BABIP考察 & パーセンテージで観るライオンズ投手たち: 2010-2012 | Peanuts & Crackerjack

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前回のエントリー、パーセンテージで観るライオンズ打者たち: 2010-2012では
2010年から2012年ここまでのライオンズ各打者たちの打席における結果について

出塁率(OBP)の守備範囲である、総打席数から犠打数を除いたものを
本塁打四球三振・そしてフィールド内に到達した打球の4つの部分に分類し(※死球に関しては省きました)

HR/PA、BB/PA、SO/PA、BABIPというそれぞれのパーセンテージ(割合)折れ線グラフで表すと共に
それぞれの打者の残した累積打席数を多い順に並べながら棒グラフで表していき

各打者の貢献度“打席成功率”、そして特長などについて様々に考察していきました。

今回のこのエントリーでは、前回エントリーの最後で予告しました通り
今度は同じグラフを使って2010年から2012年ここまでのライオンズの各投手たちの
それぞれの相手打者たちとの勝負-つまりは被打席-における結果を表示すると共に

その各グラフを観ての分析を施す前に
まずはBABIPについて、同期間のライオンズ選手たちの残した成績をまとめなおし
それを散布図グラフにしたものを観ていただきながら
再度BABIPについての考察を施していき

そしてその後で各投手の総合的な貢献度や特長などについて考察していければと思います。

それでは、まずパーセンテージで観るライオンズ投手たちについて
2012年ここまで、2011年、2010年と3つのグラフを一気に観ていただければと思います。

Peanuts & Crackerjack-percentages of Lions pitchers 20120717

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Peanuts & Crackerjack-percentages of Lions pitchers 2011

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Peanuts & Crackerjack-Percentages of Lions pitchers 2010


【 BABIPについて 】


さて、それではまずはBABIPについての考察をしていきたいと思います。

前回のエントリー、パーセンテージで観るライオンズ打者たち: 2010-2012
あわせてみていただきますと非常に分かりやすいのですが

ライオンズ・オフェンスの総合BABIPは
2010年が.313、2011年が.293、そして2012年ここまでが.292

対してライオンズ・ディフェンスのそれは上のグラフにも表示してある通り
2010年が.314、2011年が.296、そして2012年ここまでが.295という成績であり

もちろん統一球導入前の2010年に比べて2011年~2012年ここまでは
オフェンスもディフェンスも2分程度その成績を悪化および良化させてはいますが

年度が替わり、ある程度メンバーが交代したとしても、
そしてオフェンスもディフェンスもほとんど変わることなく

だいたいBABIPは常に3割近辺を安定して記録している
ことがよくわかります。

ただし、だからといって一言で単純に“BABIPは運である”と宣言することについては

① ある打者もしくはある投手がある時期・期間(主に短期間)において
  “突出して”優秀なBABIPの値を記録したとして

  もちろんその打者や投手の体調面(例えば疲労度や軽い怪我など)や技術革新等の要素も多分に含まれるため
  相手投手や打者たちが研究し適応してくるまでの間において
  一時期に好結果を連続し集中して残すことは可能で

  そういった短期的な視点で観れば体調管理や技術の改善などを含め
  それも立派なその選手の努力の賜物であると言えるため、

② また私たちのような一般的なアマチュアや更に言うならば素人たちが
  例えばNPBの勝負に数多く立つ機会を与えられた場合を考えれば非常に分かりやすいのですが

  そんな私たちでもNPBで数多くの勝負をこなしていきさえすれば
  BABIPは3割近くを記録してくるかといえばもちろんのことそうではないわけで

  つまり首脳陣がチームの勝利を獲得するために
  適材適所で厳しく選手を取捨選択し、起用していく中でなんとかうまく生き残っていけるだけの

  素晴らしい能力を持ち、そしてそれを勝負の場でじゅうぶんに発揮することのできる
  そんな選手たちだからこそNPBの勝負の場で3割前後のBABIPを残すことが可能なのですから

  もちろん起用されたはいいものの非常に物足りないBABIPの成績を残し
  わずかに数打席、また数十打席を与えられただけで再度ファームに落ちる選手たちが

  ただ単純に“運”がないだけかといえば決してそうではなく
  まだまだその素晴らしい能力をじゅうぶんに発揮する術において非常に未熟であると言えるため

BABIPは本来私たちが一般的にイメージする“運”とは
実際のところは異なるという但し書きを付け加えなくてはならないことは事実ですが

それでも1シーズン、いや数シーズンといったある程度長い期間を観ていくならば
“突出した”BABIPは決してその選手の“技術”などを反映した“持続・継続可能な”数値などではなく

打席数を数多くこなしていけばいくほど、徐々に徐々に.300ライン近くに
まるで吸い寄せられるかの如く近づいていくものだという意味において

私たちは“BABIPは運である”と言うことができる、ということ
なのです。

さて、多少長くなりましたが
(それでもこの部分は非常に誤解を招きやすい部分であるため
 上記の但し書きは必要不可欠ですのでご了承ください)

実際にそのライオンズの選手たちのこの3年間のBABIPを
オフェンス・ディフェンスに分けて散布図グラフで観ていただき

①、その“BABIPは運である”という命題は各選手ごとに見ても真実なのか
②、そしてそうであるならばそれはどの程度真実なのかの2点を観ていきたいと思います。

Peanuts & Crackerjack-Lions offense BABIP 2010-20120717

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Peanuts & Crackerjack-Lions defense BABIP 2010-20120717

どちらもX軸はBalls in Play(フィールド内に到達した打球)を、そして
Y軸は本塁打以外の安打(つまり単打+二塁打+三塁打)を表した散布図グラフとなっており

つまりはそれぞれのドットの Y/X がそのシーズンにおけるその選手のBABIPの値を示しております。

まずは、どちらのグラフにおいても決定係数r^2は0.98近辺を示しており
XとYの間には非常に強い相関関係が認められることがわかり
また切片もほとんど0に近い値を記録していますから

つまりはそれは基本的にほとんど大きな例外なく
BABIPは3割近くの一定の値を記録してくることを
改めて証明してくれる
ものとなりました。

次に、BABIPに【長期において】、各選手の“特長”-つまり巧打や打者を打ち取る技術-というものは
認められるか
という点について考察してみますと

もちろん上述の通り“突出して”優秀なものは
ある程度母数であるBIP(X軸)が大きくなればまず見当たらないと言えますが

それでもオフェンスにおいて巧さんナカジさん
ここ3シーズン常に近似曲線のある程度上部に位置し続けていることからもわかるように

特に数シーズンにわたって3割を超えてくるような素晴らしい打率を残す
いわゆる超一流の巧打者との評価を受ける素晴らしい打者たち
というものは

このBABIPの分野においてもある程度他の選手たちから抜きんでた
優秀な成績を収める選手たちである
ことがよくわかります。

逆にディフェンスのグラフを観ていくと
涌井さん・帆足投手・岸さん・牧田さん・一久さん・西口さんなど
数多くの打者と対戦し数多くのBIPを積み重ねる主に先発投手においては

数シーズンにわたって安定して近似曲線よりある程度低いBABIPを記録する投手は見当たらず

先発投手たちが素晴らしい成績を安定して残し続けていくためには
やはりBABIP以外の部分において被本塁打数や与四死球数を少なくし
奪三振数を増やしていく、つまり優秀なFIPを記録し続けていくことが
何よりもまず非常に重要である
ことが観て取れます。

ただ、それでは投手にとってある程度長い期間にわたり
ある程度優秀なBABIPを記録するという“技術”が存在する余地がないのかといえば

これはまだまだ仮説の範囲内で、今後まだまだじっくりと検証していく必要はあります

2010年1シーズンを通してクローザーを務めたSikorski投手は.242(BIP178個)、
また2010年セットアップ・マンとして活躍した太陽さんも.263(BIP133個)、

そして昨年2011年シーズン途中からではありますがクローザーを務め
20セーヴ以上を記録し新人王に輝いた牧田さんも.258(BIP387個)、
また同じくセットアップ・マンとして活躍し続けた許投手も.232(BIP198個)、

紆余曲折ありながらもシーズン終盤にはライオンズの誇る
リリーフ・エースとして活躍した2011年の篤志さんも.268(BIP149個)で
同じようなポジションで活躍した昨シーズンの松永さんも
BIP66個と少ない中ではありますが.242と非常に優秀であったように

“優秀なクローザーやセットアップ・マンであり続ける”投手たち
もちろん先発投手たちと比べれば対戦打者数はある程度少ないものの

その少ない打者たちとの対戦数をある意味非常に有効に活かし
ある程度長い期間(できれば数シーズンにわたって)
継続して優秀なBABIPを記録し続ける投手たち
、と

こう言えるかもしれません。

そういった視点で今シーズンのライオンズ・リリーフ陣を観ていきますと
特筆すべきは、まだまだ59個のBIP(対戦打者数74)でしかない中ではありますが
その中でBABIP実に.102を記録しているセットアップ・マン、長田さんですね。

もちろん今シーズン途中からクローザーに指名された涌井さんについても
現在のBABIP.317からシーズン終了時には果たしてどの程度そのBABIPを良化させてくるのか
そしてそれがどれだけ全体的な成績につながってくるのかも非常に楽しみではありますが

この長田さんのここまでの素晴らしいBABIPがシーズン終了時には果たして
どこまで近似直線に近づいていくのか、あるいはどれだけ距離を保ったままシーズンを終えるのか

そしてそれと共に長田さんがどういった成績を残していくのかにも
大いに注目していきたいところですね。


【 各投手についての考察 】


さて、ここからは最初に示した、ライオンズ投手たちの
それぞれの分野におけるパーセンテージの3つのグラフをもとに

BABIPだけに限らず全体的に、包括的に各投手のその特長や改善点を観ていきたいと思います。

① まずはやはり涌井さんから。

  2010年には対戦打者数実に828、そして2011年にも744
  突出して数多くの相手打者たちと対戦し続けてきた
  まさにライオンズ投手陣の屋台骨をひとりで支え続けてきたと言っていい涌井さんですが

  まずは奪三振率について、2011年には14.5%、そして今シーズンはここまで14.9%と
  2010年の18.6%から大きくその割合を下げていることに加え

  与四球率についても2010年には6.5%、2011年にも5.5%だったものが
  今シーズンここまで11.3%と非常に物足りない成績に終わっていることが

  今シーズン特に序盤に涌井さんが非常に苦しんだ最大の原因と言っていいでしょう。

  だた、クローザーに指名されてからはその投球のレパートリーのほとんどを
  右打者・左打者共にその素晴らしい、持てる最高の速球と自慢のスライダー系とだけに限定

  非常に力強く眼の前の打者一人ひとりに対してだけ集中し、向かっていっており
  既にはっきりと、その傾向は数字ででておりますが
  今後更に大きくその被本塁打率及び与四球率を改善させていくことが期待できると共に

  ここ数年の懸案であり、奪三振率低下の最大の要因でもある
  スプリッター(もしくはチェンジアップ)が
  再度その素晴らしい精度と制球とを魅せてくれるようになっていけば

  これまでどおり、いやこれまで以上に涌井さんがエースとして長年にわたり
  相手打者たちを圧倒し続けながら素晴らしい成績を残し続ける姿を見ることができるでしょう。

  上で述べた、今シーズンこれからのクローザー・涌井さんのBABIPの推移と共に
  楽しみに、じっくりとその投球を追い続けていきたいと思います。

② 続いて、岸さん

  岸さんはその奪三振率について、2010年にはチームトップの23.9%を記録し
  2011年にも多少低下したものの18.8%、そして今シーズンここまでは21.2%と
  つねにチームトップを争う素晴らしい成績を残し続けており

  2011年の岸さんを苦しめたのは2010年に比べ増加した与四死球率
  統一球導入によりNPB全体として劇的に良化したにもかかわらず
  2010年度と同程度の成績に終わった被本塁打率だということがくっきり表れています。

  そういった意味では今シーズンここまでの岸さんは
  そのどちらについても大きく改善していくことに成功しており

  更にはここまで被BABIPも非常に優秀な部類ですから

  今シーズンは今後もライオンズのエースとして数多くの打者たちと対戦し続けながら
  その上で素晴らしい投球を安定して魅せ続けていってほしいと思います。

③ 次に、牧田さん

  2011年シーズンはクローザーに回り
  わずかに3.1%というチームトップクラスの非常に優秀な与四死球率を誇りながら
  BABIPもシーズンを終わってみれば結局は.258という非常に優秀なものでしたが

  再び先発投手に戻った今シーズンは1シーズンを通して数多くの打者と対戦していく中で
  流石に疲労が蓄積していき、またより深く相手攻撃陣に研究されていくことで

  奪三振率や被本塁打率こそここまで16.0%、0.7%と
  昨シーズンと遜色ない成績を残しているものの

  与四球率は6.0%へと悪化すると共にBABIPも.302に留まる成績となっています。

  ただ、BABIPが昨シーズンより悪化したといっても先発投手としてはこの値でじゅうぶんであるなど
  全体として先発投手としてみれば非常に優秀な部類であることは間違いなく
  
  今後はこれまでの被本塁打率や奪三振率を維持していきながら
  いかにして与四球率を改善していくかが牧田さんの大きな課題となっていくでしょう。

④ 西口さん、一久さんについては大ヴェテランですから
  安定してうまくその成績をまとめ続けていき、しごとをこなし続けていってほしい、
  それだけに尽きます。

  特に西口さんについては2011年シーズンの、それも
  後半から終盤にかけてが非常に素晴らしかっただけに

  今シーズンここからまた更に三振を数多く奪っていきながら
  安定攻撃陣を圧倒し続け素晴らしい成績を残し続けていく投球が観られるかどうかについても
  非常に楽しみに追い続けていきたいところです。

⑤ ランディさんはBABIPは普通、三振率・被本塁打率は抜群に優秀ですが
  与四球率が非常に物足りないことだけが珠に傷なのですから

  以前のエントリー、与四球率とBSカウント-四球を減らすポイントとはどこにあるかでも観た通り

  今後も初球にストライクを取ることなどを中心に
  四球を減らすことに重点的に取り組んでいってほしいですね。

⑥ エンリケさんについては三振率は低い四球率や被本塁打率は高い
  そして更に悪いことにはBABIPも4割を超える非常に物足りない成績
  すべてにおいて改善点が見いだせる結果となっておりますが

  先発投手に転向し、今後ある程度数多くの打者たちとの勝負を積み重ねていくことができれば
  現在の4割を超えるBABIPは自然と3割近辺まで良化していくことが予測されるため

  まずは数多くの打者たちとの対戦を積み重ねていくためにも
  四球率そして被本塁打率を改善していくことから重点的に取り組んでほしいと思います。

⑦ 長田さんについては、上述の通り今シーズンはここまでわずかに.102という
  “突出して”非常に優秀なBABIPに支えられているものの

  与四死球率についても2.7%という、
  チームトップの非常に素晴らしい成績を残していることも特筆すべき点であり

  今後おそらくこのBABIPを維持することは非常に難しく
  良くても2割前半にまでは悪化することが予測されますが

  それでもこの素晴らしい与四球率を継続していきながら
  今シーズンの課題である高い被本塁打率を改善していき

  1シーズンを通してセットアップ・マンのポジションを
  うまくこなし続けていってほしいと思います。

・・・という風に、この7選手以外にも
詳しく観ていけばそれぞれの投手ごと
に様々な特長と改善点とが浮き彫りになってくるのですが

今日は一旦ここでこの分析を終了したいと思います。

次回はライオンズ投手陣について、
その対戦打者数、投球数、消化イニング数(奪アウト数)などを切り口に
各投手の負担割合(=貢献度)を簡単に観ていければと思っています。


【 終わり 】