何処迄も続く麦畑を抜けて
緩やかにうねる勾配が続く草原を
風に吹かれて只管ひたすら歩き続ける儂

自由に振る舞う事を容認しているビジャフ
何かをさせたいのかと考えていたが
そう云う訳でもなさそうな
だがまるっきり
望みが無い訳でもなさそうな
儂のオスマでの日々を
知りたがる彼女だが
全て知った上での問い掛けにも感じる
オスマでの日々を儂自身が
どう考えているのかを知りたいのなら
勝手に覗けば良いのに
頭の中も心の内も
全てを知った上で儂の返答を聞き
整合性を確認したいのなら
それも簡単な事だろう
何時迄こんな事を繰り返すのか
「ぁ ソレを辞める自由も有るのか」
何をしようと勝手だし
何処へ行こうと勝手なんだってぇえ事かい

風に吹かれて
只管ひたすら歩き続ける儂が
漸く疲れを感じた頃に辿り着いたのは
辺りを眺望するには丁度良い
眺めの良い丘

今日中には戻れない距離を歩いた儂
まるで家出少年にでも
為った気分だが悪くはない
何かに縛られていた訳ではないが
矢張り解放された喜びは有る
CastleBlancは霞んで見えないが
まさか消え失せたりはしないだろう
「あれ」
先程まで良かった気分に翳りが差す
こんな時に思い浮かぶのは
矢張りオスマでの日々だ
朝陽と伴に起き出して
水汲みから火熾し
朝餉作りから
狩りに出る面々
革の鞣しに干し肉作り
打石器やスクレの研磨と
トゥニックを編むオスマンヌ
決して追われている訳ではないが
其々の職に打ち込む人々と
方や其れ等を眺めて
優雅に烟を燻らす族長と長老たち
走り回る子供と
親の真似事をする子供たち
彼等に届けと許りに
儂は此処に存るぞと念じてみるが
当然の如く応えはない

せめて
此処で一服すれば
さぞかし美味いだろうなぁと
族長から貰ったパイプを想い出し乍ら
失ったものの多さに
喪失感でいっぱいに成る
澄んだ空気を満杯に
吸い込んで吐き出すこと数度
霧が晴れた向こうの
ふと目に入った
巨石が立ち並ぶ場処
白き塔を出発したのは
朝陽が昇り初めてからだが
既に陽は沈み掛けて
巨石群を夕陽が照らす

風に吹かれて
衝動的に出掛けた儂には何もない
準備もせずに出発した所為で何もない
手に入れた全てを失って仕舞った今

何か曰く有りそうな其れ等は
ビジャフとの通話に持ってこいだ
近付いて確かめて見ても
つるつるした表面に文字はなく
此れが何なのか知る術はない
確かめたい事はいっぱい有る筈なのに
ブランの儀式の場かも知れないし
境界を表しているのかも知れないし
単なる古代の廃墟なのかも知れないが
何れにしろ意味が無い訳はない
試しに浮かんだ言葉を念じ
話し掛けるも返答はない
流石に此れだけ離れたら届かないのか
或は敢えて応えないのか
あぁその辺りも聞いて置かないと


頭に浮かんだ言葉で会話をするのは簡単だ
包み隠す必要さえ感じなければ
そして儂には隠し事などない
ウォラやサンへの熱き想い
オスマの人々との忘れる事のない日々
それ以前の
記憶の無い事も含めて
全てが
儂の全てなのだから