恋はつづくよどこまでも二次創作小説【あをによし:第13話.新年の言祝ぎ】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

風月庵~着物でランチとワインと物語

毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

【あをによし:第13話.新年の言祝(ことほ)ぎ】


暮れも押し迫った12月31日 大晦日の日、天堂浬(かいり)は大きなお腹の七瀬と息子の颯(はやて)を伴って、近くのホテルレストランでランチを楽しんでいた。ちょうどおせち料理を注文していたので、それを受け取りがてら、昼を済ますことにした。颯はお子様ランチに大喜びだったし、七瀬も久しぶりのステーキに、ずいぶんと食が進むようだった。浬もサーロインステーキに舌鼓を打っていた。


お子様ランチを食べていた颯は身を乗り出して、二人のステーキを見比べた。
「パパとママ、どっちもステーキだけど、さっき頼むとき違う種類を言ってたね。サーロインとフィレステーキ」
浬は顔を綻(ほころ)ばせた。
「よく分かったな」
「パパはサーロインステーキ。ママはフィレステーキがいいだろうって、パパに薦められたの」
「ふぅん、どう違うの?」
浬はサーロインステーキを小さく切ると颯のお子様ランチの皿に乗せた。
「食べてごらん、これがサーロインステーキだ」
颯はコクリと頷(うなず)くと、サーロインステーキを口にした。
「美味しい、とっても柔らかいし、お肉からジュワ~と出てくる」
七瀬はフィレステーキを切り分け、颯の前に差し出した。
「ママのはフィレステーキよ。こっちも食べてみて」
「うん」
口に含んだ颯は、比べるようにステーキを味わった。
「どうだ、違うか」
「どっちも柔らかいけど、先に食べた方が甘くて、脂がジュワ~って出る。ママの方はもっと柔らかくて、食べやすい」
「先生、当たってる?」
「あぁ、当たっている。というより、見事な感想だ」
「颯、凄いね」
颯は嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「僕、上手?」
「あぁ、とても上手だよ」
浬は一人 悦に入るように言った。
「なるほど、子供の頃に美味しい物を食べて味覚を発達させるのも、正解のようだ」

颯はすかさずステーキの隣にあるグラスを指差した。
「パパが飲んでるそれ、ワインでしょう」
「そうだ、ワインも料理に合わせて選ぶんだ。これはアメリカ カリフォルニアのものだ」
「アメリカかぁ。佑都お兄ちゃんが行ってる」
「ワインは葡萄から作られる酒だ。このワインの葡萄はカベルネ・ソーヴィニヨンという。力強くワインの持つタンニン、渋みがステーキの脂を和らげる。他にもワインの酸味や果実味、香りが料理の美味しさとマリアージュするんだ」
七瀬はクスクス笑い出した。
「先生ったら、颯はまだ幼稚園よ」
「それでもワインの香りを知っておくのも悪くない」
だんだん本気になってきた浬はワイングラスを颯の鼻先に持っていった。
「どんな香りだ」
クンクンと香りを嗅(か)いでいた颯は、そのうち顔を顰(しか)めた。
「変な匂い」
「アルコールではなく、他に赤いフルーツのような香りはしないか」
「わかんないけど、イチゴジャムみたいな感じ。それから木の匂いなんかもする」
「おぉ~」
浬は感嘆の声を上げた。
「颯は臭覚が飛び抜けて優れている」
「苺、好きだから」
「しかし、カリフォルニアワインの特徴である、ジャーミーさと樽香を言い当てたぞ。素晴らしい。天才じゃないか」
「もう、先生ったら、やめてくださいよぅ」
傍(そば)で誉められたと分かった颯は、満更でもない顔で、お子様ランチを口にした。
「颯はこっちよね」
「僕、ステーキも好きだよ」
「ママのステーキも食べて」
七瀬はフィレステーキを切り分けると、お子様ランチの皿に盛り付けた。それに追随して浬もサーロインステーキを切り分ける。
「ママはお腹に赤ちゃんがいるから、より柔らかで脂もさっぱりして、食べやすいフィレステーキにしたんだ」
「赤ちゃんも、きっと好きだね」
「そうだな」
「パパはワインだけど、ママはいつものカモミールティーだったね」
「そうよ、お腹に赤ちゃんがいるときには、お母さんはお酒は飲まれないの」
「赤ちゃんは、お酒が飲めないから?」
「赤ちゃんもお母さんも、守るためだよ」
「ステーキは?」
「美味しいし、大丈夫だ」
颯は愛おしそうに七瀬のお腹に話しかけた。
「赤ちゃん、ママのフィレステーキ美味しかった?。生まれたら一緒に食べようね」
浬は颯に料理を食べるようにと促(うなが)した。
「ステーキも美味しいけど、僕のお子様ランチも美味しいよ」
ハンバーグを平らげ、オムライスを平らげ、次はパスタに取りかかる。
「ステーキも食べて、全部食べられるか」
「大丈夫、美味しいもん」
ナポリタンで口の周りはトマト色に染まっている。あとはソーセージにカニクリームコロッケだ。ドリンクはジュースではなく、ママと同じカモミールティーがいいと言ったのは正解だった。ジュースでお腹がいっぱいにならず、時折 ハーブティーで流し込んでいる。完食した颯を見て浬は笑い出した。
「よく全部食べたな」
「ホテルレストラン、美味しいね。次は僕もステーキが食べたい」
「ステーキか」
「僕ね、赤ちゃんと半分こして食べるんだ」
「そうね、赤ちゃんが大きくなってお肉が食べられるようになったら、四人で食べようね」

外は冬の木枯らしが吹いて寒々しいが、ホテルの中は暖かかった。
「ステーキを食べて身体も暖まったわ」
「僕も暖かくなった」
颯の元にデザートのアイスクリームセットが運ばれてきた。
「食べられるか、冷たいぞ」
「うん、食べられる」
アイスクリームはバニラとイチゴの二種類にフルーツの、豪華なデザートセットだ。
「わぁ、アイスクリームだ!」
喜んで食べ始めた颯だったが、だんだんと食べる速度が遅くなってきた。
「冷たいんじゃないの?」
「でも美味しい」
「寒いんだろう。無理をしないで、フルーツを食べなさい」
浬に言われて、颯はフルーツに手を伸ばした。
「アイスはパパにあげる」
アイスクリームを半分残して、颯は浬にデザートを差し出した。
「ステーキも食べたからね。今日はおしまい」
七瀬に言われて颯は素直に首をふった。

注文していたおせち料理を受け取りに、三人はホテルレストランの別室に向かった。予約カードを差し出すと三段重ねのおせち料理のお重が現れた。
「こちらは和食おせち三段重ねコースになります。よろしいでしょうか」
「はい、確かに」
綺麗なお正月の絵柄が施された風呂敷に三段重ねのおせち料理が包まれ、華やかな写真のパンフレットが添えられた。おせちは浬が持ち、パンフレットは颯が受け取った。
「よいお年をお迎えください」
「ありがとうございます」
スタッフの言葉に三人は笑顔で会釈を返すと、ホテルをあとにした。

帰宅する途中、浬は蕎麦屋に立ち寄った。こちらも大晦日の年越しそばを予約している。店内に入ると蕎麦を茹でる湯気で暖かく、しっとりとしている。
「この店は美味しいと評判だ。一度食べてみよう」
予約していた三人前の生蕎麦に、大きな海老天が付いている。颯はその大きさに目を見張った。
「大きな海老天だね。僕、こんな大きな海老天、初めて見た」
店主は嬉しそうに笑いかけた。
「うちは蕎麦も旨いが大海老天も名物だよ」
「僕はお蕎麦も大好きだよ」
「そりゃ、嬉しいね。今夜、お父さんとお母さんと一緒に食べるといいよ」
颯はコクリと頷(うなず)いた。七瀬は年越しそばと大海老天を三尾、包んで貰うと、表情を綻(ほころ)ばせた。
「私も楽しみです」
「奥さんも身体に気をつけて。よいお年を」
「ありがとうございます。よいお年をお迎えください」
三人は会釈をすると、笑顔で年越しそばを持ち帰った。

帰宅すると、幾らもたたぬうちに大晦日の夕方になった。昼にはボリュームのあるステーキを食べたので、夜は軽く済ますことにした。何より大海老天が付いた年越しそばがある。颯はまだ小さいので、年越しそばも深夜ではなく、夕飯に食べる予定だ。あとは浬が得意な厚焼き玉子を作ることにした。颯は率先してお手伝いをすると言って、リビングの椅子を踏み台替わりに、冷蔵庫から卵を取り出し、ボウルに入れていった。受け取った浬はクスリと笑い出した。
「いつも卵は3個だろう。なんで5個なんだ?」
「パパの卵焼き、大好きだもん。大きいの作って」
「海老天を乗せた年越しそばもあるぞ。食べられるか」
「食べられる。お腹空いた」
「さっき、食べたばかりじゃないか」
七瀬は颯の隣に寄り添った。
「今日はランチもゆっくりで、おやつも食べてないから」
「なるほど、それにしてもよく空くお腹だな」
「ビスケット食べる?」
「ううん、パパの卵焼きと年越しそば、待ってる」
大晦日の夕暮れは駆け足でやってくる。外はあっという間に日が落ちて暗くなった。

幼い颯は遅くまで起きてはいられないので、年越しそばと厚焼きの玉子焼きを食べながらの大晦日の夕飯だ。自分の顔より大きな海老天も、丼いっぱいの年越しそばも、見事に平らげて、浬が作った厚焼き玉子を美味しそうに頬張っている。
「よく、全部食べたな」
感心する浬に颯は満足そうに、膨れたお腹を擦(さす)った。
「美味しかったぁ~、ごちそうさまでした」
テレビでは大晦日恒例の紅白歌合戦が始まった。一番手は今年、子供たちにも大人気だったアニメの主題歌で、颯も嬉しそうに歌っていた。華やかなステージに合わせて一緒に踊るダンスも、なかなかのものだ。
「あっ、ブレイクダンスだ!」
真似をした颯がクルクル回るものだから、浬も顔を綻(ほころ)ばせた。
「上手いぞ、颯」
「エヘヘ~パパ、これ出来る?」
浬はフローリングの上で、意図も簡単に回って見せた。
「凄い、パパ、ブレイクダンス出来るの!?」
「高校の頃、ブレイクダンス部だった」
「えっ、先生、剣道部じゃないの?」
「剣道とバスケとブレイクダンスを掛け持ちだった」
「それで医学部合格って凄い」
「光太郎たちの鎌倉高校と対抗戦もしたぞ」
懐かしむような浬は、穏やかな表情を浮かべた。
「光太郎さんに電話してみたら」
「そうだな、奈良に来る前に連絡したきりだ」
鎌倉 稲村ヶ崎にある光太郎のレストランも、今日は大晦日で、もう閉店している時間だ。呼び出しのコールのあとに、元気な声が応答した。
「よう、浬。久しぶり。皆、元気か」
「あぁ、元気だ」
「何してる」
「さっき、颯がテレビの真似をしてブレイクダンスしてた」
「ハハハ~、やっぱり浬の息子だな」
「聖昂学院と鎌倉高校の対抗戦を思い出したよ」
「懐かしいな、夏休みだった」
「江ノ電に乗って行ったな」
二人は高校時代の話で盛り上がった。
電話の会話を聞いていた颯が声を掛けた。
「パパ、また江ノ電に乗りたい」
それが聞こえたのか、光太郎が気前よく話す。
「いつでも来いよ。旨いパスタが待ってる」
「そういえば今頃の時期、聖昂学院のクリスマスチャリティーで、光太郎とウミちゃんに手伝ってもらったな」
「俺と浬で焼きそば焼いたなぁ。あの時は、楽しかった」
電話の向こうから、しみじみとした光太郎の声が聞こえる。
「今年も終わるな」
「あぁ、良い年だった」
「来年は浬のところも、もう一人増えるな」
「楽しみだよ」
「七瀬さんと颯ちゃんにもよろしく。身体に気をつけて」
「ありがとう」
「よいお年を」
「また、会おう。よいお年を」
二人はそう言って電話を切った。

8時を過ぎると、颯もそろそろ眠る時間になってきた。お風呂に入ってパジャマに着替えた颯は、浬に甘えて抱きついたまま、うつらうつらとしている。
「もう、寝ような」
「明日はお正月?」
「そうだ」
その言葉に頷(うなず)きながら、颯はもう夢の中だった。

浬はワイングラスに赤ワインを注いだ。七瀬は暖かなカモミールティーをカップに用意して、ソファーの隣に腰かけた。小皿に用意してくれたチーズをつまみながら、ワイングラスを傾ける。テレビから変わらず紅白の歌声が流れている。そうしているうちに時計は12時に近づいていった。
「もうすぐ、年も暮れるな」
「今年は奈良で過ごした一年でした」
除夜の鐘が鳴っている。
「春になると、もう一人生まれるな」
「私も楽しみ」
「賑(にぎ)やかになりそうだ」
浬はそういうと七瀬の肩を優しく抱き寄せた。


朝になって、一番に起きたのは颯だった。
「パパ、ママ、おはよう」
「おはよう、颯」
リビングに行き、テレビを付けた颯は、楽しそうに声を上げた。
「お正月の番組、やってる」
「富士山か、良い景色だ」
起きてきた浬と七瀬も、しばし富士山の絶景に見とれていた。テレビでは、ひっきりなしに新年の特番が流れている。テレビの中で交わされる新年の挨拶を真似して、着替えたばかりの颯も、早速 両親に向かって頭を下げた。
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます。先生、颯、今年も、どうぞよろしくお願いします」
「あっ、僕もお願いします」
可愛らしい挨拶に浬は破顔し、愛息を抱き上げた。
「パパ、これからおせち料理を食べるの?」
「そうだな、食べようか」
「わぁ、何が入っているんだろう。楽しみだな」
七瀬が取り皿を用意して持ってくると、浬はおせちの三段重の蓋(ふた)を開けた。


颯は早速、おせち料理に目を凝らした。パンフレットを片手に、熱心に料理を見比べる。そこで七瀬が三段重ねを一段ずつ外し、後ろに立った浬が料理を一つずつ説明することにした。
「いいか、これはお正月に食べるおせち料理、日本伝統の三段重ねだ」
「凄いね、綺麗な色のお料理がいっぱい詰まってる」
「三段重ねの各々に、意味のあるお正月を祝う料理が入っているんだ」
浬は一段目のお重の料理を指差した。
「まずは一の重、ここには祝いの肴と口取りと言われるものが詰まっている。真ん中は二の重、海の幸や酢の物が入る。そして三の重、山の幸や煮物などだ」
一緒に聞いていた七瀬も目を凝らしている。
「一の重には、栗きんとん、黒豆、伊達巻、数の子、昆布巻き、たたきごぼう、かまぼこ、田作り等だ」
「この小さなお魚?」
「そうだ、普段ではあまり見なくなったが、田作りという。これはカタクチイワシを干したものだ。ゴマメと呼ばれている。これを炒って砂糖や醤油で味付けする」
「なんか、固そうだね」
「香ばしくて美味しいぞ」
「ふうん」
「田作り、黒豆、数の子は、祝い肴三種と言われていて、おせち料理には欠かせない料理だ」
颯は浬の顔を覗(のぞ)き込んだ。
「パパはどれが一番好き?」
「数の子だな」
「ママは?」
「栗きんとん」
「どっちも黄色だね。パパとママ、仲良し~」
颯にひやかされて浬と七瀬は、照れたように顔を見合わせた。
「じゃあ、僕はこのクルクル巻いたの」
「伊達巻か、甘くて美味しいぞ」
「伊達巻、僕、一番に食べる!」
宣言する颯は元気よく手を挙げた。

浬は真ん中のお重を手前に引き寄せた。
「次は二の重だ」
「うんうん」
椅子に正座していた颯は、二の重の前に身を乗り出した。
「大きな海老とピンクのお魚が入っているね」
「よいところに気がついたな。二の重は、酢の物と海の幸だ」
「海の幸?」
「お魚や海老のことよ」
浬は鯛(たい)を指差した。
「これは鯛だ。日本ではお祝い事によく使う魚だ。何故か分かるか?」
「ええと~」
「お祝いの時には何と言う?」
「おめでとう」
「おめでたい、から」
「たい?」
「そうだ、めでたいだ」
颯はクスクス笑い出した。
「面白い、おめでたいだって」
「昔から、そう言ってお祝いしたのよ」
七瀬の言葉に浬が付け加えた。
「颯が生まれた時も、お祝いに鯛のお膳が出たんだぞ」
颯は嬉しそうに口元に手をやった。
「僕が生まれたお祝いかぁ。じゃあ、赤ちゃんが生まれたら、また鯛を食べるんだね」
「そうだな」
浬は次々と二の重の料理をなぞっていった。
「海老に酢だこに、これは紅白なますだ」
「いくらが乗ってる」
「颯はいくらが大好きだからね」
「僕、いくら大好き」


浬は機嫌良く、三の重を説明した。
「三の重には、煮物などの山の幸を入れる」
「今度は山のお料理だね」
「そうだ、煮しめや根菜類だ」
三の重には、たっぷりと煮物が詰まっている。
「これは小芋の旨煮、八頭という里芋だ。黄色はえびす南瓜だろう。クワイも入っているぞ」
「お花の形は人参だね」
「あぁ、梅花人参だ。他に棒鱈(たら)もあるな。関西でも京都のおせち料理にはよく入れられる」
「先生は関西のおせち料理にも詳しいんですね」
「以前、関西料理の料亭で、おせち料理をご馳走になったことがあるんだ」
「せっかく、奈良に来たんですから、関西風のおせち料理を味わいたいですね」
「そうだな。他に豆腐と筍(たけのこ)の旨煮だ」
「いっぱいあるね」
浬は颯にまた一つ教えた。
「お煮しめと聞いて、思い付くものはあるか」
「おに、しめ…鬼は外?」
「そうだ、鬼を〆るで、鬼を退治するという意味がある」
「わぁ、そうなんだ」
颯は楽しそうにカラカラ笑い出した。
「パパ、早く食べて僕も鬼を退治したい」
「そうだな、食べようか」
七瀬が用意したお雑煮も、ちょうど出来上がった。
「おせちもお雑煮も美味しいね」
颯は長く伸びたお餅に大喜びだ。七瀬にねだって、もう一つ食べたお餅は、きな粉がまぶしてある。口の周りがきな粉だらけになって、颯はペロリと舌を回して拭(ぬぐ)い去った。


一通り、おせち料理を食べ終わると、浬は颯にポチ袋に入ったお年玉を手渡した。
「これは、パパとママからのお年玉だ」
「ありがとう」
「そしてこれは、厚木のおじいちゃんとおばあちゃん、鹿児島のおじいちゃんとおばあちゃんから。こっちは、流子おばちゃんからだ」
「わぁ、お年玉がいっぱい」
颯はお年玉を手にすると、満面の笑みを浮かべ、小躍りした。続いて浬は紙袋に包まれたプレゼントを渡した。
「パパから、お正月のプレゼントだ」
「ありがとう、開けていい?」
中から出てきたのは、子供カルタと福笑いだった。
「カルタは幼稚園でも少しやったことがあるよ。こっちは何?」
「福笑いといって、古くからの日本のお正月の遊びだ」
颯は目や鼻を取り出して、物珍しそうにみている。
「目隠しして、目や鼻を置いていくのよ」
「ママもやったことある?」
「子供の頃、お正月によくやって、大笑いしたわ」
「僕もやってみる」
颯は早速、目隠しをすると福笑いに挑戦した。
「出来た!」
目隠しを取ると目も鼻も口も曲がったり下がったりで、大笑いだった。

次に颯は子供カルタをやると言った。読み手は七瀬で、颯と浬が対戦した。ハンディは5秒間で、浬はその後でなければ取られない。颯はなかなかの出来で、最後にはリードして終わった。
「僕の方が多く取ったね」
「よく、覚えていたな」
「カルタ、楽しいね」
そう言って颯は、それからまた子供カルタを行った。


昼を過ぎると日差しも暖かく、外は小春日和の元旦だ。三人は近くの神社へ初詣に出掛けた。

鳥居をくぐると、たくさんの参拝客が列を成して並んでいる。浬は七瀬を気遣いながら、無事に初詣を済ませた。色鮮やかな注連飾(しめかざ)りや熊手が、ところ狭しと並んでいる。社務所で子供御守りと、安産の御守りを買い求めた颯と七瀬も、この上なく嬉しそうだ。境内には、簡易休憩所があり、ストーブの上の鍋には、熱々の甘酒が甘い香りを漂わせている。颯と七瀬には、アルコールが入っていない糀甘酒を渡し、浬は香ばしい甘酒で、喉を潤(うるお)した。
「甘酒、美味しいね。初めて飲んだ」
「ホント、美味しいね」
七瀬の綻(ほころ)ぶ口元からも、暖かな湯気が上がっている。晴れ着を着て初詣に来た女性たちに颯も目を奪われ、見返している。
「着物、綺麗だね」
「ママもお正月には振り袖を着たわ」
「僕も着てみたい」
「厚木に俺が子供の頃に着た着物があったな」
「パパの着たい、着たい」
「よし、春になって帰ったら、一度着てみよう」
浬はそう言うと、颯を抱き上げ、高々と肩車をした。

暖かな新春の日差しが三人を柔らかく包んでいた。


続く…






風月☆雪音