①ユナイテッド・テクノロジーズ

 

 航空機のエンジン、宇宙産業、空調装置、エレベーター、エスカレーターなど様々な分野の工業品を製造している会社です。この会社はエレベーター事業が有名です。

 「オーティス」というブランドを聞いたことがありませんか。日本のビルでも、オーティス製のエレベータを入れているところはたくさんあります。このオーティスは、ユナイテッド・テクノロジーズが持っているブランドなのです。

 エレベーター・エスカレーターは絶対に必要です。最近は建物の高層化が進んでいますから、どんどん需要が生まれてきます。ビルでも4階とか5階なら「健康のために」と歩いて上がることもありますが、50階とか60階になると歩いて上がるなんて不可能です。どうしてもエレベーターを使わざるを得ません。

 そこでエレベーターを1基でも多く導入してもらうことは大事ですが、それ以上に重視されているのがメンテナンスです。ここが、ユナイテッド・テクノロジーズのビジネスモデルのキモです。超高層ビルに導入されているエレベータが故障したら、大勢の人が困ってしまいます。途中で止まるのはもちろん、ワイヤーが切れて下まで落ちるのはもっと困ります。だから日ごろのメンテナンスがとても重要になってくるのです。

 これこそがユナイテッド・テクノロジーズの参入障壁です。もし中国のエレベータメーカーがオーティスの半値で導入できると営業してきたとしても、おそらく話を聞く人はいないでしょう。エレベーターの安全性には人命がかかっていますから、なんの実績のない企業が、どれだけ価格面で魅力的な提案をしてきたとしても、そう簡単には乗ってこないはずです。

 加えて長期潮流にも乗っています。世界各国で都市化が進み、そこに大勢の人が集まれば、建物は上に上に伸びていくしかありません。だから主要都市のビルはどんどん高層化しているのです。この長期潮流から見ても、ユナイテッド・テクノロジーズは長期的に利益を増やし続けるだろうと考えて組み入れました。

 

 ②信越化学工業

 数としては少ないのですが、日本の企業にも投資しています。その一つが信越化学工業です。

 この会社はシリコンウエハーで世界シェアの33%を握っています。シリコンウエハーとは、薄くスライスされた円盤状のもので、これを小さく切ったものが半導体の「基盤」の素材になるわけですが、実は信越化学工業でなければ作れないというものではありません。実際、競合の会社としては、他にSUMCO(サムコ)とか韓国LGシルトロンなどがあります。したがって製品そのものが参入障壁というものではありません。最大の参入障壁は、33%という世界シェアです。

 そもそもシリコンウエハーは大量に作った人が勝つという市場です。ある意味、単純な素材なので、規模の経済が効いてきます。たくさん作れば作るほど単価を下げられるので、最も高いシェアを持っている会社だけがもうかる仕組みになっています。つまり信越化学の一人勝ちになるわけです。

 この参入障壁に加え、長期潮流という点でも魅力的です。今、私たちの身の回りにあるスマートフォン、タブレット、パソコン、デジタル家電、自動車などは必ず半導体が使われていますから、その基盤の素材であるシリコンウエハーの需要は、将来的にもっと上がっていくと考えられます。

 

 ③ナイキ

 靴に「付加価値がない」などという人は、もはや一人もいないと思います。それだけ人が生活していくうえで靴は必需品になっています。靴を履かずに、素足で外出する人はいませんし、マラソンをしたり、スポーツをしたりする人もいないわけです。だから靴は付加価値を持っています。

では、どこに参入障壁があるのでしょうか。マラソンで世界記録を連発する技術でしょうか?もちろん技術力も重要ですが、それ以上に圧倒的に差がつく部分があります。それはマーケティングにかける費用です。ナイキになると、マーケティングにかける費用は年間4000億円にも達します。大体、マーケティングにかける費用が売上高の10%前後なので、ナイキの売上高は4兆円程度になります。

 マーケティングの費用とは、単純に広告を制作するための費用ではありません。例えばプロテニス選手の大阪直美選手がナイキとパートナーシップ契約を結び、ナイキのウェアを着て試合に臨むとか、ゴルフだとタイガー・ウッズ選手がナイキのキャップをかぶっていることで知られています。このようなパートナー契約のことをエンドースメントといいます。あるいはちょっと昔だとバスケットシューズを開発するのに際して、NBAのマイケル・ジョーダン選手に履いてもらい、「エアジョーダン」というブランド名をつけるといったことが該当します。

 もちろん、タイガー・ウッズがナイキのキャップを被るにあたって、ナイキがキャップを無料提供して終わりなんてことはありません。契約金として億単位のお金が動いています。当然、選手側にも計算が働き、「自分は一流」だと思っているスポーツ選手は、ナイキからエンドースメントを受けたいと思います。そして、一流のスポーツ選手が使っているギアがナイキ製だと、それを見たアマチュアのスポーツ愛好家たちも、それを使おうとします。まさに広告塔ですね。

 それだけのお金をマーケティングにかけられるほどの資金力を持ったスポーツ用品メーカがいくつあるのか、という話になると、ほとんどありません。世界的に見れば、ナイキの他にアディダスぐらいのものでしょう。

 日本のメーカーではアシックスが有名ですが、アシックスの売上高は3800億円程度ですから、ナイキがマーケティングに使い年間の費用と同じですから、これでは勝負になりません。まさにマーケティング費用こそが、最大の参入障壁である所以です。当然、新規参入なんて夢のまた夢だと思います。そのくらい、スポーツ用品メーカーではナイキが圧倒的に強いのです。

 ちなみにナイキの前身は、米国で1964年に設立さてたオニツカタイガー(現アシックス)の販売代理店でした。1971年にナイキという社名になり、90年代に「エアジョーダン」や「エアマックス」の大ヒットで巨大化していったのです。