
パンに雑穀を加えることで、ただ栄養価が向上するだけでなく、分子レベルで味わい、食感、香りに大きな変化が生まれます。私たちは、雑穀の持つ特性を科学的に理解し、それを最大限に活かしたパン作りを行っています。
🌾 雑穀のデンプン構造が生む独特の食感
雑穀に含まれるデンプンは、小麦のデンプン(アミロースとアミロペクチン)と比べて、分子鎖の長さや分岐構造が異なるため、異なる吸水性と糊化特性を示します。例えば、黒米や赤米に多く含まれるアミロペクチンは、α-1,6-グルコシド結合が多く分岐しているため、吸水率が高く、水素結合を多く形成し、焼き上げ後も水分を保持し、もっちりとした食感を維持します。さらに、雑穀の外皮にはセルロースやヘミセルロースといったβ-1,4-グリコシド結合を持つ多糖類である食物繊維が豊富に含まれており、これが水分を吸収して膨潤し、「プチプチ」とした心地よい噛み応えを生み出します。
🧬 アミノ酸とポリフェノールが引き出す深い味わい
雑穀には、小麦には少ない必須アミノ酸や機能性成分が豊富に含まれています。例えば、キヌアやアマランサスに含まれるリジンは、タンパク質の翻訳に不可欠であり、グルタミン酸(旨味成分)と相互作用し、イノシン酸などの核酸系うま味成分との相乗効果により、コクのある味わいを生み出します。また、黒米や赤米にはシアニジン-3-グルコシドなどのアントシアニン、ゴマにはセサミン、セサモリン、セサミノールといったポリフェノールが含まれ、これらの抗酸化成分は、フリーラジカルを捕捉し、脂質の酸化を抑制することで風味の劣化を防ぎ、風味の奥行きを深めるとともに、パンの酸化を防ぐ役割を果たします。
🍞 発酵との相乗効果 – 酵母が生み出す複雑な香り
発酵の過程で、酵母(Saccharomyces cerevisiaeなど)は、雑穀に含まれる単糖類(グルコース、フルクトースなど)やアミノ酸を利用し、エステル、アルデヒド、ケトン、有機酸(酢酸、乳酸など)、高級アルコールといった多様な芳香化合物を生成します。例えば、雑穀の外皮に含まれるフェルラ酸は、酵母が持つフェルラ酸デカルボキシラーゼによって4-ビニルグアヤコールに変換され、クローブのようなスパイシーな香りを付与し、酵母の活動を助けることで発酵を促進し、パンの芳醇な香りを引き出します。また、米由来のデンプンがアミラーゼによって分解されることで、マルトースなどのわずかに甘い糖が生成され、雑穀の香ばしさと調和します。メイラード反応も進行し、さらに複雑な香りを生み出します。
🌿 雑穀がもたらす健康機能
雑穀には、ペクチンやβ-グルカンといった水溶性食物繊維や、アントシアニンやタンニンなどの抗酸化物質が豊富に含まれています。これにより、消化管内での糖の吸収を遅延させ、食後の血糖値の急上昇を抑える効果や、プレバイオティクスとして腸内細菌のエサとなり、腸内環境を整える働きが期待できます。特に、β-グルカンを多く含む大麦は、腸内細菌(Bacteroides、Bifidobacteriumなど)によって発酵され、酪酸、プロピオン酸、酢酸などの短鎖脂肪酸を生成し、腸管上皮細胞のエネルギー源となるとともに、腸内のpHを適切に保ち、善玉菌(ビフィズス菌など)を増やすサポートをします。また、短鎖脂肪酸は、全身の炎症を抑える効果も期待されています。
分子の力が生み出す、食べる喜び
私たちは、雑穀の分子構造を活かし、パンの風味や食感を科学的に設計しています。素材そのものの力を最大限に引き出し、「噛むほどに旨味が広がる、体が喜ぶパン」をお届けします。雑穀が織りなす分子のハーモニーを、ぜひお楽しみください。