改:第715話.天と地と【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

風月庵~着物でランチとワインと物語

毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第715話.天と地と

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

例えば一つの後悔がある。誰しもそうなのだが、あの時ああすれば良かったとか、何故それに気がつかなかったのだろうとか。小さな事ならいつの間にか忘れてしまうけれど、どうしても忘れられない事もある。ユジンにとってそれは高二の大晦日の夜だった。

商店街で待ち合わせをしていたのに、結局ジュンサンは来なかった。ずっとツリーの下で待っていた事を今でも後悔している。会いたくて約束の時間より随分と早く行って待っていた。行き違いになってはいけないと、その場を動かなかった。ここなら一目で分かる。近くに二人で買ったプンオパンの屋台があるもの。早く私を見つけて。
『そして聞くんだ。ジュンサンの好きな人って誰?』
私が教えてあげる事だってある。
『私の好きな人はね…』

もしあの時、ジュンサンを探しに行っていたらどうなっていただろう。大通りまで出て先に見つけて声を掛けたら、ジュンサンは事故に合わなかったのかも知れない。事故の直後にヨングクとジンスクが駆けつけた。花火大会でもなく、待ち合わせでもなく、その前に私がジュンサンを見つけていたら。

翌朝、何も知らないまま学校へ行った私は事故を知った。
『ユジン、何処へ行くんだ』
『会わなくちゃ、ジュンサンに会わなくちゃ。約束したの、昨日会うって。私、伝えたい事があったの。ジュンサンに伝えたい事が』
『ダメだ、ユジン』
サンヒョクは言った。
『ジュンサンはもういないんだ』

それから何度かツリーの下に行ってみたけれど、ジュンサンは来なかった。冬が過ぎネオンが外されツリーは片付けられても、あの屋台はあったから、立ち止まって見たけれど、ジュンサンは姿を現さなかった。

ある時サンヒョクがやって来た。
「こんな所で何をしているんだ」
「何でもない。ただ見ていただけ」
「じゃあ、一緒に帰ろう」
それから私はジュンサンの姿を追わなくなった。

あの時と同じようにサンヒョクはジュンサンの元へ走る私を止めた。
「ユジン、何処へ行くんだ」
「どいて」
「行くな、ユジン」
「邪魔しないで」
私は彼の手を振り払った。
『今度は私が見つける。私がジュンサンを見つける』

命懸けの恋と人は言う。愛しい想いは全てを捨て去るのだろうか。
「ジュンサン!」
息を飲んだ彼は車道に飛び出し、ユジンの身体を突き飛ばした。
「ユジナ…」

近くを歩いていたカク・ソンジンとオク・スンシンの兄弟は、大きな音に思わず顔を見合わせた。
「事故か」
「そのようだ」
駆けつけた二人は驚きの声を上げた。
「イ・ミニョン」
傍(かたわ)らに座り込む女性は震える声で答えた。
「カン・ジュンサンです。ジュンサンを助けて下さい」
「カン・ジュンサンだって?」
「ジュンサンを知っているの?」
スンシンはユジンに告げた。
「数学オリンピアードで一緒でした。僕は医師です。ソンジン、救急車の手配を」
ソンジンは救急車を呼ぶと直ぐに電話を入れた。
「お父さん、僕です。今、友人が事故に遭ったので、これから病院へ向かいます。今日はそちらへは行けません」
「日本への随行だろう。行かなくてもいいのか」
「ジュンサンをそのままにして行けるか。必要とあらば後から追い掛ける」
「聖愛病院へ運ぼう」
「ドクターへ連絡する」

救急車が到着するとスンシンはユジンに同乗するように促(うなが)した。
「チョン・ユジンさんですね。乗って下さい」
「ジュンサン」
「泣かないで、しっかりして。彼の傍(そば)に付いていて」
サンヒョクは悲痛な面持ちで救急車を見送った。
「ユジン」
ソンジンは呆然と立ち尽くすサンヒョクの肩を叩いた。
「行こう。ジュンサンはソウル聖愛病院だ」

病院へ到着するとスンシンからの連絡で直ぐに処置が行われた。ペ・ヒョンジュンから事情を聞いたカク・ソンジンはクム・ジェビンと連絡を取り、セウンのイ・テワンの元へ状況を報告した。ジェビンから連絡を受けたソウル科学高校の友人が集まる中、サンヒョクの連絡で事の次第を知ったヨングクが、息を切らして飛び込んできた。
「ジュンサンは大丈夫なのか」
「今はまだ処置が続いている」
「あの時は俺が、今度はサンヒョクがいたなんて」
「僕じゃない、ユジンだよ」
「えっ?」
「一緒にいたのはユジンだ」
ユジンは泣きながら顔を上げた。
「ジュンサンは私を助けようとして車の前に…」

遅れてやって来たジンスクは泣きじゃくるユジンを抱きしめた。
「大丈夫よ、ユジン。ジュンサンは大丈夫」
「ジンスク」
「私、祈っている。あの時より強く祈っている。ジュンサンは大丈夫。大丈夫だって」

ジュンサンの意識は戻らないままだった。ユジンは病院内の礼拝堂で祈りを捧げていた。ポツンと一人、静かな中にいると涙が込み上げてくる。
「ジュンサン、目を覚まして。ジュンサン…」
傍(かたわ)らにそっと座ったのはヒョリンだった。
「ユジンさん、ジュンサンは必ず目を覚ますわ」
「ヒョリンさん」
「人は天にいらっしゃる神様に祈りを捧げるでしょう。どうか私の願いをお聞き届け下さい。愛する人を、大切な人を救って下さいと。その人との思い出は、この地にあるのよね。だから夢と希望はここにあるの。私たちの元にあるのよ」
ユジンは頷(うなず)くと涙ながらに笑顔を見せた。
「ジュンサンと呼びたい」
「そうね」
「ユジナって私の名前を呼んで欲しい」
「必ず呼んでくれるわ」
「愛しているんです。ジュンサンは私の大切な人なんです」
ヒョリンは優しく背中に手を当てた。
「祈りましょう。そして神様からたくさんの愛を頂きましょう」
ヒョリンの笑顔は柔らかく、そして力強かった。
「私、欲張りなの。愛する夫クム・ジェビンも歌も、もっともっと愛したいの。だから、ユジンさん。あなたも負けないで」

次回:第716話.一口の糧

(風月)