改:第85話.テワンの贈り物【連枝の行方.第二部①】 | 風月庵~着物でランチとワインと物語

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第85話.テワンの贈り物

【連枝の行方.第二部『世界は愛に満ちている』①】

それから幾らも経たぬうちに、ヒョンスはギョンヒと結婚する意思を固めた。二人は両親の前へ跪(ひざまず)くと深々と頭を下げた。
「力を合わせて頑張って行こうと思います。お父様、お母様、どうか結婚をお許し下さい」
「そのように急がなくてもよいのではないか」
父ギドクは慈しむ様な目で若い二人を見た。ミヒとの婚約解消の事で息子も自分も噂にされ、笑われた事も知っていた。しかし今のヒョンスには手を握るだけで力が沸く愛する人が隣にいた。
「父さん、こんな時だからこそ一日も早く結婚して、お二人の力になりたいのです」
ヒョンスは神妙な面持ちのまま、今度はギョンヒの父イ・ジョンウを見上げた。
「必ずギョンヒを幸せにします」
「お父さん、ヒョンスさんとの結婚をお許し下さい」
ジョンウは言葉に詰まった。娘のこんな力強い目を見たのは初めてだった。
「私、ヒョンスさんについて行きたいんです」
「ギョンヒ…」
後ろに控えていた兄のヨンピョは感極まった父の背中へそっと手を添えた。
「父さん、大丈夫か」
「あぁ」

ジョンウはギドク夫妻へ静かに語り掛けた。
「ギョンヒは裁縫が得意なだけの気も利かぬ娘です。器量も秀でている訳ではありません。母親を早くに亡くし男手一つで育てたもので、躾(しつけ)も行き届いておりません。東海建設の坊っちゃんの元へ嫁ぐなど、本当によろしいのですか」
それを聞いていたヒョンスは隣にいたギョンヒの手を取った。
「お義父さん、ギョンヒは可愛いです」
「ヒョンス君」
「僕はギョンヒが可愛くて可愛くて仕方がないんです。手先が器用だし優しいし気も利きます。第一、僕の事をいつも見ていてくれます。こんな可愛い女性が何処にいますか」
「ヒョンス兄さん、やめて」
「いや、お前は可愛い。笑った顔はどんなに優しく愛らしいか、知らないだろう。今度しっかりと鏡を見てみろ。俺がどれ程お前に惚れているか分かるから」
「恥ずかしいからもう止めて」
真っ赤になったギョンヒは握っていた手を解(ほど)こうとしたが、ヒョンスは許してくれなかった。

そんな息子の姿をソヒはじっと見つめていた。いつものおっとりとした母とは違う視線を感じ、ヒョンスは首を傾(かし)げた。
「母さん、どうかしましたか」
「ヒョンス、もしどちらかの親が反対したら、どうするつもりだったの」
ヒョンスは初めて表情を曇らせた。
「母さんは反対なのですか」
「あなたはギョンヒさんを連れて逃げないの?」
「俺は…」
ソヒの声は凛(りん)と響いた。
「どんなことがあっても二人で生きていく覚悟があるのか聞いているのです。戸惑うなら今すぐおやめなさい」
その言葉は愛を貫いた母の強さでもあった。ヒョンスは胸を張って答えた。
「俺はギョンヒを愛しています。どんなことがあろうとも、ギョンヒと共に生きていきます。泣く時も笑う時も一緒。そうでしょう、お父さん、お母さん」
二人は頷(うなず)くとジョンウに頭を下げた。
「娘さんを息子の嫁に頂けないでしょうか」
「私からもお願い致します。ギョンヒさんを私たちの娘として迎えさせて下さい」
ジョンウはもう涙を堪(こら)える事は出来なかった。
「こんなに娘を思って頂いて、ギョンヒは本当に幸せ者です。ありがとうございます。ありがとう…」
ヨンピョの目からも涙が溢れた。
「どうか妹をよろしくお願いします」

早春の三月、ヒョンスとギョンヒは思い出の山の手教会で、ささやかな結婚式を挙げた。式が終わるとヒョンスは父と共にチョ・ソンフン神父の部屋に呼ばれた。
「今日の佳き日のお祝いにと、ある方から贈り物を預かっています」
微笑むソンフン神父は二人へそれぞれ白い封筒を手渡した。中から書類を取り出したギドクはハッと表情を変えた。
「南怡島(ナミソム)の環境整備…」
「イ・テワンさんから近くにそういう場所がないか、ご相談を受けました。よければ東海建設にやって頂きたいそうです」
「父さん、俺には東海建設へ出向辞令が出ている。担当は南怡島だ」
ヒョンスは赤いリボンが付いた、もう一通のカードを取り出した。
「えっ…『南怡島でハネムーンを楽しんでおいで』?」
ギドクは綻(ほころ)ぶ口元を押さえた。
「南怡島は普段は別荘があるだけの静かな島だ。しかし、その魅力は計り知れないと言われている。新婚旅行がてら、お前にしっかりと南怡島を見てこいというお達しだよ」
「兄さんらしいな」
「あぁ、正にテワン君だ」
マルシアンとしての仕事もしっかりとこなし、東海建設も心地よく引き受けられるよう、さりげなく配慮がなされている。このような環境整備の仕事なら、失墜した東海建設のイメージも良い形で回復出来るだろう。

「ヒョンス、もう行きなさい」
「はい、急いで荷物を詰めないと」
そう言ってドアを開けた途端、ソヒが満面の笑みで立っていた。
「荷物ならもう車に積んであるわ」
「母さん」
「お前、知っていたのか」
「テワンが当日まで秘密だと言うんですもの」
「ギョンヒは」
「少し前に私と一緒にこっそり用意したの。娘と旅行の準備が出来るなんて、楽しかったわ」
「ソヒ」
ギドクは笑いながら妻を抱きしめた。
「テワン君に礼を言わねば」
「南怡島はとても綺麗な所なんですってね。私も行ってみたいわ」
「あぁ、一緒に行こう」
ヒョンスはそっとドアを閉めると、愛しい妻の元へ走り出した。
「ギョンヒ、今行くぞ。待っていろ」

次回:第86話.南怡島の出会い

(風月)