四球の評価と“期待” | Peanuts & Crackerjack

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Dedicated to the Saitama Seibu Lions organization and its players, baseball itself, and those who want to know what counts most in a given situation you are in and to make right decisions in a confident manner everytime. May the 'dose of luck' be with you!

ライオンズは今年、パ・リーグ最多の
524個の四球を対戦チームに与えました。
(※ 敬遠四球は除く、1試合平均3.64個)

最も少ないのがマリーンズの374個、1試合平均2.60個、
その差は実に150個、1試合平均1.04個。

パ・リーグ6球団平均は約445個、1試合平均3.09個で
ライオンズに次いで与四球の多いホークスでも447個ですから

ライオンズ1チームだけがどれだけ突出して対戦チームに
四球を与えているかがハッキリ出ていますよね。

今年のライオンズ投手陣、とくにリリーフ陣はシーズン中から
この成績に対しての酷評をじゅうぶんに知りながらも
四球幽霊に怯え、とりつかれたままシーズンを終えました。

コントロール、制球、、、
まず課題として挙がるのがこの点なのでしょうが

わたしはどうもこの反応には多分に
恐怖に恐怖する過剰反応が含まれているように思えてなりません。

わたしの大きなテーマの1つに

“回の先頭バッターを四球で出すと高確率で失点する”という
言うならば“神話”、もしくは“言い伝え”は
どうして、どうやって多くのひとに信じられるに至るのだろうか?

こんなものがあるのですが

ここにもひとが“四球”に対して抱く目に見えない、そして
得体のしれない恐怖というものが大きく寄与している、

そう感じます。

そもそもひとが恐怖に恐怖し過剰にそのイメージを膨らませるのは
その対象を実はよく把握していないことが原因なのです。

わたしたちは“四球”が野球というゲームの中で
どういった効果を発揮し役割を果たしているかについて

“知識”が当然あるようにとらえているものの
実はそれはまだまだ圧倒的に不足していて

実際の体感・現象・結果は
自分の持つ“知識”とは大きなギャップを持つものになっているため

そのギャップを無理矢理埋めようと
“ありえそうな”エピソードを神話のごとく紡ぎだします。

あとは神話の独り歩き、それを信じる者が多くなればなるほど
その神話はますますゲームを支配し、あたかも最初から
その神話が完璧な“真実”であるかのようになっていくのです。

だとすれば、それを打破する方法は1つ。

対象に正面から向き合い、正当な評価を与えながら
真剣に、全力を持ってそのメカニズムを分析し対策を練ること。

ということで、まずは

四球は正当な評価を受けているのか?

から見ていきたいと思います。

最初にわたしの結論から言うならば、四球は過小評価されており
それ故に実際とのギャップが生じ、そこからイメージとしての
とんでもない過大評価が産まれる、こう見ています。

野球というゲームにおいて四球の及ぼす効果は
1つ進塁する-"advance one base"であり
それ以下でもそれ以上でもありません。

つまりは記録上、シングル・ヒットと同等の価値を与えるべきもの。

しかし、伝統的に野球というゲームでは
“打率”が絶対的な指標として長きにわたって君臨し続け

シングル・ヒットが1の価値を与えられるのに対し
四球は0、つまりまったく価値を与えられずに
存在を無視され続けてきたと言えるでしょう。

価値が認められるとしてもそれは
その選手の打率の分母となる打数を削り取り、
1本のヒットの価値を高めるものとしての消極的なもの。

本来同等の価値を与えるべきものに
なぜここまで明確な評価の差を与えるかといえば

それは“一般的な、常識的な”期待というものが
評価にはいつの時代も絶大な力を及ぼすからです。

打者は基本的に、“打つ”ことを大きく期待されます。
それは自分も、チームのメンバーも、ファンもそうです。

打って出塁することができるように
プロ野球の選手たちにはアスリートとしての運動能力が
まず第一に求められます。

つまりもともと期待値としては四球はまず問題にされず
基本的に打者にとっては四球はいわば
“もうけもの”・“ラッキー”であり

それが裏を返せば投手にとっては
“余計なもの”であり“ヒットよりも悪い”という評価に
そのままつながるのです。

打者も投手も皆がこういった伝統的な評価基準の時代は
四球が正当な評価を受けていなくともまだ
問題がそれほど表面化することはなかったでしょうが

最近は四球に対する評価も少しずつ変動の兆しをみせています。

一番わかりやすいのが出塁率という指標。
これまで打率という指標では無価値のものとして
省略され無視されていた四死球が

ようやく1の価値を持つものとして
シングル・ヒットと同等であると認められました。

ただし、注意しなくてはならないのは
今でも当然打者は“打つ”ことへの期待が自他ともに高いこと。

つまりはまだまだ打者の評価指標としては
“打率”が圧倒的に有名で優位を誇っており
打者は、そして相手投手はチームは、更にはファンは
常にそのわずかな上下や順位変動に気を配る一方

出塁率はといえばその認識は
ナカジさんが去年、今年と続けて1位をとったこと、そして
今年のヤスさんが規定打席到達者中下から2番目だったこと、

とても良かったり悪かったりすれば気にかける程度で
出塁率を上げるために日々研鑽、とまではいきませんね。

ですから出塁率が打者、投手ともに
一致した常に念頭に置くべき指標とまではいかず

選手やチームによってその取り組みはまだまだバラバラ、
今はこんな段階ではないでしょうか。

さて、こんな時にはいつもそうですが
いち早く神話の世界から抜け出し、より真実に近い認識を得
その認識の下に新たな、より効果的なアプローチをとる者が
対戦相手に対し圧倒的に有利な立場に立つことができます。

今、ちょうど日本シリーズの最中ですが
ファイターズのチームとしてのつなぎの意識や
ヒルマン前監督の残したという“2ストライク・アプローチ”、

これらを見るとファイターズはチームとして
四球は戦略的に“積極的に奪いにいくもの”との意識が
じゅうぶんに各選手に浸透しているようですね。

追い込まれたら粘って粘って四球をもぎとるという行動は
四球がヒットと同じくとても高価値なものだという
打者の意識のたまものです。

こんな意識を持った打者やチームが
伝統的な“四球は余計なもの”という意識の
投手やチームと対戦するとどうなるか。

打者は追い込まれても積極的に粘って粘って四球を奪い
投手はそれを理解できず“余計な”四球を与えたことで
自分の制球を疑い、また四球にまつわる“言い伝え”を恐れ
過剰反応を繰り返しどんどん自分の制球を疑い狂わせ

自分の投球に対する疑いがそのまま
自分の実際の投球に悪影響を与え
どんどん四球を連発し、痛打を繰り返して
ついには自滅し結果もまったく出せなくなる。

ライオンズにかえりますと
来シーズンは間違いなく相手チームに与える四球を減らすことが
投手陣の1つの大きな課題になり
制球の向上が大きなトレーニングのテーマとなるでしょうが

登板によって制球が抜群に良いときと悪いときの差が激しい、
これが投手陣の課題の本質なのであれば

今以上の針の穴を通すような制球を追い求め迷うより
四球に対する認識をより正しいものに改め

チームとして、投手陣だけでなく打者陣も含めて
四球を改めて正面から見直して
きちんと評価してあげることがとても重要でしょう。

打者陣は若く向上心の高い選手が多いこともあって
打ちたい、打って“期待”にこたえ評価を得たいという
強い意識がひしひしと感じられたライオンズ攻撃陣。

K/BB(三振数÷四球数)という指標があり、
三振数が多く更にはこの数値が高いと
比較的攻撃陣が選球眼が悪く振り回すことを意味しますが

$ピーナッツとクラッカージャック-K_BB
(※ 交流戦での投手の打撃成績は除く)

ライオンズ攻撃陣は三振数もリーグ1位かつ
K/BB値も2.55とパ・リーグの中で最も高く

かたや四球への意識がとても薄かった攻撃陣と
もう一方ではイヤというほど四球幽霊にとりつかれ
恐怖のどん底に落とされた投手陣という図式が
はっきりとあらわれました。

これからの課題は、チームとして四球を過大でも過小でもなく
正当に評価しアプローチして取り組んでいくことでしょうね。

チームとしての評価、そして期待が
きちんと四球を“奪い取る”ことに向いていけば

ちょうど“打つ”技術が進化すると共に
“打たれない”投球や配球がどんどん洗練されていったように

四球を奪う技術、ノウハウがチームに蓄積されていけば
四球を与えない投球術、配球も編み出され工夫されるようになり

だんだんと“四球幽霊”はその姿を
自然と現さなくなることでしょう。