高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

高校日本史テーマ別人物伝 時々amayadori

高校日本史レベルの人物を少し詳しく紹介する。なるべく入試にメインで出なさそうな人を中心に。誰もが知る有名人物は、誰もが知っているので省く。 たまに「amazarashiの歌詞、私考」を挟む。


○2026年夏の週末の夜、数百年前の歴史の幕が上がる・・ッ!

◇『ワールドイズダンシング』
 7/3(金)23:00~ BS朝日




○登場する為政者サイドキャラクター

▼「足利義満」(声:櫻井孝宏)・・

▼「二条良基(にじょうよしもと)」(声:飛田展男)・・


 〖 公家。元関白であり、歌人。鬼夜叉の姿に心を奪われ、鬼夜叉を「藤若(ふじわか)」と呼び、自身は「信者(ファン)」と名乗る。〗
 フオォォ、『応安新式』『菟玖波(つくば)集』で中世の代表的文芸・連歌(れんが)を確立させた大文化人が登場! 声はカミーユとテラザウラー/クイックストライクの人ですな。


▼「細川頼之(よりゆき)」(声:松田健一郎)・・
 〖 室町幕府管領。若き将軍である義満を支える補佐役。芸事への広い知識を併せ持つ。〗 声優さんはトールズの中の人。
 主人公たる鬼夜叉=世阿弥、その父の観阿弥に彼が率いる観世座の面々、そして観世父子の最大のライバルとなる犬王。
 能楽の起源の時期、その中でも世阿弥の前半生の一つの可能性を描く『ワールドイズダンシング』。

 物語のスタート時点は1374年。その頃は、南北朝の動乱期も後半に入ったところ。足利尊氏や後村上天皇など動乱中期までの主だった人物もみな鬼籍に入り、足利幕府が擁する北朝が優勢ながらも未だ南朝が抵抗を続け、しかし時代は次の世代へとバトンタッチして新たな局面を迎えようとしていた。
 政治・軍事的には足利3代将軍の義満の成長と将軍を補佐する管領職に就く細川頼之の手腕で、有力武士の寄り合い所帯だった幕府が徐々に力をつけて全国の支配権をなんとか掴み始めた時期。安定と不安定が絶妙に交差していた頃ですかな。

 本作の主眼はあくまで芸能の起源に宿る原初の衝動と身体表現・舞台演劇の可能性だけれど、その背景としての世相・時代背景もうっすらと感じ取ってみたい。

◇『逃げ上手の若君』第2期
(金)23:30~ フジテレビ “ノイタミナ” 枠
(*第1期は7月3日終、第2期は翌週か翌々週スタートかな?)



 こちらは現行「ノイタミナ」枠の第1期が続投して第2期に突入します。
 見所は、そうさな、北畠顕家(きたばたけあきいえ)出てくるかな? 主人公の “逃げ上手” 北条時行に勝るとも劣らぬ強烈なキャラ付けの貴公子将軍、全国区に進出すれば一躍時の人となって人気をかっさらう気が致しますです。もうこれ以上の「北畠顕家」は出てこれないよね?


○両アニメに関係してくる、南北朝時代を描く軍記物語『太平記』

 『逃げ若』第2期の始まりは1334年頃、『世界踊』は1374年。今のところ40年くらい離れてますが、その間ず~っと戦乱が続いていました。
 建武の新政が崩壊して足利尊氏の蜂起と南北朝対立、1350年代初めの観応の擾乱など両朝それぞれで内部抗争が生じ、相次ぐ局地的な係争を経て再編されていく土地土地の支配構造。

 長きにわたる戦乱の時代といえば、16世紀(1500年代)を中心とする戦国時代が目を引きますが。鎌倉幕府滅亡(1333年)から両朝統一(1392年)までのおよそ60年間の南北朝時代も、数々の名将と名場面を生んだ激動の時代でありました。
 江戸時代や明治・大正・昭和の市井の人々も、源平合戦・戦国時代と並んでこの南北朝期の武将や軍師の話を好み、その人物群像や多くのエピソードをよく知っていた。現代でも戦国時代はなお人気を博すが、南北朝期の話となるとちょっと知名度が落ちるかと。

 ただ、この南北朝の動乱を描いた物語が日本人のメンタリティーに相当の影響を与えてきたのは確からしく、そうとは知らずにそれを取り込んだ現在の創作物に我々は日々触れたりしている。
 しかも南北朝の歴史そのものというより、その物語を記した『太平記』の叙述に影響されること大であると。『太平記』は史実に基づきながらも創作も多く混じり、あくまで「軍記 “物語”」であって正統な歴史書ではない。にも関わらず、読み物や講談物としての人気が高かったことから、庶民的にはこれが南北朝期の歴史のスタンダードになってしまったという曰く付きの書。

 そうさな、『三国志』に対する『三国志演義』の位置付けとでも申しましょうか。1800年前の中国・三国時代を記した歴史書『三国志』は3世紀末頃、同時代のもうほぼ当事者である陳寿(ちんじゅ)によってまとめられた。
 しかし『三国志演義』の方はずっと後の14世紀後半、『三国志』や先行する史書を元に書き上げられた、半分近くは創作のファンタジー時代劇。大筋は正史を辿りながら、勧善懲悪観の作用で人物像や経緯が異なる部分が多々見受けられる。

 その『三国志』と『三国志演義』の関係に似て、『太平記』は南北朝期の出来事を時系列順に辿りながらも、他の時代の話題や中国の故事が縦横無尽に織り成されるという創作読み物としての側面も強い。
 だが後世の人々が『太平記』の記述に親しみその逸話を楽しんだことで、半ばはこれが南北朝動乱期の姿を描く正史として定着してしまった。もちろん他の史書も出版されたりはしているんだけど。

 では改めて『太平記』の概略を。著者不明、全四十巻。現在の形でまとめられたのは応安年間(1370年代)頃か。
 後醍醐天皇の即位と倒幕計画から始まり(1320年前後)、幼い足利義満の補佐として細川頼之が管領となる(1367年)までを叙述する軍記物語。

 成立は14世紀後半だが、近い時期を描く軍記物『梅松論』や公家の『増鏡』、また南朝側の正統を主張した北畠親房『神皇正統記』などの歴史書が多くある中で、とりわけ南北朝動乱を克明に記述した史書として後代に伝わっていった。
 そして江戸時代、その流布を助ける演芸スタイルが生まれる。講談の源流の一つである「太平記読み」。戦乱が止んだ江戸期に入り講釈師たちが活動し始め、17世紀後半に盛んとなった。庶民演芸のメッカである浅草に優れた講釈師が集まって口舌を競ったという。

 太平記読みは読んで字の如く『太平記』を台本に講釈師が内容を読み上げていくもので、ただし原典を一字一句正確に辿るわけではない。大筋は『太平記』本文を下敷きにしながら、各講釈師たちが持論や世評、虚構に時事ネタなどを交えて自由に語ったため、どんどんバリエーションが増えていった。
 聴衆のために面白さを加味するのは勿論のこと、独自の見解や歴史認識、他の書物からの引用やオリジナルエピソードの挿入なんかも思い思いに行ったので、各人で語る内容の異同は大きくなっていっただろう。

 けれど『太平記』の勘所、名シーンや名ゼリフは共通して何度も何度も繰り返し再演された。それを聴く庶民の裡にも『太平記』の大筋と精神性は着々と浸透してゆき、南北朝期を捉える歴史観の標準となるとともに「南朝贔屓」の気質も受け継がれていく。
 『太平記』は江戸時代を通じて講談や話芸、歌舞伎や浄瑠璃作品の種本・ネタ元として大いに活用され、歴史物として、或いは同時代に起こった事件のカムフラージュとしての仮託創作物ともなって庶民に親しまれた。明治期に入ってもそれら口芸・演劇の文化は存続したから、昭和の半ばくらいまでは南北朝の武将や公家らの名前をつらつらと諳じられる人が多く居たのでしょう。

 一方、江戸時代の歴史家たちにも『太平記』は大きな影響を与え、水戸藩『大日本史』や新井白石『読史余論』は『太平記』を正当な史書として扱いその思想性に大いに影響され、または自論の補強に役立てている。
 武家政権が「武士の鑑(かがみ)」として参照した『太平記』の精神性は、引き続き近代政府にも「君主への忠心」を自発させる倫理装置として援用された。歴史事実だけでなく、日本人の歴史認識と道徳観をも強力に規定してきたのが『太平記』という中世の歴史物語なのである。

◇『太平記史観 日本人の歴史認識を支配した物語』谷口雄太
 こちらの近刊は、現代の「司馬遼太郎史観」よりも更に深い歴史認識を日本文化に植え付けた「太平記史観」をつぶさに検証。その虚実や実態との齟齬を紐解きながら、『太平記』が縛ってきた南北朝時代の “正史” を問い直さんとする。
 歴史の事件や人物に対する「物語化」や「メディア作品」の力って偉大なものだけど、それ一辺倒だと事実が置き去りになり歴史が歪んでしまう。かといって、それが無いとマイナーな史実や人物が埋もれて日の目を見なくなってしまう弊がある。

 アニメやマンガ、ゲーム作品をきっかけに歴史に入門してもいいし、歴史を学びながらそのメディア化の在り様を楽しむこともできる。
 『ワールドイズダンシング』の流麗で奥深い芸術性、『逃げ上手の若君』のブッ飛んだキャラ付けの妙と登場人物達の「事実は小説より奇なり」の数奇な運命を、この夏はとくとご賞翫あれッ!


○おやおや、土曜の夜はアジア大陸を駆けめぐる大帝国の内側で策動する、深謀の女傑のお話ですよ・・

◇『天幕のジャードゥーガル』
 7/4(土)23:30~ テレビ朝日
 *初回は23:00~ 1時間スペシャル


(あら、エンディング主題歌は女王蜂『星』)



 可愛らしい絵柄ながら、描かれるのはモンゴル帝国が席巻するアジア大陸で繰り広げられる、知恵を駆使した壮大な復讐劇。
 主人公の縁深い里を滅ぼした仇敵として、巨大な「モンゴル帝国」を築き上げたチンギス・カンの4人の皇子たちが出てくる。

 チンギス・カンの子供達とその孫世代はモンゴル高原から出て更に勢力を拡大し、四方八方に遠征して各地の勢力を平らげ、やがてアジア大陸の半分程を覆う世界史上最大の帝国を打ち立てます。
 彼らはその皇帝や各方面軍の司令官として大陸を縦横無尽に駆け抜ける。兄弟ながらその間には確執も競争もあり、後宮や家臣団の思惑も絡み合って帝国の版図拡大の裏では策謀が巡らされたりもしている。その間隙を突いて復讐を狙うのが本作の主筋の醍醐味。

▼「ジュチ」(声:野島健児)
〖「モンゴル帝国」皇帝チンギス・カンの第一皇子。〗


▼「チャガタイ」(声:浪川大輔)
 第二皇子。

▼「オゴタイ」(声:下野紘)
 第三皇子。

▼「トルイ」(声:鈴木峻汰)
 第四皇子。

( アニメ公式サイトにキャラクター紹介があります。)

 チンギス・カンの4皇子、これにジュチの子のバトゥ、オゴタイの子のグユク、トルイの子のモンケ・フビライ・フラグら孫世代から、モンゴル帝国皇帝と各地の独立国の統治者が輩出した。その支配範囲は東は中国から西は東欧、南北にも南ロシアからヒマラヤ山脈にまでまたがる広大なもの。
 東の中華圏にはフビライが元を建国したことで日本人にとっても馴染み深いですが、漢民族国家を打倒したその元もモンゴル帝国の全体図から見ればあくまで東端。西征ではバトゥが1241年ワールシュタットの戦いでドイツ・ポーランド連合軍を撃破し、もう少しでヨーロッパ圏に深く侵入するところまで行きました。この時は事情があって撤退しましたが。

 そんな世界史上のスペクタクルが起こってた時代、しかし日本での知名度はイマひとつ。土地や人物の馴染みの無さと、あと舞台となる範囲があんまり広範なんで、想像力が追っつかないという原因もありそうですが。
 あっ、『三國志』『信長の野望』で知られるコーエーが、かつてこんなシリーズを出していました。『三國志』は中華統一、『信長の野望』は天下一統(日本統一)を目指すものですが、こちらは頑張ればアジア大陸制覇を実現できるというスケールのバカでかさ。

◇コーエー(現コーエーテクモゲームス)『蒼き狼と白き牝鹿』シリーズ


 チンギス・カンの覇業から始まり、各地に打ち立てられた「チャガタイ=ハン国」「キプチャク=ハン国」「イル=ハン国」「元」が一時代を築いて、アジアを中心に世界史の潮流を鮮烈に塗り替える様がまぁ見事。
 アニメ『天幕のジャードゥーガル』開始時点は13世紀前半、草原の蒼き狼・モンゴルがまさに大陸を疾駆していた時。その内側に入り込んで、膨らみ続ける帝国を内側から侵食せんとする主人公の孤独な闘いやいかに!?

 作品はモンゴルの地と民族を主舞台とするということで、監督をはじめ製作スタッフ陣はモンゴルへの現地取材を行ったとのこと。
 アニメ放送開始と施設の開館周年記念を兼ねて、兵庫県豊岡市の「日本・モンゴル民族博物館」では特別展を開催予定。この作品を機に、世界史上のモンゴル帝国や現在のモンゴルの文化・国民に興味を持つ人が増えるかもしれない。

 中世史好きにはたまらない夏が来そうだぜぃ・・!

◇「日本・モンゴル民族博物館」(兵庫県豊岡市)
 特別展「~TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』から読み解く~ モンゴル帝国の美しき女性たち」

 あっ、ちなみに、「モンゴル」つながりで同国出身の現役力士、玉鷲(たまわし)関と玉正鳳(たましょうほう)関の2人が『天幕のジャードゥーガル』に声優としてゲスト出演するようです。玉鷲関はチンギス・カン役って、なにげに大役じゃんか・・。大相撲七月場所も12日から愛知県名古屋市で開催、今場所お二人は十両に番付されてます。
 「大草原」ついでに、ちょいと時代と地域がズレるけどこんな漫画も。舞台は19世紀の中央アジア、これもアニメ化に際しては現地取材が必須の異文化体験メディア作品『乙嫁語り』。モンゴルも中央アジアも、中国とロシアや中東地域に挟まれる形の政治的・地経学的に微妙な立ち位置。日本人にとって馴染みが薄いからこそ、その土地を舞台とするメディア作品は日本と両地域を結ぶ文化的架け橋となるはずです。