改:第725話.探偵の雇い主【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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第725話.探偵の雇い主

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

それは一枚の報告書から始まった。ニューヨークのセウン本社、広報室にいたチャン・ボムソクは報告書を前に険(けわ)しい表情で腕を組んだ。
「う~ん、よく分からん」
少し前、カン・ジュンサンの消息を探るべく探偵が現れた。イ・テワンや一族の不祥事を拾い集め、マスコミへ売りつけようとする輩(やから)は、今までもごまんといる。ところが今回は幾らも調べぬうちに直ぐに調査を終了したのだ。いつもしつこくつきまとったり、こそこそ探りを入れる者ばかり相手にしているせいだろうか。普段ならそんな事は上手く対処するのだが、気になったのは探偵という職種だった。探偵という事は誰か雇い主がいるという事だ。探していたのは『ソウルから来たカン・ジュンサン』だという。
「ソウルから来たカン・ジュンサン?」
彼がニューヨーク出身とは知らないのか。
「どうも引っ掛かる」
ボムソクはドンヒョンへこの事項を報告した。

「調べた内容は僅(わず)かな物です。カン・ジュンサンが事故後、運び込まれた春川の救急病院、転院したソウルのセウン病院、搭乗したソウル発ニューヨーク行の飛行機の便。ニューヨークへ着いてからはハドソン病院へ入院した事は突き止めていますが、病院関係者から詳細は得られなかったようです」
「確かにそれだけの内容では依頼者への報告としては弱いな」
「誰が何の目的で探っていたか気になります」
「カン・ジュンサンの何を知りたかったかだ」
思案顔のドンヒョンは口元へ手を当てた。
「ニューヨークでも香港でもない。長老たちの後継者擁立の可能性は低い」
「しかしミヒさんと社長との結婚の時期も調べています」
「結婚の時期?ジュンサンだけではないのか」
「はい、ただミヒさんの事はそれだけなんです」
「それだけ…」
ドンヒョンは報告書を開いた。
「調査はどのような方法だ」
「ニューヨークへは直接出向いていないようです」
「電話で問い合わせをしたのか」
「はい、ハドソン病院へ何度か電話が掛かってきたそうです」
「その探偵社の名前は」
「押さえてあります。ソウルのレッドバロン社です」
「まさか無敵の撃墜王リヒトホーフェン気取りという訳ではないだろうな」
「誰ですか、それ」
ボムソクは首を傾(かし)げた。

それに答えたのは部屋に入ってきたイ・テワンだった。
「レッドバロン(赤い男爵)…第一次世界大戦で活躍したドイツ軍のエース・パイロットだよ」
「社長」
「レッドバロンはマンフレート・フォン・リヒトホーフェンの異名だ。赤く染めた戦闘機に乗っていたことからそう呼ばれた」
ドンヒョンは不安げに呟(つぶや)いた。
「まさか本当に長老たちが動き出したのでは」
「それは変だ。10年も前のジュンサンの消息を探して何になる」
「では他の目的が」
テワンは電話へ手を当てた。
「実は私の所へも直接電話が掛かってきたよ」
「探偵社ですか」
「いや」
「では依頼人が」
「古い友人だ。彼は探偵社に依頼はしていないが知りたい内容は同じだった」
「どなたなのですか」
「ヒョンスの親友だったキム・ジヌだよ」
「何で彼が、それもジュンサンの事を」
ドンヒョンは言った。
「ミヒさんの事もお聞きになったのですか」
「そうだ、ジュンサンが生まれた頃の事もね」

ドンヒョンはテワンと視線を合わせた。それを見たボムソクは恐る恐る問い掛けた。
「もしかしてキム・ジヌ氏が知りたかったのはジュンサンの父親ですか」
「そうだろうな。彼は私ではないと聞いて酷く動揺していたよ」
「じゃあ、探偵社に依頼したのは」
「それは別人だろう。依頼人が知りたかったのはジュンサンの消息だ」
「ユジンですか」
「違うだろうな。彼女はジュンサンが残していった『はじめて』のCDを聞いて確信したと言っていた」
「カン・ジュンサンを探している人物、カン・ジュンサンに会いたい人物」
「10年前、ジュンサンは春川第一にいた」
「女性、それも行動力がある」
「オ・チェリンかも知れない」
「チェリンがジュンサンを?」
「彼女はパリ留学中にミニョンと出会っていた」
「テワン様」
「二人はユジンが現れるまで恋人同士だったようだ」

次回:第726話.レッドバロン

(風月)