改:第726話.レッドバロン【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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第726話.レッドバロン

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

ドンヒョンは顔を強ばらせた。
「チェリンはジュンサンと知らずに付き合っていたのですか」
「そのようだな」
「幼い頃、チェリンはミニョン坊っちゃんを好きだったのでは」
「あぁ、そうだろうね。ただしチェリンは高校時代、カン・ジュンサンを好きだったようだ。もっともジュンサンはユジンを好きだったらしいが」
ボムソクは納得するように頷(うなず)いた。
「ユジンより前にチェリンがジュンサンを探し当てたということか」
「二人はシャルル・ドゴール空港で別れ際、再会を誓ったそうだ。縁があれば互いを見つけ出す事が出来るだろうと…まさかその女性がチェリンだとは思わなかったよ」
「そして二人はソウルで再会したのですか」
「あぁ、ジュンサンは当初『お洒落でセンスの良い、可愛い女性と付き合っている』と楽しげに話していたよ」
「チェリンは運命だと思ったでしょうね」
「皮肉なものだ。チェリンがジュンサンを見つけたために、ユジンと会わせてしまった」

ドンヒョンは小さなため息をついた。
「チェリンは明るく可愛い女の子でした。テワン様と私にカップケーキを買ってきてくれて…あの銃撃事件の前だった」
チェリンは事件の衝撃から関連する記憶を失っている。三人はその現場にいたのだ。ボムソクは涙ぐんだ。
「二度三度と自分の初恋の相手を見つけ出すなんて」
「チェリンの強い思いが無意識のうちに向かわせたのかも知れない」
ユジンは突然姿を消したジュンサンを忘れる事はなかった。しかしチェリンもまた初恋の記憶を消し去る事はなかったのだ。

ボムソクは報告書を静かに手に取った。
「チェリンはミニョンがジュンサンだと分かり、どうするつもりだったのだろう。また彼が自分の元へ戻ってくると思ったのかな」
「こんな事がなくとも、テワン様はジュンサンとチェリンの交際を容認なさいましたか」
「難しいだろうね。ここではジュンサンはミニョンだ。チェリンとミニョンは従姉弟同士になるからね」
テワンは寂しげに笑った。
「ミニョンも以前、ユジンとの恋を諦めた。二人もまた従姉弟だ。ユジンはそれさえも知らない」
自分がユジンの伯父だと名乗ることも出来なかった。セウンの後継者争いに弟ヒョンスも、その娘ユジンも巻き込みたくはなかった。一方、亡き妻セナの姪であるチェリンを銃撃事件の恐怖に晒(さら)してしまった。苦渋の決断を取った事に後悔はない。ただ消し去った記憶の中に幼い彼女の淡い初恋も含まれていた。

テワンは探偵社の名前を呟(つぶや)いた。
「レッドバロンか…チェリンは私の元へ無敵の追撃王を差し向けたのかな」
「テワン様、チェリンをどうなさるおつもりですか」
「心配するな、ドンヒョン。私はチェリンを追撃などしないよ」
ドンヒョンはホッと胸を撫で下ろした。
「チェリンに話さなければならないな」
「何をですか」
「私が可愛いチェリンの伯父だということ。そしてあの銃撃事件のことも」
「ジュンサンの事はどうなさいますか」
「一度に全てを話すのは彼女にとっても大きな負担だ。チェリンには私が会って直接話そう」
「ユジンへはどうなさいますか」
「ユジンはまだだ。オ・ジュニクとユリへ連絡を取ってくれ」
二日後、テワンは二人を伴いソウルへ向けて飛び立った。

次回:第727話.壊れかけの初恋

(風月)