凜は、堂々と答えた。なぜならもう何十回とみているスワニルダの1幕のバリエーションの振付は既に頭の中にあるから。
次の日のクラスレッスン後のコンクールレッスンで凜は初めて踊った。家ではママに「家を破壊しないで!」と言われながら何度となく踊ってみたけれど、広いところで踊るのは全く違った。距離感も上手く掴めないし、パとパの繋ぎでどうしても音がずれてしまった。そして何よりひどかったのがグランパドシャ。全く飛べなかった上に、曲が終わった時の自分の体力のなさに愕然とした。
先生も苦笑いしながら
「これは相当頑張らなくちゃならなさそうね。まずは体力!そしてね、いつも言ってるけど、腸腰筋の引き上げが全くないの。上体の引き上げは何回もやって、自分の感覚を掴むしかないの。それから、出だしのとこのドゥバンの足!パラレルはありえないし、お尻だって後ろに付き上げて出してるでしょう!これも、筋肉!腸骨筋は縮めない!大殿筋は使わない!座骨は真下!」
と矢継ぎ早に全体にわたる注意をした。
最後には凜も「はい。頑張ります…」と弱々しげに答えるしかできなかった。
自分では「もっと踊れると思ったのに…」そう思ったら悔し涙が溢れてきた。バリエーションのビデオを撮りに来てくれているママにハンカチをもらって涙を拭ったけれど、ママは何も言わなかった。
他の生徒達が代わる代わるに先生に注意を受けている間、凜はひたすら飛び続けた。もっと高く、もっと遠くへ!凜のイメージの中にいるオリガ・オシポワはまだまだ遥か頭上にいて跳んでも跳んでも凜の指の先すら届かないところにいた。
「腸腰筋出てこい~!!」凜はそう心の中で願掛けしながら飛ぶ練習を繰り返した。
レッスン後、着替えをしていると、先生とママが話していた。
「まずは、7月のコンクールでこれを踊って、8月の全日本グランプリで上位入賞を目標にしたいと思っています。」と、先生が言った。
「はい。よろしくお願いします」ママの声が聞こえた。
そして、続けて先生が
「ちょっと今日の感じじゃ、いろんな意味でまだまだですけど、凜ちゃんなら頑張ってくれると思うので。私からも本人に言っておきます。」と言っている声が聞こえてきた。
「7月!」小さな声だったけれど、思わず凜は叫んでいた。周りのみんなも何?という表情でこっちを見ている。
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