改:第711話.眠れぬ花嫁【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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第711話.眠れぬ花嫁

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

チェリンのブティックでミニョンと再会したユジンは、その後もどこか上の空だった。
「これがイングランド風クラシカル・スタイルよ。レースが手刺繍で格調高く見えるわ。お揃いのベールがあるの。先にベールだけ被ってみる?」
「ティアラ、持って来たけど」
「ベールが先だって」
チェリンがベールを被せると、ジンスクはうっとりとした眼差しでユジンを見つめた。
「素敵、マリア様みたい。いいなぁ、ユジン」
「じゃあ、ジンスクも」
「わぁ~」
鏡の中のジンスクはユジンより嬉しそうだった。対照的な二人にチェリンは皮肉めいた言葉をはいた。
「高級なレースのベールなのに台無しだわ」
「ちょっと、チェリン」
「私じゃ無理ね。ユジンに返すわ」
「ユジンはもっと酷い。花嫁がそんな暗い顔をする?」
「私にも無理かも」
「チョン・ユジン、私の見立てに何かご不満でも?」
「ごめん、チェリン。この頃仕事が忙しくて疲れていただけだから」
「サンヒョクの前ではそんな顔、やめなさいよ。違う人の事を考えていると誤解されるから」
「そんなことない。私は…」
二人は鏡の中で視線を絡めた。
『チョン・ユジン、あなたはキム・サンヒョクと結婚するの。ミニョンさんの事を考えるのはやめて』
『分かっているわ』

ジンスクは場を取り繕(つくろ)うように話題を変えた。
「そんなに似合うなら私も結婚しちゃおうかな」
「相手もいないくせに」
「いいじゃない、その日のために用意しておいたって。ユジンだってジュンサンの事をずっと思い続けていたし、もしジュンサンが生きていたら二人は結婚したかも知れないでしょう」
チェリンは呆れたように言った。
「ジンスク、あんたは口を開くとロクな事を言わない」
「私、また何か言った?」
「ジュンサンが生きていたらなんて、悪い冗談はよして」
「チェリン、もういいから」
「ごめんなさい、ユジン。あまりにも綺麗で私、浮かれてしまって」
「いいのよ、気にしないで。そのベール、あなたの方が似合うわ。なんならこのドレスも」
ユジンはウェディングドレスを見下ろした。さっきまでここにミニョンさんがいた。このドレスを見たのは彼しかいない。チェリンもジンスクもいなかった。サンヒョクも見ていない私のウェディングドレス。このドレスを着てサンヒョクの元へ嫁ぐことは出来ない。ユジンはチェリンへ告げた。
「他のドレスにしようかしら」
「いいけど、このスタイルが第一希望じゃなかった?」
「ティアラもいいけどベールも素敵だし、目移りしちゃって」
「まぁ、いいわ。うちのウェディングドレスは、生地から全部私が買い付けたから間違いないわ」
ユジンは二人に背を向けると、そっと着ていたドレスを脱いだ。

「次、早く」
「はい」
「こっちはタイトでロマンチックなマーメイドスタイルよ。あぁ~ユジンは野暮ったいから、どっちにしてもドレスに負けちゃうわね」
「チェリン、幾らなんでもそれは言い過ぎよ」
「じゃあ、そのティアラを合わせてみなさいよ」
「ユジン、顔を上げて」
ジンスクに言われてもユジンの表情は硬いままだった。
「ユジン、どうしたの。さっきから浮かない顔をして。何処か具合でも悪いの?」
「あぁ…うん。何着も試着したから少し疲れちゃった」
「一番気に入ったのを選ぶといいわ」
鏡の中のユジンは、ぎこちない姿で立っていた。
「ほらね、ユジンには似合わないでしょう。映えないもの」
「それならこれは?メリー・ポピンズのようにスカートがうんと広がってる」
「う~ん」
「スカートの膨らみで空も飛べるわ」
「空を飛ぶのはスカートじゃなくて傘よ」
「そうだっけ?」
ジンスクはユジンへ問い掛けた。
「このドレスを着てメリー・ポピンズになったら?世界中に行けるわよ」
「バカみたい」
「そんなことない。ね、ユジン」
派手なドレスは虚ろな表情の自分には似合わなかった。

ユジンはその日から眠れぬ夜を過ごしていた。眠ると夢にウェディングドレスを着た自分が出てくるからだ。メリー・ポピンズのウェディングドレスを着た私はサンヒョクの隣に立っていた。指輪を交換しようとすると突然風が吹き、私は大空へ吹き飛ばされた。傘を広げ舞い上がる私を、サンヒョクは悲しそうな目で見上げた。
『ユジン、何処へ行くんだ。僕と結婚するんだろう』
彼は泣き叫ぶように言った。
『ジュンサンはもういないんだ!』
『違う』
『彼は亡くなったんだよ。生きてはいない』
『いるわ、ジュンサンは生きていたのよ』
『イ・ミニョンはジュンサンじゃない。信じてくれ、ユジン』
風は私をミニョンさんの元へ運んだ。私は彼の隣であのウェディングドレスを着て立っていた。
『ミニョンさん』
『ユジナ』
彼は私をそう呼んだ。
『ジュンサンね、ジュンサンなんでしょう』
彼は何も答えず、ただ優しく微笑んでいた。

そんな夢を何度も見ると眠るのが怖くなった。
『私はサンヒョクと結婚するのに。そう決めたのは私よ』
ミニョンさんは本当はジュンサンなのだろうか。確かめればこの夢は終わるのだろうか。
『ユジナ』

花嫁は眠れない。心が彼の元へ向かっていた。けれど呼び鈴を押せなかった。押したらそのドアの向こうへ私は行ってしまうだろう。愛している。けれど怖かった。サンヒョクよりもジュンサンよりも、私はミニョンさんを愛しているのかも知れないから。

次回:第712話.守らなかった約束

(風月)