スケープゴート | Peanuts & Crackerjack

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Dedicated to the Saitama Seibu Lions organization and its players, baseball itself, and those who want to know what counts most in a given situation you are in and to make right decisions in a confident manner everytime. May the 'dose of luck' be with you!

2007年シーズン、シアトル・マリナーズは
88勝74敗の成績でアメリカン・リーグ西地区2位、
シーズン終盤まで西地区優勝やワイルド・カードを争い
惜しくもプレーオフ進出はならなかったものの
これならば来シーズンこそは、の期待を残し
シーズンを終了しました。

そして迎えた2008年シーズン。

シーズン前に着々と大型補強を敢行し意気揚々、
期待に胸ふくらませながらスタートを切ったものの
なんとその成績は終わってみれば61勝101敗、
西地区首位のエンジェルスから実に39ゲーム差の
ダントツの最下位という最低の成績に終わりました。

そんなシーズン中盤には既にそれ以降の試合が
まさに“消化試合”となってしまったチームの中では
当然のことながらシーズン中から不平不満、憎悪が渦巻き
その犯人捜しに始まりチーム内での不協和音、
妬み嫉み、責任逃れ、内部リークなどなど、、、

ありとあらゆるものやひとが疑われ
原因と強引に短絡的に結び付けられ
徹底的に批判されこきおろされていきます。

そんな苦しくて今にも溺れそうな状況から
何とか自分だけは逃れ守りたいという思いから
短絡的に強引に祭りあげられ矢面に立たされる
“犯人”なんてそれこそスケープゴート、

本当の問題解決からますます遠ざかるにも拘らず
とりあえずは当面の状況をなんとか収拾するためにと
“冤罪”を一身に背負わされた身代わりでしかないのです。

そしてそんなスケープゴートに祭りあげられやすいのは
えてして“集団”の“常識”に頼り従おうとせず
いつも異彩を放つマイノリティーな集団や個人。

当然自立し自分の哲学に沿ってさらなる高みを目指していく
真のプロフェッショナルは嫉妬やあら探しの格好の的となり
スケープゴートとして容赦なく叩かれる可能性が高いといえます。

2008年シーズンのマリナーズのスケープゴートは
イチロー選手でした。

2008年シーズン終了後、フリー・エージェントの権利を行使し
ニューヨーク・メッツへと移籍した
元マリナーズのクローザー、J.J. Putz 選手は

2009年シーズン前に、2008年シーズンを振り返り
Seattle Times 紙のインタヴューに対し
以下のように答えています。

"There were just some guys that just aren't really team guys."

"It's hard to argue with 200 hits every year, and a lifetime, what, .320 hitter.
I just think there's so much more he can do that doesn't happen.
I would have liked to have seen him take more chances on the basepaths.
It seems like he was only going to steal a bag when he was absolutely sure.
I don't think he even realizes how good he is at stealing bags."


(※ 引用元の記事はこちら

チームが苦しいのだからそれこそチームのために粉骨砕身、
メンバーが軒並み戦列を離れ成績を劇的に落としている中でも
変わらず好成績を残している主軸選手こそこの苦しい時に
リーダーシップをとってチームをひとつにまとめ、
いつも以上のハッスル・プレーをもって導いてほしいというもの。

いくら個人主義の合衆国でもやはりこんな文法はあるのですね~。
ましてやチームという集団の働きをより重視する傾向の強い
わたしたちの間では、こんな文法にお目にかかることって
日常茶飯事で、いわば至極当然の“常識”であるかのようですよね。

で、この Putz の発言に対しイチローはこう答えます。

"I hate to be wasting time with this kind of thing. I'm surprised at this."

"We're all professionals here. Is it at a level
where I have to explain to other people the reasons why I do things?"

"We are all professionals.
It makes me feel like a mom telling a child, 'This is why I do things.'
So the problem, once again, is we were still at that level."

"Trying to get a team together and point to one guy and
say follow this leader sounds very easy and simple thing to do.
In fact, if you go in this style there are manholes in this style of doing it."

"I think people who believe this fundamental thought process of
choosing a leader and getting a team to follow them
should change their thought process.
What's important is ... individuals who want to improve themselves."

(※ 引用元の記事はこちら、またこちらの記事では
この Putz とイチローのメディアを通してのやりとりを
簡単に日本語でまとめてあります)

まあ簡単に一言でいうならば

苦しい厳しい状況に不安を抱き何とか早く逃れたいと
救世主たるリーダーを熱望しそのコトバや教えにひたすら
従いついていくなんてプロフェッショナルじゃあないし
それにそんなことに依存しているようではいつまでたっても
問題なんて解決しないし結果なんてついてこないよね、

こんなところでしょうか。

昨日も触れたように対症療法だけでは
根本にある問題解決はできないのです。

もちろん、シーズンが新しくなり
状況がそこまで悪くなければ問題を解決しなくったって
チーム状況や“流れ”に依存していれば
なんとかそこそこの、特に良くもないけれど悪くもない
目立たない“フツウ”の成績を残せますよ。

でも、そんな選手ってわたしたちがお金を払ってまで
見る価値のあるプレーをみせてくれるのでしょうか?

もちろんそれでもチームのマネージメントという制約の中で
そんな選手でも必要な部分がありますから当然
なんとかだましだまし起用していく必要もあるのですが

そんな選手たちの不平不満や不安恐怖が
集団的に大きな影響力を持つ無視できない心理だからといって

すでに自立し自分の高い目標に向かってどんどん進んでいる
どんなときにもコンスタントに結果を残す
貴重な主軸選手に対するあら探しを真に受け
そんな選手にチームのすべての責任を押しつけるのは

それこそ本末転倒ですよね。

イチロー選手の言うように
他人の考え方は変えることができないものですし
それにそのひとの問題意識と自覚と意欲がないかぎり
まわりがどれだけ世話を焼いたところで成績は向上しません。

以前考察したように

誰もが素晴らしいと認める唯一絶対的スターが存在していて
明らかに水をあけられているひとが追い付け追い越せと
ひたすらしゃにむに迷うことなく突き進んでいた時代には

その強力なリーダーシップほど
絶大な効果を発揮するものはありませんでした。

しかし、今やひとりひとりがそれぞれプロとして
これといったモデルに依存することなく自分の能力と工夫で
誰もが進んだことのない道を試行錯誤の中進み切り開いていき
一歩一歩成長して進歩していくときなのです。

“苦しいよ~、救世主よ道を示し救ってください~”では
プロとして長年にわたって成長しながら
素晴らしい成績を継続することはできないのですし

逆にそんな依存体質こそはっきりいえば
苦しく厳しい時に誰かをスケープゴートに仕立て上げる
最も厄介な組織の“ガン”なのです。

そしてチームの成績は自分のちからでどうしようもない
悲しいかな“所詮はヒトゴト”で依存せざるを得ない
メディアやわたしたちファンの集団心理が短絡的に
食いつきやすくつられやすいのもそんなスケープゴートです。

状態の悪いチームの末期症状はこんなところに行きつきます。

まずは水面下でスケープゴート探しが始まります。
依存することしか許されないファンやメディアが
そのフラストレーションを明らかな問題点だけに
ぶつけることだけではおさまらず飽き足らず
関わるひとやものすべてに強引に短絡的にぶつけだします。

例えば、こんな記事ですね。

もちろんこんなばかばかしいあら探し、
最初は相手にもされませんよ。

でも、低成績が続きフラストレーションがたまっていくと
そんな“ばかばかしい”理由づけが水面下で集団的に共有され

そして内部の“自分だけは逃げたい”選手や関係者のリークが
出てきて火をつけ大きく取り上げられるようになると

“火のないところに煙はたたない”ロジックが力を発揮し
集団の中でその心理が“常識”のように共有されているから
やはりそれは真実をとらえているのだ、となり

いつのまにか反論を許さないほどの大きなうねりとなって
スケープゴートをよってたかって攻撃し続けるのです。

ワクさんがワガママだの球数が多いだの
ヤスさんが全力で一塁まで走らないだの
剛也さんがチャンスの場面で粘れずあっけなく三振するだの
大事な場面でエラーをするだの、といった
重箱の隅をつつくかのようなあら探しの数々。

あげくの果てには
みんなリーダーとしての自覚が、気合いが足りない、
特別扱いされてのぼせあがってるぞ、なんて
ホントくだらないとしか言いようのないものまで登場。

もちろんそこには個々の選手が少しずつ向上していくべき
課題のヒントも含まれていることもありますが

注意しなくてはならないのはチームの成績低迷の原因とは
それはまったくかけ離れたものであるということです。

こんな時だからこそ、首脳陣も選手たちも、そして
わたしたちファンもその真価が問われるのです。

その不満や怒り、恐怖に流され迷うことなく
しっかりと自分の目と感覚とアタマで判断し
今自分の置かれている状況に冷静に正面から向き合い
目をそらしたり逃げたりすることなく
今自分のできることに集中しましょう。

そうすれば雑音に対し明確に対抗することができ
恐怖は自然と自分の中から姿を消すでしょう。