Aug 28, 2018 (Sat)

18C 歌舞伎役者 初代中村仲蔵(1736-1790)

  (市川新之助(現・海老蔵)がTVドラマで・・)

仮名手本忠臣蔵 五段目 斧定九郎 追剥の浪人役

これをいかに演じるか・・・思案の毎日 

芝居の中にリアリティを如何に持たせるか・・

大雨の日 TVでは軒先で雨宿りのわずかな時間に

身づくろいを整える浪人が現れる。
黒羽二重の引解(ひきとき)、茶献上の帯、裏同士で合わせた雪駄を

腰に挟み、尻を高々に端折り、蝋色艶消しの大小を落とし差しにして

立姿が凛々しい。雨に濡れた左右の袖を絞り水を落とす。
破れた蛇の目傘を再び開いて雨の中を突き進む。
その様を盗み見た仲蔵は、定九郎の拵えのヒントを得る。
遊びの金に困って山崎街道あたりで追いはぎをするには、

尾羽打ち枯らした身なりではあり得ないと納得する。
古着屋に出向き舞台映えする衣装を考える。

五段目といえば、昼どきに差しかることもあり、観客は余り見ていない。
お軽を身売りした帰り道、50両を持った父・与市兵衛が出てくる。
そこへ、揚幕の中にいた定九郎が、水を含ませた蛇の目傘を

半開きにして顔を隠し、声を掛け駆け出してくる。
足はまっ白、着物が真っ黒、斬新ないでたち。
その定九郎、舞台中央にいる与市兵衛の肩をポンと叩き、

クルッと回って傘を開くと肩に担ぎ、初めて顔をみせてカァッと見得をきった。
観客から声がかからない・・・ あまりにも良すぎるため。
今まで見たこともない定九郎の演技の素晴らしさに、見物客は息を飲む。

一瞬しーんとして、それから、ううぅわぁと騒めいた。
ところが、仲蔵はこれを、客が喜んだと思えず、笑われ、

悪口を言っているのだと勘違いした。
しかしそこは仲蔵、しくじった!と思いつつもここで芝居を投げず、

定九郎も今日限り、と一生懸命にやりきろうと考えた。
「前の宿からつけてきた。金の高なら四、五十両。二、三日こっちに貸してくれぇ。」

と強請る定九郎。
いやがる与市兵衛を殺し、懐から財布を奪い、蹴倒したあと、左足を前に出し、

そこへ刀を据えて、また見得をきる。
その姿のいいことに客がまた唸る。

刀を鞘へ納め、財布の紐を首にかけ、いざ金勘定。

ここで「五十ぅ両ぉ~!」と大見得をきった。
財布をぐるぐると巻いて懐にいただいて、与市兵衛の死骸を谷底に。
折悪く、そこに一頭の猪が駆けてきた。
定九郎は慌てて戻り、傘を放り出し大小を抜き掛け稲に割って入る。
走り去った猪の行く手を見送りながら、後ろ向きに掛け稲を出てきたところ、

定九郎は、背中に銃弾を受ける。
猪を追いかけてきた勘平の放った鉄砲に撃たれて倒れる定九郎、

大小を放り出してそこに転んだ。
そして、正面を向いて二度目に起き上がったとき、定九郎の胸から腹へ血糊が

べったりとついていたから見物客はびっくりした。

これも仲蔵が考えた工夫だった。

それまで、血を吐いて死ぬなんて演出は誰もしたことがなかったのだ。

股を広げて苦しむ。十分に苦しんで、仰向けに倒れる。

見物客がまた割れかえるように沸く。