問題に正面から向き合う | Peanuts & Crackerjack

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"social anxiety disorder"という症状があります。

まわりのひとたちとの関わりあいが
重要な要素のひとつである社会生活のなかで
その関わりあいに過敏に神経をさきすぎ、
それに気を取られるがあまりに
社会生活の場において自分の思ったような
パフォーマンスをあげられない、という"issue"(問題)です。

日本語ではそのまま「社会不安障害」と訳されており
ひとつの“こころのやまい”として認識が広まりつつありますが

そのイメージといえば

こころ(メンタル)の著しく弱い社会的弱者が
どうにかこうにか社会に適応し最低限の生活を可能とするために
施される専門家の治療


といったところでしょうか。

そのイメージから、「社会不安障害」と診断されること自体が
自分はこころが弱く病んでいる、と認めることとなり

あるひとはそんな“社会的弱者”のレッテルを
貼られることに対する羞恥心や
自分に対する対外的評価の下落の恐怖から、

そしてまたあるひとはそのレッテルに寄りかかって
孤独な戦いのつらさから逃れ
自分を“弱者”にカテゴライズすることで
こころの平静を得たいという思いから、

その問題に正面から向き合い取り組むことを拒否します。

こうしてこの症状と真正面から向き合い取り組むことは
特にそんなメンタルの特徴を持つひとだからこそ
かなりの困難を要し、極めるものであることが一般的ですが

当然ながら真正面から向き合わなければ解決するわけもなく
パフォーマンスはいつまでたっても
期待を満たしたり上回ったりすることはなく、

そして自分の認識も
“いつもなら力はあるはずのにおかしいなあ”から
“自分の力はもとからこうなのかなあ”へと移っていき

ついには低いパフォーマンスが自分でもあたりまえとなり
みずから成長も結果をだすことも放棄してしまうのです。

そう、まずはきちんと自分が自分の状態を正確に
“自分の”認識として把握し、そこにある"issue"に
正面から向き合い取り組むことが最も重要なことなのです。

"disabled list" (故障者リスト、DL)という制度が
MLBにはあります。

単純化していえば
故障した選手をマイナー降格にしようとすると
その選手をウェーバーにかける(支配権を放棄する)必要があるので
DLに置くことでそれを回避し
また故障が癒えればスムースにメジャーに戻せる、というもの。


そのほとんどが肩の故障だとか、脚の筋肉が痛いとかいった
身体的故障なのですが、そんな中にも上で述べた心理的症状の
"social anxiety disorder" が故障の原因として、
しかもチームの主力選手の故障の原因として
はっきりと存在するのです。

2006年には今年目覚ましい成績を残している Zack Greinke 投手が
そして今シーズンではシンシナティ・レッズの主砲 Joey Votto 選手や
Dontrelle Willis 投手(デトロイト・タイガース)、
Khalil Greene 選手(セントルイス・カーディナルス)など。
(※ Votto 選手は厳密には社会不安障害とは少し違います)


そして、選手が偏見なく落ち着いて
その症状に向き合い対処していけるよう
チームの様々なサポートが用意されています。
(※ 詳しくはこの記事を参照してください)

MLBでもまだまだ心理学を利用することに対して
そんなことは“男”らしくなく
“男”ならそんな弱みは他人にみせずぐっと我慢して
自分だけで気合いで、激しいトレーニングで
克服するものといった偏見は根強くあるようですが

それでもその一方でどんどん
"sports psychologist"(スポーツ心理学者)を利用し
自分のパフォーマンスを向上させる試みは進んでおり
またそれで素晴らしいパフォーマンスを残すという
実績も蓄積されつつあります。

もともとベースボールや野球はいうなれば
OBをはじめとした経験者たちのプライドで詰まった
神聖不可侵な "sanctuary" (聖域)であり
今でもその城壁は堅固なままです。

しかし、前にも述べたとおり
経験は時にウソをつき、ひとをだまし進歩を阻害するのです。

ですから

統計学を持ち込んでセイバー・メトリクスを産み出し
選手の特徴の分析や評価の指標を豊富にしたり
心理学を持ち込んで自分の外の刺激や情報に対する
自分の対処法を整理し向上したりすることは

利用する選手ひとりひとりが
自分の長所と問題点を明確に把握し
そこから対処法や目標をきちんと見出すことで
そのパフォーマンスを向上させていくために
なくてはならない試みなのです。

期待を一身に背負う状況にあるとき。
失敗の経験を消化するとき。
成功のためにその準備(練習)をするとき。

そんなときには、特に最高峰のリーグでたたかう
素晴らしい才能とメンタルの強さをもつ選手だからこそ

時にどうしようもないほど期待と願いの大きさを感じ
とてつもない恐怖をこころの中に産み
その恐怖と正面から戦わなくてはならず、

ひとりのちからでは、今までのやりかたでは
飲み込まれ、流され、負けて自滅してしまうことも
決して珍しいことでもないのです。

そんなときにはそれを自分の“恥”と
自分の中に押し殺してしまうのではなく

それを自分をよりよく“知る”ための、
そして自分がよりよいパフォーマンスを
発揮できるようにするための
ひとつの立派な試練ととらえ

専門家のサポートを
自ら積極的に求めるべきでしょう。

ライオンズに戻ってみると
リリーフ陣のメンタルが、ハートが、、、
ここ数年こんな声を首脳陣からもよく聞きます。

直球のスピードはあるし素晴らしいボールもあるのだけど
肝心な場面でびびって腕が振れず四球、痛打の繰り返し、、


それが改善の徴をみせないということは
つまりきちんとその問題と正面から
向き合っていないからなのでしょう。

つまり未だにメンタルの問題が

選手個人が“普通なら”解決できるはずのものだから
自分で男らしくグッと我慢して気合いで
そんな弱気はこころから蹴り飛ばして何も考えずに
投げ込みや走り込みに毎日没頭していればOKで
チームのサポートなんていらない、

こう偏見と共にとらえられているからでしょう。

去年の北京オリンピックでGG佐藤選手が
大舞台でショッキングなミスを連発したあとは
メンタル面でのサポートはきちんとあったのですから

それと同じようにリリーフ陣のメンタルの問題も
より真剣に真正面からとらえチーム全体として
改善のためのプログラムを専門家と共に
ハッキリと大々的に組んでいくべきでしょう。

幸いライオンズという組織は
バッター陣を見ればよくわかるように

いわゆる“体育会的”経験論が
隅から隅まで支配しつくしている組織ではなく

より柔軟で新しい挑戦に寛容なところを持つ
そんな組織だと見受けられます。

素晴らしい潜在能力を持った選手たちが
その力を最大限大舞台で発揮できるようにするため

選手たちが個々人で孤独に
効果の薄く先の見えない戦いをするのではなく

より大々的に心理学を取り入れ
チームのプログラムとしてよりじっくりと
自分の問題にハッキリと正面から安心して
積極的に取り組むことができるように

選手個人としても、そして
チームという組織としても
ぜひチャレンジしてほしいと思います。