、「パンとコーヒー」スタイルのところではなくて、ある程度料理を出してくれるところを探すようになった。そもそも、最近は自宅でもオカズ多めの朝食をしっかり摂っているので、生活パターンとして違和感がないというのもある。最初はパンと洋風スタイルで組み合わせ、食べてるうちにご飯も補充されたので和食も楽しむ。うちではしらすおろしなんかまず作らないから、こういう時に堪能する。スクランブルエッグと雷どうふを並べて食べたり(笑)やりたい放題だ。そういえば同席していた人たちは、なぜか二十歳前くらいのお嬢さんと親御さん(お母さん)の組み合わせが多い。チェックアウトの時に見かけたのだが、何かのパック旅行の宿泊先になっていたようだ。俺のようなオジさんをほとんど見かけなかった。外に出るとやはり暑い。友人たちはこの日も出店している。壮健と繁盛を祈るが、今日は別行動することにしている。そういえば、と思い立ち、献血ルームに足を向けた。数年前はもっと医療施設っぽい場所だったのに、びっくりするほど洒落た場所になっていた。東京すげえなあ。出てから気づいたのだが…これで3ヶ月次の献血ができないんだよなあ。人口比率を考えると、むしろ地元でするべきだったかも(苦笑)。まあ、他の自治体の公共施設を利用する機会なんてほぼないわけだから、これも興味深い体験ではある。それにしても居心地のいい場所だった。まだ昼前とはいえ、移動先を考える。基本的には上野公園まで行って、現地で開催している催し物を見ていこうというのが定番になっている東京での過ごし方だ。とりあえず山手線で上野に。上野駅もずいぶんきれいに改装されている。前回から何年も経っているから、というのもあるけど、本当に東京は景観や佇まいの変化が著しい。人の流れに沿って恩賜公園の石段を登る。昨日は涼しいとさえ感じたのに、慣れてしまったのか今日は格別か、暑気が身を包む。ひとまず文化会館の辺りまで登ってきて一連の施設で行われている企画を調べる。博物館の「びじゅチューン」展も面白そうだ。科学博物館は昆虫か、西美はミケランジェロ、芸大美術館はいぶし銀のような複数の展示、藤田嗣治トリビュートって、ああ隣の都美で藤田嗣治展をやってるからそれに合わせて、なるほど。気づくと昼時。公園の広場から賑やかな音がするので行ってみると「パキスタン・ジャパン フレンドシップフェスティバル」だそうで、露店とステージ、大音量の南アジア音楽。家族連れでごった返している。カレーの匂い。あとで覗くかと思いまずスルー、精養軒まで行ってみる。当然のごとく大行列だ(笑)。ふらっと入って食べられるわけがなかった。頭をかきつつフェスタ会場まで戻る。水分補給のためにまずビール(こらこら)、一渡り回って行列の少なそうな料理やさんへ。ラムのカレー、というかスープご飯とヨーグルトの和え物を買って食べる。ラム美味し。お腹も落ち着いたので涼しいところに移動することにする。…藤田嗣治か、うん、都美にしよう。鏡のような球体の横を通りエスカレーターで下る。お弁当展も面白そうだがそちらをあとにしてフジタ展に。はっきり言ってしまえば、俺はこの人に格別の興味を持っているとは言い難かった。軽い気持ちで見ることに決めた。だけど、直に作品を見て彼の生涯と我が国の近現代史に触れることは、大変意義のある経験になった。明治から昭和中程までの人生、二度の世界大戦と祖国との関係、戦争、国策への参画と敗戦後の境遇の変化、そして帰化、宗教との邂逅。あと異様に女関係が激しいこと(笑)。画風の変遷、困窮と成功、パリと日本と南米。裸婦で知られるとされる人だが、静物や風景を多作した時期もある。繊細な筆致の人だが、なんともエネルギッシュに一生を駆け抜けた人なんだな、と思う。図録を買った。昨日のとはまた異なる多量の情報に身を委ねながら、今度はお弁当展へ。正式には「BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン BENTO―Design for Eating, Gathering and Communicating」これがまあ、なんとも楽しい企画展だったのだ。入り口には江戸時代の変わり弁当箱が並び、うんまあそうだよなと進むと…精緻な食品サンプルで当時の盛り付けを実に美味そうに再現してある。撮影できなくて残念無念。ハコだけだとただの遺物、展示品なのだが、中身も見せてくれることでそれらは「生きた道具」として目の前に現れる。あれ、ほかでもぜひやってほしいなあ。現代の様々なお弁当(サラメシ多数)の写真展示が実に豊かだった。あ、実際にサラメシの中の人も参加してるのか。「あゆみ食堂のお弁当」は今度買おうかな。インタラクティブな企画展示の数々、情報の多いものも、再度の訪問でやり取りを促すものもあり。後半は特にそうだったのだが、これはさすがに一人で見てるとちょっと寂しい。というか、フジタ展ではあんなに静かだった人々が、こんなに和やかに言葉を交わしている展示は好対照に思われた。ほんと、賑やかさが邪魔にならない美術展だったよ。ギリギリまで粘って閉館に追われる。最後にもうちょっとフェスティバルを見物し、帰途に着いた。夕食は東京駅地下の仙台牛タン屋さんで盛り合わせ定食(二種類の味付けの焼き物、揚げ物、シチューとスープ)を堪能する。ささやかなご馳走。そして地酒二杯(笑)。乗り継ぎもスムーズに進み、無事帰宅できた。今回の旅で一つ残念だったのは、現地で知ったイベントに向かうタイミングを逸したこと。お台場で「デザインあ展」をやってる、と12日に知ったのだが…さすがにもう一泊は贅沢かな、と諦めたのだ。どうせだから見ときゃよかったかなとも思う。ま、腹八分目が一番か。現場合わせの思いつきの多い旅だったが、楽しかった。明日の糧にしよう