定量分析、その試みの第一歩 | Peanuts & Crackerjack

Peanuts & Crackerjack

Dedicated to the Saitama Seibu Lions organization and its players, baseball itself, and those who want to know what counts most in a given situation you are in and to make right decisions in a confident manner everytime. May the 'dose of luck' be with you!

9回裏、2点ビハインド。
マウンドには相手チームの守護神が満を持して登板してきました。

ところが、今日はいきなり先頭打者をヒットで出塁させると
次の打者には四球を与えてしまい、ノーアウト1・2塁で
こちらのクリーンアップ・バッターたちを迎えることとなりました。

逆転勝利への期待が球場中を包んでいきます。

しかし、残念なことに期待を一身に背負ったバッターAは
初球を積極的に打って出るものの
その打球は遊撃手正面への強いグラウンド・ボール。

そのまま二塁手、一塁手へと転送されダブル・プレイとなり
2アウト3塁となります。

球場中が落胆で包まれる中、次の打者Bが打席に立ちますが
これまた二塁手へのグラウンド・ボールでアウトとなり
結局2点差のままゲーム・セット、敗戦となりました。



・・・さて、このような結果が残ったとき
試合後、もっとも責任を感じ、また背負わされるのは
ダブル・プレイに打ち取られたバッターAです。

ファンも大きな期待をかけただけに、結果あっけなく
2アウト3塁となり“チャンスがつぶれた”ことに対し
その分だけ落胆し、そのような結果が続けば
そのバッターに対し批判を浴びせたり
怒りをぶつけたりするようになるでしょう。

一方、その後2アウト3塁で打席に立った中軸バッターBはどうでしょう。
大きく期待が盛り上がった後の急激な落胆を経験した後ですし
一気に2アウトを取られた後ですから、凡退したとしても
前のバッターよりも自他共に責任を感じることは少ないでしょう。


しかし、ここで冷静に振り返ってみましょう。

バッターAはランナー1人を失い、更に自らもアウトになるという
“悪い”結果を招いたものの、ランナー1人を3塁にまで進めるという
“よい”結果をも残しているのです。

対してバッターBはどうでしょう。
自らがアウトになっただけでなく、せっかくこれまでチームとして
進めてきた3塁ランナーをも失うという結果に終わってしまったのです。

・・・となればバッターBもAと同じように、もしかするとそれ以上に
その打席の重要性を認識すべきでしょうし
またその結果に対して責任を感じるべきなのではないでしょうか。


さて、結論から言うならば
このギャップ、認識のずれを産み出しているのは
もちろん自分、そしてチームメイト・首脳陣・ファンの思い描く
様々な“期待”というファクターであることは間違いないと思います。

バッターAには
ランナーを進め、還すことが“当然”のごとく期待されます。
それに対しバッターBには
チャンスの芽が大きくしぼんだ後だからということもあり
凡退してもある程度しょうがないかな、という“期待”が大勢を占め
逆にそこからヒットを打ってランナーを還したり、そうでなくても
粘って四球をもぎとったりするとそれは“期待以上の働き”として
大きく賞賛されることとなります。


よく“野球は9回2アウトから”という金言が繰り返し使われますが
考えてみればそれは言うまでもなくあたりまえのことなのです。

しかし、選手・首脳陣をはじめ“人間”はどうしても
“期待”を意識し、背負いながらプレイすることが求められますから

ともすればその“期待”の幻影に惑わされることも多くあり
それが幽霊のように、神話のように“場”を支配し
自らの持てる普段の力をじゅうぶん発揮できないまま
結果を残せず苦しむことも多くあるのではないでしょうか。

もちろん、“期待”という要素はどんな場においても
非常に重要な要素であり、それがあるからこそ
選手たちは大きな喜びを感じ、分かち合うことができ
そしてどんどんと成長していくことができることは確か。

ですから自らが日ごろからトレーニングで培ってきた
素晴らしい能力を試合という“場”にて余すことなく発揮するためには

“期待”というものの正体とその及ぼす効果をきちんと把握し
“期待”は決して1つだけではなく十人十色であることを知った上で
自分がそのゲームの勝利のために最適だと思う“期待”を選択すること、

このプロセスが必要ではないかと思います。

さて、それでは“期待”の正体を洗い出すためには
野球・ベースボールというゲームを一旦、“期待値”なしに
残された“結果”というモノだけで記録し、分析する必要があるはず。

そこで野球を一種のボード・ゲームとして扱ってみます。

野球(ペナント・レース)の大きな目的とは何か?から始めて
徐々にブレイク・ダウンしていきます。

①144試合のうち、他のどの5チームよりも多く勝利をあげること。
↓↓↓↓↓
②144試合のうち、1つでも多くのゲームで勝利をあげること。
↓↓↓↓↓
③目の前の“この”1試合を勝利という結果で終えること。
↓↓↓↓↓
④相手チームより1点でも多く得点をあげること。
(相手チームより1点でも失点を少なくなるように防ぐこと)
↓↓↓↓↓
⑤1人でも多くのランナーをホームに還すこと。
(1人でも相手ランナーをホームに還さないよう防ぐこと)

野球というゲームはホームへと選手を招き入れてこそ
スコア・ボードに得点として結果が残ります。

そしてその得点を挙げるため様々なプロセス・戦術があるのですから
野球を以下のようなボード・ゲームである、と
単純化してみることが可能かと思います。
$ピーナッツとクラッカージャック-board


バッターは1つのコマとしてホーム(HP)に立ち、
打席の結果として自らのコマはそのボードから降ろされる、もしくは
1B・2B・3B・そしてその先のHPへとコマを進める、があります。

そしてチームとして1回の攻撃のターンの間に
1つでも多くのコマを先へ先へ進め、ゴールであるHPへと到達させ
上がり=得点とすることが目的です。

なお、1回の攻撃のターンは
最低3つのコマがボードから降ろされた時点で終了で
交互に9回ずつターンを繰り返し、その間に獲得した
上がり=得点の数の多寡によってその1ゲームの勝敗が決定します。


こう考えると、当然ランナーを2塁から3塁へ進めることは
1塁から2塁へと進めることよりも価値があるといえますね。

当然、二盗と三盗の価値も当然違うはず。

今の私にはそれが具体的に何倍の価値を持つものかは
未だわかりませんが、手始めとして仮に

手段は問わずバッターが1塁にコマを進めた時その貢献度を+1とします。
更に1塁から2塁へとコマを進めるとその貢献度を+2、
以下同じように2塁から3塁へとコマを進めると貢献度+3、
3塁から本塁へとコマを進めると貢献度+4とし

自らのコマであれ先行してボードに存在するランナーのコマであれ
コマがアウトになりボード上から降ろされることになったとき
ペナルティとしてその貢献度を1アウトにつき-1とします。

(例:ソロ・ホームランの貢献度は+10、犠打でランナーを2塁に進めた時の
合計貢献度は2-1で+1ということになります)

また、2アウトで打席に立ったとき
ボード上にランナーがコマとして存在していたものの
自らが先に進めず3アウトになってしまうと

ルール上自らだけではなくそのランナーたちも
ボードから降ろされることになるため
そのバッターはそれまでチームとして積み上げてきた貢献度を
一気に失わせるという結果を招いてしまい
その貢献度はその分大きくマイナスになってしまうとします。

(例:2アウトランナー2塁で打席に立ち凡退、
ランナーを2塁に残塁のまま3アウトとなったときは
自分がアウトになったことに対する貢献度-1に加え
2塁まで進めてきたランナーのこれまで積み上げてきた
貢献度3を失ったことに対する貢献度-3で
合計貢献度-4、ということになります)


この定量分析のメリットは以下の通りです。

①四死球、犠打、犠飛、進塁打等の貢献度を今までの評価基準よりも
大きく、より正当に結果に基づき評価することができる

②打点が評価されるのと同様に2アウトの残塁に関しても
大きく(マイナスのものとして)評価できる

③エラーとヒットなど、
相手による相対的な価値判断を極力持ちこむことなく
結果として自分が何を残したかを最大限評価することができる

対して、デメリットは以下の通りです。

①“一般的な”期待というものを極力排除しているため
個々の選手の働きを“報酬”として評価する指標としては
現状、まったく向いていない

②シングル・ヒットの貢献度が+1に対し二塁打が+3、
ホームランが+10という設定はあくまで第一歩、仮のものであり
これから大きく改善の余地があるということ

③守備に関しては(ちょうど野球盤と同じように)
“所与”のものとして思い切って排除しており
それに対する評価はまったく考慮していない


さて、これから2010年のライオンズの公式戦144試合、
この指標で分析をしてみたいと思っております。

この指標を用いるならば
冒頭の例でのバッターBの心構えは大きく変わってくるでしょう。

どれだけファンやまわりの期待が
もう負けでもしょうがないかなあ~、というもので
大勢を占めていようとも

自分だけは今、
2アウトでランナーが3塁にいるという状況に大きく着目し

①自分がアウトになればその貢献度は-7と
かなり大きくマイナスになるということ

②逆に1シングル・ヒットでランナーを本塁に還し
得点を挙げることができればその貢献度は+5と
かなり大きくプラスになるということ

③また粘って四死球などで出塁したとしても貢献度は+1あり
自分がアウトになること(貢献度-7)に対して
かなり大きなプラスの貢献度であること

この3つの選択肢とその貢献度をアタマに明確に描き
9回2アウトであっても、いや9回2アウトだからこそ

誰が期待してなくとも勝利のために、
そしてそれにつながる貢献のために、

自分だけはその打席の重要性をキッチリ認識し
最大限集中してランナーを還すべく一振りに賭け、
もしくは追い込まれてなかなか打てそうにないときには
四球を奪うべく粘りに粘ること、

これをアタマに入れて打席に立っていけば
自然とまわりの“流れ”や雰囲気にのみこまれることなく
自らの培ってきた能力を与えられたその場その場で
最大限発揮することができるようになり
どんどん素晴らしい結果を残し
蓄積することができるようになるのではないかと思います。