改:第709話.あの日のように【連枝の行方.第二部⑦】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第709話.あの日のように

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』⑦】

三人はカウンセリングを受けるジュンサンを気遣(づか)いながら子供たちと遊んでいた。マシューは心配そうに廊下の向こうへ目をやった。
「遅いな。何を話しているんだろう」
「ドクターに任せておけ」
「寮長のように落ち着いてはいられませんよ」
「それにしても長いな」
「ペ・ヒョンジュン先生は安易には済まされないだろう」
「俺の時はいつも20分も掛からなかったぞ」
「ウォンセはそんなに何度も行ったのか」
「悩みなんてあったのかよ」
「基本的に自分で結論を出す。それ以外の事だ」
「それ以外の事って?」
「あ…いや」
ウォンセはジェビンから視線を外すと右上に移した。
「その、何だ…先輩と上手くコミュニケーションを取るにはどうしたらいいかと」
「嘘だな」
「本当ですよ」
「目が泳いでいるぞ」
ジェビンはウォンセの顔を覗(のぞ)き込んだ。
「女だろう」
「まぁ…」
「まぁ、って否定しないのか」
「本当の事ですから」
ジェビンの目が鋭く光った。
「おのれ、セビンという可愛い僕の妹がいながら、他の女にうつつを抜かしていたのか」
「違いますって寮長。俺はただ手紙を貰ったから返事を書いただけで」
「何だと」
「それを何度かセビンに見られてしまって」
「一度だけでは飽きたらず何度もとは許せん!」
「寮長、落ち着いて。時代劇口調になっていますよ」
「俺は何もしていませんって。セビンが誤解して泣くから」
「泣かせたのか、僕の可愛い妹セビンを」
「いちいち言わなくてもセビンは可愛いです」
「リナちゃんの方が可愛いぞ~」
「マシューは黙ってろ!」
二人に言われマシューは首を竦(すく)めた。

「セビンが泣いてる時は泣くなって喧嘩になったけれど、そのうち口をきかなくなったから俺、参っちゃって」
「そう言えばあの頃ウォンセはそれだけでしょんぼりしていたな」
「こんなに好きなのに自分の存在感が無くなる気がして」
「それでドクターは何と言った」
「二人の楽しかった思い出を話してご覧。彼女が思い出せばそれは幸せな記憶だって」

ジュンサンとドクターは廊下に佇(たたず)み、三人の会話を聞いていた。
「行けるか」
「はい、僕が入ってソウル科学高校のハンサム四人組ですから」
ジュンサンの声に三人は振り返った。
「おっ、ジュンサン。終わったのか」
「こっちへ来いよ」
「あぁ、うん」
「ウォンセが寮長に睨(に)らまれているんだ。面白いぞ」
「マシュー、この野郎」
「城北洞の住人がそんな言葉遣いをしていいのか」
「マシューだってリナちゃんの兄さんがイギリス留学から帰って来るんだろう」
「お兄様の事は言うな~」
ジュンサンは笑いながら言った。
「マシューの発音、直されるぞ」
「ついでに文法も」
「ひぇ~」
「詩の名手チョ・ウォンセ、ひょっとしてセビンとの仲直りにはロマンチックな詩を捧げたか」
「まぁ、そんなところだ。セビンは大喜びしたから」
最後は照れて頭をかくウォンセを皆で冷やかした。

ペ・ヒョンジュン夫妻に別れを告げ、柊(ひいらぎ)孤児院をあとにした四人は各々家路についた。ジュンサンはその足で祖父母の家を訪ねた。
「まぁ、ミニョン。いらっしゃい」
「よく来たね」
「お祖父様、お祖母様、今晩こちらへ泊めて頂きたいのですが」
「えぇ…いいけど。ねぇ、あなた」
「あぁ」
戸惑う二人にジュンサンは告げた。
「ソウル科学高校の頃、ジュンサンは週末ここへ帰って来たんでしょう」
「あなた、どうしてそれを」
「僕はカン・ジュンサンです」
「ミニョン、君は」
「お祖父様、僕は自分がカン・ジュンサンだと分かったんです」
ジョンホは潤んだ目でジュンサンを見つめた。
「我が孫の名をこうして呼べる日がまた来るとは」
「ジュンサン、本当にジュンサンなのね」
抱きつくヘジは涙ながらに言った。
「あなたによく似合うピンクのセーターがあったのよ。明日、一緒に買いに行きましょう」
「はい、お祖母様」
「夕食は何がいいかしら」
「ジュンサンが好きだったものをお願いします」
「分かったわ。今すぐ作るから待っていて」
喜び勇んでキッチンへ走るヘジにジョンホは目を細めた。
「今夜はご馳走だな」
「楽しみです」
「さて、私たちは気長に待っていよう」

リビングには読みかけの新聞とつけっぱなしのテレビが流れている。ジュンサンはソファーに腰を下ろすとテレビに目をやった。
「ドラマですね」
「知っているか」
「いいえ、ホテル暮らしなのでドラマはほとんど見た事がありません」
「ヘジが好きなドラマだ」
ジョンホはキッチンへ向かって声をかけた。
「お~い、始まったぞ」
「今日はいいわ」
「見ないのか」
ヘジは濡れた手を拭きながらやって来た。
「もういいわ。チャンネルを変えて。見る気が無くなったわ」
「どうしたんだ。主人公はジュンサンに似ていると言っていたではないか」
「ジュンサンの方が断然ハンサムよ。見劣りするわ」
「お祖母様」
「本当にうちのジュンサンはハンサムで可愛い」
ヘジはそう言ってジュンサンを後ろから抱きしめると、満足そうにキッチンへ戻って行った。
「すまんな、ジュンサン」
「構いません」
「ヘジは嬉しいんだよ。高校時代も週末にはこうして帰って来るのを楽しみに待っていたんだ」

ジョンホはジュンサンを二階へ連れて行った。
「ここがジュンサンの部屋だ。そのままにしてある」
そこは高校生のジュンサンと共に時が止まっていた。
「お祖父様、僕はこれからもここへ来ていいですか」
「勿論だとも。何なら引っ越して来てもよい」
ジュンサンは申し訳なさそうに首を振った。
「ニューヨークへ戻る事にしました」
「そうか、君の家だ。何時でも帰っておいで」

次回:第710話.鳴らせなかったベル

(風月)