改:第90話.因縁【連枝の行方.第二部①】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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毎日着物で、ランチと色々なワインを楽しんでいます。イタリアワイン、サッカー、時代劇、武侠アクションが大好きです。佐藤健さんのファンで、恋はつづくよどこまでもの二次創作小説制作中。ペ・ヨンジュンさんの韓国ドラマ二次創作小説多々有り。お気軽にどうぞ。

第90話.因縁

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』①】

あれからテワンはセナに、よくケランチム(茶碗蒸し)を作って貰(もら)うようになった。ことある毎(ごと)にねだる夫に、セナは申し訳なさそうに呟(つぶや)いた。
「ごめんなさい。お母様の様に上手くいかないわ」
「上出来だよ。随分と母の味に近いじゃないか」
「毎回どこか違うんだもの。きっとちょっとしたコツがあるのよ」
テワンはニッコリ笑うと、頬張っていたケランチムを飲み込んだ。
「では母に聞いて来よう」
「来週には韓国へ行くんでしょう」
「あぁ、ソウルとヨンピョン(龍平)へ行ってくるよ」
「何日も会えないなんて、寂しいわ」
テワンは涙ぐむセナを抱きしめた。
「どうしたんだ。ユリの結婚式以来、随分と甘えん坊になったな」
「だって…お姉ちゃんのお腹の中には、もう赤ちゃんがいるんだもの。だからお義兄さんが出張しても寂しくないって」
オ・ジュニクとソン・ユリ夫妻には年内に子供が生まれるという。テワンはクスクスと笑い出した。
「あれはスピード違反だよ。計算が合わない」
「でもね、もう名前も決めているんですって。女の子ならチェリンにすると言っていたわ」
「ふぅん。男の子なら?」
「ジュニクお義兄さんが思案中」
テワンはわざとらしくセナの顔を覗(のぞ)き込んだ。
「僕も考えておいた方がいいのかなぁ」
「時間よ。遅れるわ」
セナは珍しく話を逸らした。

マンハッタンのオフィスに穏やかな午後の光が差し込んでいる。テワンは読みかけの資料を閉じると徐(おもむろ)にペンを置いた。
「ヒョンス…」
やんちゃだった弟はどうしているだろう。そういえばパリの音楽学校に留学したミヒも、そろそろ帰国した頃だ。プライドの高い彼女の事だ。ピアニストとして華々しく新たなスタートを切るだろう。テワンはそれぞれの歩む道へ思いを馳せた。

ディスクの電話が鳴った。
『直通だ』
セナだろうか。
「いいよ、僕が取る」
ちょうど外出先から戻って来たドンヒョンを制し、テワンは電話を取った。声の主は期待を裏切った。
「テワン、久しぶりだな」
「ホテか」
「シンガポールでは随分と洒落たマネをしてくれたじゃないか」
「何の事だ」
「しらばっくれるな」
電話の向こうでホテは感情を押さえ、ほくそ笑んだ。
「いいことを教えてやろう。東海建設倒産の噂を流したのは俺の指示ではない」
「イム・ウソクか。それとも新しいパートナーでも見つけたか」
狡猾(こうかつ)な男は思いもよらぬ名前を口走った。
「依頼主は中央建設のご令嬢カン・ミヒだ」
「ミヒに何を言った」
「そうすればチョン・ヒョンスは戻ると言ったら、二つ返事で承諾したよ」
「何処まで侮辱すれば気が済むんだ」
「春川でお前の姿を見なければ思いつかなかったろうな」
嘲(あざけ)笑うとホテは電話を切った。

怒りと共にテワンは一抹の不安を覚えた。ミヒは何をした。そしてヒョンスは。この恋は何を産み、何を失ったのだろう。ホテの恨みは深い。その闇に二人は飲み込まれはしなかったか。
『ただの思い過ごしだ。思い過ごし…』
テワンは胸に広がる不安が、尽(ことごと)く外れることを祈った。

次回:第91話.贖罪

(風月)