改:第722話.チェリンのドレス【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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第722話.チェリンのドレス

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

夜が開けるとジュンサンとユジンは帰り支度を始めた。眠っている二人を起こさぬように、こっそりと動いたつもりが、踏み出したユジンの足がテーブルを蹴飛ばし、大きな音を立てた。
「うぅ…何だ」
「ごめん、ヨングク。起こしちゃった」
「ユジンか、どうした」
「明るくなってきたから、もう帰るわ」
「ジュンサンも帰るのか」
「ユジンを送って行くよ」
ヨングクは懐(ふところ)に子犬を入れたまま、大きく背伸びをした。
「それなら朝飯を食っていけ。米はあるし冷蔵庫に食料も入っている」
「じゃあ、私が作るわ」

ユジンは目を覚ましたジンスクと共に朝食作りに取り掛かった。冷蔵庫を開けたユジンは驚きの声を上げた。
「いっぱい入っているわねぇ」
「泊まり込みの分だよ」
「それにしてもこんなに。一人暮らしにしては多いわね」
「今日は入ってる方さ。ジンスクがあれこれ持って来たからな」
「ふうん」
ユジンはチラリとジンスクを垣間見た。
「何よ、ユジン」
「ヨングクの朝御飯はジンスクが作った方がよさそうね」
「えっ?」
「ヨングクはジンスクが作った朝御飯を食べたいんじゃないの」
「そうしようかな」
照れたジンスクを見るとユジンは大声で叫んだ。
「ヨングクの朝御飯はジンスクが作るって!」

返ってきた声はジュンサンだった。
「僕のはユジンが作るんだろう」
「そうしたら?」
「あ…うん」
「ユジンが初めて僕に作ってくれた朝御飯、凄く美味しかったから」
それを聞いたヨングクはニヤリとした。
「おい、カン・ジュンサン。何処でユジンと朝飯食ったんだ」
「えっ?」
「白状しろよ」
「何処でってうちの別荘だよ」
「いや~今まで全然気づかなかったな」
ジュンサンは目を丸くした。
「ヨングク、何か誤解してないか」
「いいって、何も言うな」
ユジンは堪(たま)らず口を開いた。
「ちょっと、ヨングク。勝手に決めつけないでよ」
「ユジン、本当なの?」
「ジンスクまでやめて」
「サンヒョクは知らないんでしょう。サンヒョク、可哀想」
「おい、ジンスク。今それを言うな」
「これでハッキリするじゃない」
「黙っていろ。その口を塞げ」
困惑するユジンを助けたのはジュンサンだった。
「スキー場でコンサートがあった夜だよ。ユジンはとても苦しんでいたから、僕が別荘へ連れて行った。彼女は一階で寝たし、僕は二階の自分の部屋で休んだ」
「翌朝早くジュンサンが買ってきた魚でメウンタン(魚の辛い鍋)を作ったの。それだけよ」
「ずっとホテル暮らしだったから、朝食はいつも一人だったんだ。だから誰かと一緒に食べるのが嬉しくて。もちろんユジンの作った朝食はとても美味しかったよ」
ジンスクは頷(うなず)くユジンの顔を覗(のぞ)き込んだ。
「ごめんね、嫌な思いをさせちゃった」
「いいのよ」
「ほら、ヨングクも謝って」
「ごめんな」
ユジンは笑いながらジンスクの腕を取った。
「さぁ、続きを作ろう」

四人は温かな朝食を口にした。
「旨いな」
「皆で食べると美味しいね」
「ジュンサンが言ったとおりだな」
ジンスクは徐(おもむろ)に口を開いた。
「あと二人足りないね」
「サンヒョクとチェリンか」
「チェリンはパーティーにも誘ったけど来なかったものね。勝手に行けばって言われたわ。そのあとはずっと機嫌が悪くて」
ヨングクはシュンと下を向くジンスクを慰めた。
「チェリンはいつもそうだろう。気分屋だし。気にするなって」
「そうよね。チェリンってよく分からない事をするし。ユジンがパーティーに着て行くドレスを持ってないから、私がお店のドレスを貸してって言ったら、自分からわざわざ別のお店のドレスを持ってきたのよ。『うちのドレスだと気を遣うでしょう。これなら気兼ねなく着れるから。ジンスクからのプレゼントだって言えばいいわ』って」
ジュンサンは顔色を変えた。
「そのドレス、どんなデザイン?」
「黒のノースリーブよ。胸元と背中がVのホワイトになってた」
「スカートはロングで」
「そうそう、セウンのパーティーだったからジュンサンも見たでしょう」
「ユジンにはいつ渡したの?」
「パーティーへ出掛ける時よ。驚かせようと思って」
「ユジン、ハイヒールも友達から借りたって言ってたよね。もしかして」
「そうよ、私のハイヒール。ユジンったらいつものブーツを履こうとするんだもの」
ユジンは恥ずかしそうに下を向いた。
「私、ドレスに合う靴なんて持っていないから」
「ごめんね。小さくて靴擦れ起こしたものね」
「いいのよ。あのドレス、高級過ぎて私はとても着こなせなかったから」

ユジンはジュンサンの様子を窺(うかが)った。
「全然、似合っていなかったでしょう。場違いよね。あの時ジュンサンも、とても変な顔をしていたから」
「そういう意味じゃないよ」
「えっ?」
「確かに君らしくないとは思ったが…まさかチェリンがそんな手の込んだ事をしていたなんて。ごめん、ユジン」
「ジュンサンが謝ることないわ」
「君はやはり君だった。僕が思った通りの人だった」
ヨングクは笑いながらご飯をパクリと放り込んだ。
「皆、謝ってばかりだな。一周したから朝飯の続きだ」
「ヨングクったら何、言ってるのよ」
「ジンスクが作った朝飯、旨いな」
「それはユジンが作ったものよ」
「どっちも旨い。さぁ、食べろ、食べろ」
ジュンサンは楽しそうにおかずを口に入れた。
「ホントだ。美味しい。ユジンらしい味だ」

次回:第723話.父親と恋人

(風月)