改:第86話.南怡島の出会い【連枝の行方.第二部①】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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第86話.南怡島の出会い

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』①】

ヒョンスはギョンヒを乗せ南怡島へ向けて車を走らせた。春川から30分程の道のりも二人ならとても楽しい。
「俺は『明日から新しい仕事に入るから予定は入れるな』と言われていたんだ。新婚旅行なんて思ってもみなかったから、嬉しいなぁ」
「私も詳しくは教えて貰っていないの。お母さんがね、当日行けば分かるからって」
「そうか。母さんの方がウキウキしていただろう」
「えぇ、凄く楽しそうだったわ。一緒に荷物を詰めながらヒョンス兄さんの癖も教えて貰ったのよ」
「何だよ、癖って」
ギョンヒは横目でヒョンスを見るとクスクスと笑い出した。
「早く言えよ」
「ええとね、朝寝坊でグズグズして一度じゃ起きないとか、寒いと直ぐにゴロゴロ人にくっつくとか」
「あっ…」
「それから靴の踵(かかと)を踏んづけて履くから、慌ててよくつまづくって」
「お前、変なこと聞いてくるなよ」
「だって子供の頃からの癖なんでしょう」
「早く脱ぎたいだけだよ」

そんな他愛もない事を話しながら、南怡島の入り口へ差し掛かった時だった。前を走っていた路線バスが止まりドアが開くと、一人の男がステップから翻筋斗(もんどり)打って転げ落ちた。
「大変だ!」
ヒョンスは路肩に車を止めると直ぐさま男の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか」
「うぅ…痛い」
顔を上げると驚いた運転手と乗客の目がこちらを見ている。
「何処か怪我したんじゃ」
「あぁ、すみません。大丈夫です」
ヒョンスに抱えられ男は恥ずかしそうに立ち上がった。
「どうもありがとうございました」
するとステップに立っていた幼い女の子が、可愛い声で言い放った。
「お父しゃん、また転んでる」
「ハハハ…」
父親は苦笑しながら小さな身体を抱き上げたが、その重みに顔をしかめた。
「ダヘ(多恵)、ちょっと降りてくれ」
「嫌だよ、抱っこ」
「お父さん、腰が痛いんだ」
「病院へ行った方がいいんじゃないですか」
「あぁ、その」
男は照れくさそうに答えた。
「薬なら持っています」
「えっ?」
「僕、獣医なんです」
それを聞いていたダヘは、さっさと父の鞄(かばん)を開けると、大きな塗り薬を取り出した。
「はい、お馬さんの薬」
「ハハハ…お前、よく分かったなぁ。でもこれ本当に効くんですよ」

親子でよく似た細い目が笑っている。ヒョンスとギョンヒは顔を見合わせると、吹き出すのを必死に堪(こら)えた。
「どちらへ行かれるんですか。僕ら車ですから送りますよ」
「南怡島の貸別荘へ行くんです」
「えっ?」
「妻と三人で来るはずだったんですけど、二人目の子供が出来まして、せっかくだから娘と行って来なさいと言われました」
「そうなんですか」
「いやぁ、僕がいつもこの調子なもので」
「僕らも南怡島の別荘へ行くんです」

男は娘をあやしながら答えた。
「今日の占いでは南怡島は吉方ですよ。とても良い。でも僕は転んじゃったけど。ハハハ…」
「お父しゃん」
娘はまた父にすがり抱っこをせがんだ。
「下の子が生まれると分かった途端、少し赤ちゃんに戻ったみたいで」
「お母さんに甘えたいものね」
ギョンヒはにっこり笑うと両手を広げた。
「抱っこしようか」
「うん」
「ダヘちゃん、一緒にお船に乗ろうな」
微笑むヒョンスはギョンヒの荷物を受け取ると、ゆっくりと歩き出した。

次回:第87話.縁は異なもの

(風月)