鉛色の部屋で「存在もしない『罪』」に震えていた心を引きずる毎日
時々気分が良くなる時もある。
眠気をまだ感じながら、重い足取りでボートを曳く
少しずつ明るくなる港にボートを浮かべ、膝上まで海水に浸かり
しがみつきながらボートに乗り込む。この乗り込みができなくなれば引退
すでに限界点が見えつつある自分の身体能力。
エンジンの振動が背骨に伝わり、強制的に「現実世界」へ
あれ?今日はなんか違うぞ・・・
海風が、感情を叩き起こす。前回までの泥のような体が嘘みたいに軽い。処方された薬が効いたのか、前回の自分はどこか遠くの砂浜に置いてきた気分だ。
「いくぞ……っ、止まってたまるか!」
スロットル全開ハイテンション!!。ボートが白波を蹴立てて加速し、視界がモノクロから鮮烈なブルーへと塗り替えられる。

飛沫が頬を叩くたび、脳内のノイズが消えていく。日差しがまぶしい
ポイントに到着。ターゲットは、深淵の岩礁に潜む赤い宝石、アカハタだ。ステンバルチクを底へ沈める。暗く、冷たい海底。まるで自分の心の底に手を伸ばすような、張り詰めた静寂。
318氏は静かに大型のレッドを量産。
――その時。
自分の竿先をひったくるような、暴力的な衝撃。
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
絶望を塗りつぶす、強烈な生命の拍動。ハタ特有の、根へ、根へと潜ろうとする凄まじい抵抗が腕を直撃する。強烈な突っ込み。竿が極限までしなり、腕の筋肉が悲鳴をあげる。普段なら重くてたまらないはずの竿が、今は体の一部だ。リールを巻く指に、魚の怒りと、生きようとする意志がダイレクトに響く。
「潜らせない、絶対逃がさない……!!」
喉が裂けるほど叫ぶ。アドレナリンが血管を駆け巡り、全身の細胞が歓喜に震える。ボートへ抜き上げた瞬間、太陽を反射して輝く美しい魚体。モノクロの世界が、一瞬でアカハタの「情熱的な赤」に塗りつぶされていく。かつて自分を縛り付けていた暗闇は、もうどこにもない。そこにあるのは、ただ広大な「ブルー」と、勝ち取ったばかりの鮮やかな「レッド」だけだった
「やったな! こいつは文句なしのbaruサイズの主役級だ!」
318氏の弾んだ声が、静かな海に心地よく響いた。
「見てくれよ、318氏! この赤、本当に最高な色だろ?318サイズの2/3だが。。。」
釣り上げたばかりの小さなアカハタを高く掲げ、俺は子供のように笑った。数日前、暗い部屋で一人、スマホの光だけを見つめていた自分とかけ離れた景色。318氏は自分のことのように目を細めて微笑み、強張った俺の心を解かしていく。兄弟のように、時にはそれ以上に。言葉にしなくても「沼」を理解し、ただ静かに隣で竿を振ってくれる彼がいるから、今このボートの上いる。
……318氏、連れ出してくれてありがとう
ボートを吹き抜ける風。ゆれる波。隣には信頼できる相棒。小ぶりアカハタの燃えるような赤と、318氏の不敵な笑み。エンディングにはまだ早い。俺たちの物語は、この眩しい青空の下で、ようやく動き出したばかりなのだから。318氏がニカッと笑いながら、生簀から一際美しい魚を掴み上げた。
「ほら、メイチダイだ。それと……こいつはちょっと派手だが、良型のベラ。船長の赤(アカハタ)に負けないくらい、いい色だろ?」
銀色に輝く体色に、意志の強そうな瞳。幻の高級魚とも称されるメイチダイの神々しさと、南国の鳥のようなベラの色彩が、ボートの上をさらに鮮やかに彩る。
「俺にくれるのか?……ありがとう。最高の宝物だよ」
(ベラ収納後撮影)
メイチダイの銀、ベラの多色、そして俺が釣り上げたアカハタの情熱的な赤。クーラーボックスの中は、まるであらゆる感情を肯定してくれる宝石箱のようだ。
「さあ、ザルそばでも食って帰ろうぜ!」
318氏が操船し港に戻る。
V字に広がる白波の先には、もう「消えたい」と願った灰色の街は見えない。
あるのは、大切な友と分かち合った、輝くような生命の記憶だけだ。



























