改:第91話.贖罪【連枝の行方.第二部①】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

風月庵~着物でランチとワインと物語

毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第91話.贖罪

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』①】

テワンは明らかに不機嫌だ。ポケットへ手を入れ口を真一文字に結んでいる。そんなテワンの前にドンヒョンは固い表情のままメモの走り書きを差し出した。
「先ほど一報が入りました」
テワンは顔色を変えた。
「自殺未遂!?」
「発見が早く命に別状はないそうです」
「ただ…」
「何だ」
「小指を骨折しておられます」
「骨折?…何故」
「ミヒ様はヒョンス様が結婚された事をお聞きになり、マルシアンの前でお倒れになりました。その際、骨折された様です」
テワンは怒りに震えていた。
「今すぐアジアの金融機関へ情報を流せ。ホテとイム・ウソクの口座を凍結するんだ」
「はい」
「スイス銀行へ繋がるセウングループのルートも全て断ち切れ」
「それは、会長と長老会の承諾を頂きませんと」
「ならば香港のイ・グォンナム(李權男)叔父上のルートを遮断しろ」
「テワン様」
「父には僕から話す。ホテには二度とセウンの名は使わせるな!」
制裁、それは一族からの完全な追放を意味していた。

ソウルへ着いたテワンは慌ただしく仕事を終えると、翌日ヒョンスと夕食を共にした。
「ギョンヒさんは元気か」
「あぁ、頑張り過ぎるんで疲れないか少し心配なんだ」
「そうか、今日は夕食に呼べなくてすまなかったな」
「いいんだ。それより兄さん、あの…」
「話せ。ミヒの件は僕の元へも入っている」
一連の経緯を話すとヒョンスは肩を落とした。
「あれから一度もミヒとは会わなかった」
「そうだな。あの頃は東海建設も大変な時期だったからな」
「それでも、ちゃんとミヒと話せばよかった」
ヒョンスは肩を震わせ泣き出した。
「俺…逃げてた。パリへ留学すると聞いて俺との事はもうすっかり忘れたんだと、無理矢理自分に言い聞かせた。ミヒがどれほど傷ついたか、知るのが怖かったんだ」
「君のせいではない」
「ジヌが助けてくれなかったら、ミヒはどうなっていたか」
「そんな事は考えるな」

テワンは盃の酒を一気に飲み干した。
「ミヒの指だが、怪我をした箇所があまりよくない場所らしいんだ。その事でカン・ジョンホ氏から相談があったよ」
「相談?」
「ヒョンス、落ち着いて聞いてくれ」
その声は虚ろに響いた。
「ミヒは小指の骨折の他に、手首にある手根骨内の靭帯を断裂している」
「そんな…」
「大変特殊なため、高度な技術を持つ医師の手術が必要だそうだ」
「医者はいるんだろう。そうだよな」
「ミヒをアメリカの病院へ連れて行こうと思う」
「ミヒは治るよな。またピアノを弾けるよな」
「最初から過大な期待は持つな」
「兄さん!」
「手術だけではない。リハビリも彼女の心の回復も容易ではないんだ」
ヒョンスは泣き崩れた。
「お願いだ。どうかミヒからピアニストの夢を取り上げないでくれ」
「しっかりしろ、ヒョンス!」
「俺が悪いんだ。俺のせいでミヒは…」
号泣する背中が激しく震えている。
「僕たちは贖(あがな)えないほどの罪を負った。君も僕もだ」
「俺はどうすればいいんだ」
テワンは打ち震える身体を抱き起こした。
「君は父親になるんだろう。何を泣いている」
「父親になる資格なんてない」
「生まれてくる子は愛の子だ。君はその子を愛し慈しみ育てるんだ」
ヒョンスは顔を上げた。
「いいか、例えミヒに全てを償(つぐな)えなくても、その子が大きくなった時、心から誰かを愛し、手を差しのべる事が出来るように、しっかりと育てるんだ」
「愛の子」
「あぁ、それが君が一生を掛けてやらなければならない、ミヒへの贖罪(しょくざい)だ」

※贖罪…犠牲や代償を捧げることによって罪過をあがなうこと。つぐない。罪ほろぼし。
次回:第92話.機内の異変

(風月)