【はじめに】
野球において“勝負”としてよくとりあげられるのは【投手】 vs. 【打者】。
チームの“ディフェンス”において非常に大きな責任を担うのは当然投手で
記録という面から見ても防御率は当然のように投手の評価指標とされていますし
また打者のように9人が順番に打席に立つのではなく、投手は連続してマウンドに立ち続けることから
そのゲームの勝敗記録まで、投手陣の誰かに付与されることになります。
もちろん、投手はマウンドで君臨し、ゲームの勝敗だとか、失点だとかについては
野手陣のエラーや不運なあたりも含め、すべてを自分の責任として担いたいという
そんなプライド高き人種であり、またそんな度胸がないとマウンドには立てませんが
その一方で実際の野球のゲームにおける“ディフェンス”は
決して投手ひとりだけでするものではなく
打者の後ろに捕手がいて、そして投手の後ろには7人の野手がいて
投手を含めた9人で担当しているのだという現実があります。
“投手は野手を信頼して投げよ”という素晴らしいフレーズがありますが
逆に考えるならば、【野手は投手に信頼されるような守備を魅せられているか】が
チームの“ディフェンス”において非常に重要な要素になってくるということです。
このようにチームの“ディフェンス”において、つまり
チームの勝利のため失点を減らしていき最少失点にまとめていくためには
野手たちの守備が客観的指標を通して明確に表示され
その数値によって彼らが適正に評価され、チーム編成がなされ、また
長期的視野での育成がなされることが非常に重要であるのですが
伝統的な守備の指標としては“守備率”しかなく、
これは(刺殺数+補殺数)÷(刺殺数+補殺数+失策数)で求められるもので
失策という“誰の目から見ても拙いプレイ”さえしなければ問題ない、
つまり野手たちは投手を助けるような難しいプレイでアウトをとろうが評価の対象ではなく
それ以外はすべて投手の担うべき責任だ、という伝統的な投手優位の考え方に沿った
いわゆる“消極的な”守備評価の概念だと言えます。
さて、それでは従来の消極的な守備評価指標を脱却し
“積極的に”守備を評価していくためにはどんな指標を利用していくべきか、
またどこに光をあて、ピックアップし評価の対象とすべきか。
以下、再びShibakawaさんのブログ、しがなき男の楽天イーグルス応援ブログvol.3のエントリー、
【分析】 犬鷲外野守備陣の「底力」。楽天・鉄平、聖澤、中村のRFと走者の進塁を阻む力。にヒントを得
ライオンズ外野守備陣の“ディフェンス”における“積極的”貢献度を測る、
そんな試みに挑戦していきたいと思います。
(※ですから、上述のリンクから飛んで
今シーズンここまでのイーグルス外野守備陣との比較をしながら見ていただくと
より楽しんでいただけるかと思います。)
【ライオンズ外野陣の2011年RF(レンジファクター)】
※6/13終了時点。Shibakawaさんのブログではイーグルス外野陣は6/8終了時点ですが
どちらも44試合終了時点でそろえるためにライオンズ外野陣は6/13終了時点で測定しております。
以下、ライオンズ外野陣はすべて6/13終了時(44試合消化時点)で測定していきます。
RF(レンジファクター)とは9×(刺殺+補殺)÷守備イニングで算出される守備指標で
該当選手が9イニングのなかでいくつのアウト獲得に関係したか?を見ており
一般に守備範囲の広い選手でアウトをより多く獲得できる選手を評価するものです。
もちろん、数値が大きいほうが高評価となります。
イーグルス外野陣との比較で見る限り秋山さん、クリさんは優秀な部類、
高山さんもまずまずのRFを記録していると言えそうですが
問題は極端に値の低い坂田さん。
この不安定な外野守備陣につながる一因として考えられるのが
中堅手、クリさんが全試合フルイニング出場している他には
かろうじて秋山さんが規定試合(チーム試合×2/3)をクリアするのみで
左翼手に至ってはまったく固定できずに
坂田さんをはじめブラウンさん、義人さん、浅村さんと
攻撃面を重視し守備には目をつぶった起用が多いことでしょうか。
そう考えると、優秀なRFを記録しているクリさんの負担が大きくなっており
外野手全体としてはやはり投手陣を積極的に援護できているとまではいえないと言えますね。
右翼手として素晴らしい守備成績を残している秋山さんも
そして最近台頭し素晴らしいプレイを魅せてくれている熊代さんも共にルーキー、
攻撃面でも守備面でも安定して貢献できるようになり
ラインアップに安定して名を連ねるまで信頼を得るためにはまだまだ時間がかかるでしょうが
攻撃・守備両面でチーム内でどんどん切磋琢磨しあいつつ
どちらでも投手陣を強力に援護できる選手たちが多く出てくることを願っております。
【ライオンズ外野陣の2011年補殺】
外野手の華のひとつ、その肩を魅せる補殺数ですが
ライオンズ外野陣は計5、規定試合以上出場選手ではわずかに秋山さんの2のみ。
クリさんの補殺数0は次に述べる“抑止力”とあわせて見ていかないと
評価は難しいのでここでは触れません。
ただ、秋山さんの補殺数は今後守備イニングが増えるとともに増えると予測できるため
彼の課題は攻撃面でどういった貢献を積み重ねていき、出場イニングを増やしていくかですね。
それにしてもイーグルス左翼手、中村真人選手の補殺数6はほんとうに素晴らしいですね。
【ライオンズ外野陣の2011年“抑止力”】
さて、ここではRF(特に補殺面)で評価されない部分、
外野手が単打を処理した際に打者を含めた走者にどれだけ“余分な進塁を許していないか”という
いわゆる外野守備陣の“抑止力”について見ていきたいと思います。
これを見ると余計な進塁を許していないのは全体で86%で
その中でも最も高いのが中堅手、クリさんの86.6%ですから
補殺数0ではあってもそれはじゅうぶんな抑止力のおかげ、と言えそうですね。
そのあたり、より詳しくイーグルス外野守備陣との比較をするために
Shibakawaさんのデータと同じ切り口で切り取ったデータを以下に表示します。
■塁状況が1塁、相手打者が外野に単打を打った場合■
※ライオンズ(6/13)、イーグルス(6/8)の44試合消化時点。
■塁状況が2塁または2,1塁、相手打者が外野に単打を打った場合■
※ライオンズ(6/13)、イーグルス(6/8)の44試合消化時点。
※表の「3塁ストップ」は文字通り2塁走者が自重して3塁で止まった回数、
同様に「本塁アウト」は2塁走者が果敢に本塁突入するも外野からの好返球等により
本塁で封殺された回数を表します。
この2つの比較から読み取れることは
ライオンズ外野守備陣はイーグルス外野守備陣に比べ
2塁走者を本塁へ突入させることをより良く抑止しているものの
逆に1塁走者をより多く3塁へ到達させてしまっている、という結果です。
つまりはライオンズ外野守備陣は2塁に走者を置いた場面では
首脳陣の指示により、1点の失点を防ぐべくより極端な前進守備を敷くことが多く
それが功を奏して外野へ単打が到達した場合でも
相手チームが本塁突入挑戦をはじめから諦めてしまうことが多いということ、
逆に外野守備陣個々人の単純な能力としての抑止力という面から見れば
1塁走者を多く3塁へ進めていることからも読み取れるように
ライオンズ外野守備陣はイーグルス外野守備陣の後塵を拝しているということですね。
【ライオンズの被長打数、特に被三塁打数】
さて、こうなるとやはり気になるのが
より極端な前進守備を敷くことのリスク面、つまりランナーを得点圏において
外野手の頭を越す、または間を抜ける痛い長打-つまり二塁打や三塁打-を浴びるという面。
こちらは他チームとの比較ができておらず、確定したことは言えませんが
やはりランナーを2塁においての被二塁打12本、そして被三塁打3本は
約3試合に1度のペースでということですから多いと感じます。
Shibakawaさんのエントリー、
【記録】 2010年パリーグ 球団別 被ニ三塁打&鉄平右翼コンバートの果実にも見られるとおり
ライオンズは2009年被三塁打が27本とリーグ5位、更には
2010年には被三塁打が32本となりリーグ断トツのワーストを記録しています。
被二塁打に比べ、被三塁打は外野守備陣の適切な整備によって
二塁打へと抑えることができるものであり
それができずにいる脆い外野守備陣に対して
得点圏に走者を置いた場面で極端な前進守備を敷くことが多いということは
ある意味ギャンブルにも近い選択であり
それだけ投手陣に過剰な負担を強いている、ということも言えそうです。
最後に、今シーズンライオンズ守備陣の被安打数及びその内訳と
このペースでいった場合のシーズン予測被安打数及びその内訳、
対してNPB全体の被安打数及びその内訳と1チーム当たり平均、そして
同じくこのペースでいった場合のシーズン予測被安打数及びその内訳を記しておきます。
(※個人的にはライオンズ攻撃陣が三塁打0に対しライオンズ守備陣が被三塁打7なのも
大いに気がかりなところですね)
≪6/19 追記≫
2011年のイーグルス守備陣の44試合消化時点での被長打数、および塁状況別の被二塁打・被三塁打内訳を
Shibakawaさんがエントリー 〔記録〕楽天イーグルス、2011年、被二塁打・被三塁打数。(※6/8データ) にて
まとめてくださいました。
改めて、ここでShibakawaさんに心よりの感謝の意を示させていただくと共に
ぜひぜひ、そちらのエントリーにも目を通していただけると幸いです。
【まとめ】
さて、レンジファクターから始まり、補殺数、抑止力、被長打数と
様々な面からライオンズ外野守備陣の“ディフェンス”における貢献ぐあいを見てきましたが
確かに言えることは、まだまだ投手陣の信頼をじゅうぶんに勝ち得るまでの
素晴らしい守備面での貢献を魅せているとは残念ながら言い難いということ。
これは決して選手個人の“能力”をどうこう言うものではありません。
あくまでもこの問題はドラフトでどんな特長を持った選手を獲るかという編成面も含めた
首脳陣のチーム編成上の戦略の問題です。
左翼手には攻撃力重視、守備力には目をつぶってという編成もよく見かけますが
その場合は左翼手が相当程度攻撃においてチームに貢献し、更に言うならば
守備面で投手陣に負担をお願いする以上に
安定して攻撃面で投手陣を強力に援護する必要があります。
そういった視点から見てもやはり
今のライオンズ外野手陣の、メンバーがまだまだ安定しておらず
攻撃面でも守備面でも投手陣に負担をかけている状態は決して望ましい状態ではないでしょう。
ライオンズ先発投手陣はそれでもまずまず素晴らしい成績を残しているのは
本当に、他チームに比べても驚嘆すべきことですが
逆に12チーム随一の悪評の定着してしまったリリーフ陣に関して言えば
もちろん彼らが四死球や被本塁打を減らし奪三振を多くすることも言うまでもなく重要ですが
その一方で外野手を整備し、安定した攻撃面・守備面での貢献を期待できるようにすることで
投手陣にもう少し野手を信頼し楽な気持ちで打者と勝負してもらい
重要な局面でも普段通りの、自分の持てる能力を最大限発揮できるようにしていくことも
同じように重要ではないでしょうか。
野球の“ディフェンス”において、もちろん投手の担うべき責任は大きいものがありますが
その一方で四死球、三振、本塁打を除いたいわゆるフィールド内に飛んだ打球に関しては
決してそれは投手たちだけが100%責任を担うべきものではないということ、つまり
守備につく野手たちが難しいプレイでアウトをとってあげることで
“積極的に”投手を助けることもじゅうぶん可能だし、そして
そのことはとりもなおさずチームの勝利にとってもとても重要だということ。
さて、ライオンズ首脳陣はリリーフ陣の整備という大きな難題に対し
彼らのレベルアップと同時に、守備陣、特に外野守備陣のレベルアップにも
明確な改善課題として取り組んでいるか。
ルーキー、秋山さんや熊代さんの獲得と彼らの積極的な起用、育成を見ていると
ようやく遅まきながらその意識が実を結びはじめたのかなと読み取れる一方で
左翼手の起用を見る限りではここには攻撃面で貢献できる選手を置きたいのかな、
やはりリリーフ陣の整備という課題に対しては投手たちに改善を求めるウェイトがまだまだ重く、
守備陣の改善で彼らリリーフ陣の成績を押し上げ向上させるという方法については
そこまで効果の高いものだとの認識はないのかな、と逆にも読み取れますね。
いずれにせよ、2011年のライオンズ野手陣はラインアップ上位4人を除き
ちょうど半数の4人が2010年からガラッと大幅にメンバーが変わっておりますので
首脳陣の狙った方針が実を結び、ある程度のカタチをみせるようになるまで
まだまだ時間がかかることも確かです。
性急な結論は避けつつ、注意深くじっくりとライオンズの変遷、
そして成長を見守っていきたいと思います。