改:第716話.一口の糧【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第716話.一口の糧

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

ジュンサンはまだ目覚めぬままだった。ユジンは仕事を休み、ジュンサンへ寄り添っていた。朝早くから夜遅く面会時間が過ぎるまで病室に詰めるユジンは、時には食事をとる事も忘れ、周囲の人々を心配させた。ジンスクが時間をかけて作った手作りの弁当を持って行っても、一緒に食べるヨングクの箸(はし)が進むばかりで、ユジンは口を付けるだけだった。
「ユジン、もっと食べて」
「あぁ、うん」
「これ、好きだったわよね。私のもあげる」
ヨングクは口いっぱいのおかずを飲み込むと冗談まじりにジンスクをからかった。
「味はまあまあだが、ジンスクにしたら上出来だ。ほら、ユジンも食ってやれ」
「ちょっと、ヨングク。そんな言い方しないでよ」
「もっと旨けりゃ、ユジンもたくさん食べたよなぁ」
「そんなに不味い?」
「何言ってるのよ。美味しいわよ」
「ホント?」
「うん」
ユジンはさつまいものティギム(天ぷら)を摘まんだ。
「衣がちょうどいい具合に付いてる。ジンスク、上手ね」
「わぁ、嬉しい」
大喜びしたジンスクはユジンの前にティギムを取り分けた。
「もっとあるわよ。にんじんにイカに、これは海老」
「タレも美味しい」
「お醤油にネギと胡麻油を混ぜたの」
「ちょっと待て」
ヨングクは海老のティギムをタレに付けるとパクリと口に入れた。
「このタレ、よく行く屋台の味に似ているな」
「えっ?」
「さては屋台から買ってきたな」
「違うったら、ティギムは自分で作ったんだから」
「ティギムは?じゃあ、タレは屋台のか」
ジンスクは首を竦(すく)めた。
「本当は海老とイカも屋台で買って来たの。タレは貰ったものを味見しながら作ったわ」
「誤魔化したって俺には分かるんだ」
「ごめんなさい。海老とイカは丸まって上手く出来なかったの。でも、さつまいもとニンジンは自分で作ったから」
「悪いヤツだなぁ。コン・ジンスク」
「ヨングク、言い過ぎ」

ユジンはシュンとするジンスクの肩を抱いた。
「さつまいものティギム、本当に美味しかったんだから。泣かないで、親友」
「うん」
「元気づけに来たのに反対に慰められてどうするんだよ」
「ごめんなさい、ヨングク」
「俺にじゃない。ユジンにだろう」
「いいって。本当に感謝しているわ。だからもう泣かないで」
「泣くなよ、俺が悪者みたいじゃないか」

困り果てたヨングクは頭をかいた。
「ジュンサンが目を覚ましたら一緒にティギムを食べに行こう」
「私のじゃなくて屋台の?」
「お前が作っていたら一緒に食べられないだろう」
「だけど…」
ヨングクは半分泣きべそをかくジンスクの腕を取ると、こっそりと耳打ちした。
「お前が作ったティギムは俺だけに食べさせろ」
「ホント?嬉しい」
「へへへ~腹一杯食えるからな」
「もう~」
ヨングクは笑顔で振り返った。
「ジュンサンに会えるか。アイツにも伝えておかないと」

ヨングクは眠り続けるジュンサンに語り掛けた。
「ジュンサン、聞こえるか。俺だ、クォン・ヨングクだ。早く目を覚ませ。一緒にティギムを食べに行こう。熱々のティギムはなぁ、ビールのつまみに最高なんだぞ。屋台じゃあ一年中食べられるけど…土曜日、行かれるか?その日は約束があるからダメだなんて言うなよ。たまには俺に付き合え」
視線を合わせたユジンは顔を綻(ほころ)ばせた。
「山小屋へ行く時もジュンサンは一人遅れて来たな。気は進まないがチェリンも誘ってやろう。もちろん、サンヒョクもだ」
ユジンとジンスクはウンウンと頷(うなず)いた。

ヨングクはさつまいものティギムをジュンサンの口元へ持って行った。
「ジンスクが作ったティギムだ。旨いぞ。本当に旨いんだ。熱々ならもっと旨い…」
ヨングクは泣いていた。
「一口食えよ。一口でいいから食ってみろ」
「ヨングク」
「ジュンサン…俺、待っているからな」

ユジンの食はその後も進まなかった。心配したサンヒョクは熱々のお粥を誂(あつら)えユジンへ差し出した。
「温かなお粥だ。これなら食べられるだろう」
「食欲が無いの」
「食べるんだ。君が倒れたらどうする」
ユジンはお粥を口に運んだ。優しい味が喉を通っていく。
「もっと食べて。そうだ、もっと」
「サンヒョク、ジュンサンはまだ目覚めないの」
「一口の糧(かて)は君の力になる。ヨングクから聞いたよ。皆でティギムを食べに行くんだろう」
「うん、サンヒョクも一緒に」
彼は笑ったまま答えなかった。サンヒョクは泣きながら温かなお粥を食べるユジンを優しく見守っていた。

次回:第717話.愛の目覚め

(風月)