「――じゃあアタシは、YOIで【against】!」
マイクを渡された藍羅は予約機で入れた曲名を告げて歌いだす。
正直なところ、陸人は思っていた。
藍羅は、藍羅になら、ボーカルを任せられると。
幼稚園の時からずっと一緒にいて、ずっと思っていたこと。
藍羅は、音楽に関して、類まれなる才能を持っている。
「現実ってやつ?♪」
藍羅が歌う歌は、上手いとか下手とかじゃなく、人をひきつける何かがある。
千種が下手とか、陸人自身の好みとかでもなく、藍羅にしかボーカルはできない。
そう思って藍羅の曲に聴き入っていると、いつの間にか藍羅の曲は終わっていた。
部屋の中に訪れる静寂。
しん、と静まり返る部屋の中で、藍羅だけが恥ずかしそうにモジモジしている。
「…はい、下手糞だよね。熱唱してすいませんでしたー」
恥ずかしさを隠すためなのか、おちゃらけた風に放つ言葉。
その言葉にまず反応したのは千種だった。
「…すげえ、いや、すげえよ藍羅!お前そんなに歌上手かったのかよ!」
驚きを隠しきれず、テンションがあがっている。
そんな千種の後に、陸人が会話を繋げる。
「…わかってはいたことだけど…実際にやられると悔しいものがあるな…」
正直な感想。
実際に自分の歌い方と比べると、自分の歌い方に自信がもてなくなる。
そんな男子2人からの賞賛を受け続けた藍羅は、何を返していいのかわからず、ただ真ん中で嬉しそうにしているだけだった。
そして得点発表。
現在は暫定で陸人が82点で1位だ。
3人は画面に現れた得点を眺める。
その数字は―70点だった。
「…はあ?おかしいだろ?」
千種が採点に文句をつける。
3人の中で1番最低点数がつけられた。
「…千種、これはいつもどおりなんだ」
「は?何言ってんの?」
「アタシはね、採点機種に嫌われている…」
「いや、そんな深刻な表情で言ってもこの物語シリアスさ出せないらしいから」
「それは言っちゃダメ!」
作者はシリアスに書き上げるのが苦手なのです。
「ともかく、藍羅はいつもカラオケにくるとこんな点数だ。だがしかし、俺はあえてボーカルに藍羅を推薦しよう」
「何でだよ?俺らが藍羅の歌が上手いと評価しても、この採点機みたいに聴く人がそうやって評価したらどうするんだよ?」
バンドとは、結局は他人からみた評価で人気が決まる。
いかに自分達で満足していようと、他人から見て「ダメだ」と判断された時点でバンドの人気は落ちるのだ。
「…千種の言うとおりよ。陸人、ボーカルはアンタがやりなさいよ」
「いや、だからポジティブに考えようぜ?」
「?どういうことだ?」
「今は70点だ…が、それはまだ経験も練習も積んでない今の藍羅だからだ。だけど、これから始めるバンド活動を通して、藍羅はまだ30点分の伸びしろがあるってことだよな?」
「!なるほど…それに比べて俺らはほぼ伸びしろがないということ?」
「まあ、でもそれは機械の採点を信じるなら、の話よね?」
「そうだが、とりあえず今はそれでいいんじゃないか?千種も感動したんだろ?」
「うっ…そうだな」
詭弁、とも取れそうな陸人の説得に2人は折れてしまい、結局ボーカルは藍羅になる。
その後3人はカラオケでストレスを発散するかのように歌いまくり(途中千種がデスボイスで喉を壊したが)、帰り道で楽器練習のための参考書を買って帰る。
それぞれの本を買ったあと、千種だけが逆方面だったので交差点で別れを告げる。
「おーう、じゃあまた明日なー!」
去り際に突風が吹き、近くにいた女子中学生のめくれたスカートを覗き込んで張り倒されている千種を眺めて藍羅は言った。
「…あんなことしてるけど…千種はいいやつよねー」
「ん?どういう意味だ?」
「あ、なんでもない。…んじゃ、アタシも行くから!」
「同じ方向じゃねえのかよ」
「ちょっと寄りたいところがあって…じゃあまた明日ね!」
そう言うと藍羅は裏路地に消えていった。
「…?怪しいな…」
陸人は追いかけようか少し迷ったが、あまり詮索をかけるのもよくないなと思い、結局自分の帰路についた。
「…さて、じゃあドラムのやつとどうやって接触するか考えておくか…」