
パンの味わいは、素材の分子構造によって大きく左右されます。私たちは、国産小麦が持つ特有の分子特性を活かし、深みのある味わいと心地よい食感を実現しています。
🌾 国産小麦のタンパク質構造とグルテン形成
小麦粉に含まれるタンパク質(グリアジンとグルテニン)は、水と混ざることで水素結合や疎水結合を介して複雑に絡み合い、グルテンを形成します。国産小麦は、特にグルテニンサブユニットの組成バランスが絶妙で、高分子量グルテニンサブユニット(HMW-GS)の特定の組み合わせ(例:5+10)が、弾力のあるもっちりとした食感を生み出します。高温・高湿な日本の気候に適応した小麦は、海外産とは異なる繊細なグルテンネットワークを形成し、水素結合による保水性を高め、しっとり感を保ちつつ、アミロースとアミロペクチンの比率が絶妙なバランスを保ち、噛むほどに甘みが広がる特性を持ちます。
🧬 アミノ酸バランスが生み出す旨味
小麦の風味は、たんぱく質を構成するアミノ酸の種類と量によって決まります。国産小麦は、遊離アミノ酸(特にグルタミン酸やアスパラギン酸)を豊富に含み、これらはグルタミン酸脱炭酸酵素の作用でγ-アミノ酪酸(GABA)などのリラックス効果のある物質に変換され、発酵過程でプロテアーゼによってペプチドやアミノ酸に分解されることで自然な旨味が引き出されます。これは、うま味成分として知られるグルタミン酸がパン生地の発酵時に分解され、メイラード反応を促進し、より味わい深いパンへと変化するためです。
🍞 デンプンの分解と甘みの引き出し
小麦粉のデンプン(主にアミロースとアミロペクチン)は、酵素(α-アミラーゼ、β-アミラーゼ)によってマルトースやグルコースなどの糖に分解され、発酵の際にイーストのエネルギー源になります。国産小麦のデンプンは、リン酸基の結合状態や結晶構造の違いから、分解速度が緩やかで、焼成後も糖のバランスが整いやすく、カラメル化反応やメイラード反応を穏やかに進め、自然な甘さが感じられます。この特性が、噛むほどに優しい甘みが広がる理由の一つです。
🌿 発酵と小麦の相性
パンの香りと風味を決定づけるのは、発酵中に酵母(サッカロマイセス・セレビシエなど)や乳酸菌(ラクトバチルスなど)が生成するエステル、アルデヒド、ケトンなどの揮発性有機化合物です。国産小麦は、これらの微生物が作用しやすい環境を持ち、特に長時間発酵で、フェルラ酸デカルボキシラーゼの働きによりバニリンなどの芳香成分が生成され、豊かな香りが引き出されます。これは、小麦の外皮や胚芽に含まれる微量成分(フェルラ酸などのポリフェノール)が、発酵の際に酵母を活性化するためです。
🌎 地産地消とフレッシュな品質
輸入小麦は、輸送や保管の過程でリポキシゲナーゼによって脂肪酸が酸化され、過酸化脂質やアルデヒドなどの劣化物質が生成される可能性があります。一方、国産小麦は収穫から製粉までの時間が短く、フレッシュな状態でパン作りに使用できます。酸化によるグルテンタンパク質の架橋構造の劣化が少ないため、グルテンの形成も安定し、焼き上がりの食感や風味が格段に向上します。
分子から生まれる、最高のパン体験
素材の分子レベルの特性を理解し、最大限に活かすことで、私たちは「噛むほどにおいしさが広がるパン」をお届けします。
国産小麦が持つ優れた分子構造が、みなさまの一日をより幸せなものにしてくれると考えています。