なぜ、多くの人が投資で負けるのか?

 

 相場に関して、「未来が分かることはほとんどない」と述べました。専門家でさえ先行きを当てることはできない、と。

 

 そうなると、マーケットが真にゼロサムゲームであれば、勝つ確率は50パーセントのはずです。」しかし、私の長い相場経験から、勝てる投資家はたった2割。8割の人間が2割の人間に貢いでいる状態です。

 

 この経験則も有名な「パレートの法則」の一種でしょうか。「全体の結果の8割は、全体の構成要素のうちの2割が生み出している」という法則ですが、例えばビジネスにおいては、全体の2割の優良顧客が売り上げの8割を上げている構造が、いたるところで見られます

 

 

 なぜ勝率50パーセントのはずの中短期の相場(ゼロサムゲーム)において、勝者が2割、敗者が8割になるかと言えば、中短期の「相場予測」には人間のさまざまなバイアスが存在していて、「構造的に当たらない」ようになっているからです。

 

 1つ目が、証券会社のエコノミストに代表されるサラリーマン予想家による「無難バイアス」です。陽区年の相場予想に登場する予測のほとんどは、年末の終値から20パーセント上を上限に、10パーセント下を下限にして、そのレンジ内でもみ合いになるといった「無難な」ものです。

 

 公の場で証券会社の人間がまじめな予想を披露することはありません。なぜなら、予想が当たったとしても彼らの給料は上がらないからです。

 

 にもかかわらず、極端な予想をして、その予想が外れた場合は評価が下がる。ゆえに、当たり障りのない無難なよ予想しか出てきません。

 

 2つ目が、「ポジショントーク・バイアス」です。

 

 経営者や実際にポジションを持っている投資家が行う予想も、一見まともなものに見えても、実際は彼らのポジションをフォローする内容、要はそうなってほしいという希望を表した「ポジショントーク」となりがちです。

 

 また、実際には株式相場に接点を持っていないコメンテーターが相場について物知り顔で語ることもありますが、彼らは一概にネガティブな物言いとなります。

 

 なぜなら、楽観的な予想を述べるより、しかめ面でリスクを述べる方が、信ぴょう性があるように見えるからです。私はころを「知識バイアス」と呼んでいます。

 

 

 結局どの立場の人間がコメンテーターになったとしても、これらのバイアスがかかってしまいます。そのような不純なバイアスのかかったコメントをもとに投資行動を行うことで、フィフティ・フィフティよりも負ける確率が高くなります。

 

 もっと突っ込んだ言い方をするなら、「誰かが相場を知っているはずだ」専門家の意見を参考にしよう」などと思うこと自体が間違いなのです。

 

 相場の予想をしようと思った瞬間に、確率的に大半が負け組となってしまう。ですから、この中短期投資というゼロサムゲームに参加すると損なのです。

 

 その点、素晴らしい企業への長期投資はプラスサムゲームです。半面、企業価値既存企業への長期投資はマイナスサムゲームであることもお忘れなく。


「魅力的な投資商品」が出てきたら?

 

 いつの時代にも、「これに投資すれば大儲けできる」と喧伝される商品が登場します。

 

 最近で言えば、ビットコインがそうでしょう。2020年暮れから2021年初めにかけて、値段が2~3倍になっている。つい投資をしたくなる人も多いと思います。

 

 ですが、短期的に儲かる投資商品は存在しません。投資は利益が出るまでに時間がかかるものなのです。

 

 ビットコインを買って、値上がりして儲かったとしても、それは「ギャンブル」にほかなりません。

 

 もっとも、これらの「投資」をギャンブルとして行うことについては否定しません。

 

 競馬に行くよりも、宝くじをかうよりも、中抜きされる手数料が低い分だけ期待値としてはよほどいいとは思います。ですが、「ギャンブをやっている」との認識は持つべきでしょう。

 

 また、経済誌や新聞、あるいはSNSなどで、専門家や投資家と称賛する人間が「これから上がる株はこれだ!」などと個別銘柄の話をすることがよくあります。

 

 その際も、「短期的に簡単に儲かるものはない」と自分に言い聞かせ、長期的に利益を生み出す仕組みがあるかどうかを、自分なりのロジックで説明できるかどうかが大切なポイントです。

 

 そもそも、なぜか人は公の場で上がる銘柄を教えてくれるのでしょうか。その行動の背景にいったい何があるのか。それらをよく考えて見てください。

 

 個別銘柄を披露した人は、おそらく多くの人がその銘柄を買って、株価が上がったところで利確しているかもしれません。

 

 近年はイナゴ投資家(株価に影響がありしうな情報が出た銘柄を、短期で売買を繰り返す個人投資家)が増えていますが、彼らを利用して自分だけ売り逃げるパターンも散見されます。

 

 

 また重要な点として、「昔儲かったので、今後も儲かります」というロジックは危険、ということも強く言っておきます。

 

 その代表的なものは、無リスク資産である国債です。

 

 コロナショック前であれば、アメリカの10年債の利回りは2パーセント近くありました。リーマン・ショック前は4~5パーセントもあった。日本の10年債においても1990年代前半は、利回りは6~7パーセントはありました。

 

 ですが今や、アメリカの10年債の利回りは1.0パーセント、日本のそれは0です。

 

 

 

 

 先進国債券を組み込んだバランス型商品などは、かつては株式との相関の低さもあり、低リスクでミドルリターンを享受できたわけですが、それは過去のことです。

 

 いまや先進国債券はリターンがほぼゼロにもかかわらず、価格変動リスクだけがある(デフォルトリスクはないですが)商品になっています。

 

 かつて株式などのリスク資産との逆相関という分散効果が享受できたのも事実です。株価が下がるときに、金利が低下(債券価格は上昇)したからです。

 

 でも今、株価が下がったからといって、マイナス金利の深堀りが可能でないことは明らかであり、さらなる金利の低下は見込めません。

 

 下手をすると株価下落と金利上昇(債券価格下落)が同時に起こってもおかしくありません。コロナ対策のためにどの国も積極的に財政政策を打っていますが、これも債券という資産クラスにっと手将来的なリスクになるでしょう。

 

 

 もちろん数千億、数兆円の資産を抱える機関投資家が資産分散のために債権をポートフォリオに入れるのは仕方がないでしょう。なぜならマイナス金利でない「現金」を持っておくことが不可能だからです。

 

 しかし、現金を銀行口座や証券口座においておける個人が債券を買う理由が今となっては見つかりません。どうせリターンはゼロなのだから、リスクのない現金のほうがまだましですよね。

 

 これらは一昨年前、バランスファンドにレバレッジをかける手法が流行った時にも私が警鐘をならしていたことでもあります。

 

 先進国では、何もしなくても利息で儲かるという時代は完全に過ぎました。債券の利回りを見ればそれが分かるのですが、日本人は債券利回りについて思いを巡らせる人がほとんどいません。日本のメディアでも、ほとんど報じられない。

 

 債券ディーラ―を7年もやった私などからすれば、債券利回りはすべての金融商品の土台です。企業価値を計算するときのDCFにしても「無リスク」がなければ何も始まりません。

 

 ビジネスパーソンとしては、先進国の金利水準くらいは頭に入れておく必要があると思います。

 

 いずれにしても、「何も考えないで楽に儲かる話はないということは肝に銘じておきましょう。


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