また、高い参入障壁」もある。

 

 たとえば高品質なバニラは、アフリカのマダガスカルでしか取れません。ジボダンは、この原材料調達ルートを長い歴史の中で築き上げてきました。

 

 現地住民のために学校を設立するなどして、農場との信頼性を築いているのです。新興の企業が急に行ったところで。いれるものではありません。

 

 

 また、パヒューマー(調香師)と呼ばれる、非常に優れた嗅覚を持つ人たちがいます。

 

 通常、あるフレグランスやフレーバーを作り出すには、何種類以上もある原料の中から数十種の成分をブレンドします。人々の感情に働きかける香りを調合するのは、特別なノウハウを持つ彼らしかできません。

 

 毎年約3000人がパヒューマーの資格に挑むのですが、合格の壁は厚く、全世界でも800人ほどしかいません。ジボダンはこのうち約200人強を雇用しています。

 

 私は実際に、スイスにあるジボダンの研究センターを見学したことがあります。調香師たちが成分を1つ1つ調合機にセットし、瞬く間にコーラーの香りを再現する様子などを見て、「これはすごい」と思いました。

 

 さらには、規制の問題もあります。人の口の中にはいるものなので、たとえばアメリカではFDA(アメリカ食品医薬品局)の認証が必要になる。このように、グローバル展開のために世界各国の法制度にきちんと対応できる体制を持っていなければいけません。

 

 どれ1つをとってみても、安易に参入できる産業ではないのです。

 

 また「長期潮流」の観点ではどうか。

 

 あらゆる商品は、企画に始まり、研究開発を経て、原料・素材を調達し、製造されます。そして、広告・宣伝して、販売店や顧客に届ける。これを一気通貫に行うのが垂直統合モデルです。

 

 どの産業においても、最初は垂直統合モデルが行われています。ですが産業構造が高度化すると、この潮流は変わっていきます。

 

 たとえばパソコンで言えば、以前は素材調達から、モーターやキーボード製造、組み立てを一社で行い、日立は日立のパソコンを、東芝は東芝のパソコンを作っていました。

 

 ですが今は、部品であるモーターの8割を日本電産が作っている。それぞれの企業が得意分野を水平分業していく。そのほうが圧倒的に多く、圧倒的に安く作ることができるからです。

 

 これはすべての産業に当てはまる変化で、それがいま、食品ブランドでも起こっています。

 

 ブランド企業が注力しているのは主に商品企画とマーケーティングという、もっとも彼らが得意としている段階のみで、その他は次々とアウトソーシングされている。ソーシング先が、ジボダンでありIFF(グローバル2位の香料メーカー)なのです。

 

 今までブランドがすべてを行っていた構造から、次々と工程ごとに切り出されていく世界が長期潮流として見えてきます。

 

 実際に切り出されているから、ジボダンの利益は毎年数パーセントずつ増えている.この水平分業化の長期潮流があるからこそ、長期潮流の代表例である人口動態よりも高い率で伸びているのです。

 

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