HAIKU日本大賞 大賞発表

 

 

 

 

大賞

本音つい聞こえましたか水中花

[ 徳島県阿波市 井内胡桃 ]

 

 

(評)水中花は、紙やプラスチックなどを素材とした造花で、水中に入れると花が開く仕掛けになっています。掲句では、口語体による「本音つい聞こえましたか」という上五中七の措辞との配合によって、シニカルとユーモアのある読後感となりました。造花の水中花は、生花のように散ったり、枯れたりすることのないものです。俳句では、そのような水中花の特質をモチーフに、涼感と人工物の無機質さを踏まえて詠まれることが多いです。掲句では、水中花のありさまに人間の内面と外面を投影させているようです。句中の「本音」の一語から「建前」へと思いが及び、そこに「生花」と「造花」の関係性が重ねられます。作中人物は、あえて本音を聞かせたのかもしれません。本音を聞かれても動じず、涼しい顔をしている様子もまた、水中花という季語からうかがわれました。

 

特選

旱星誘拐犯のくれる飴

[ 東京都小平市 紫檀 ]

 

(評)「旱星」は炎天続きの夏空に赤々と見える星です。深刻な出来事を敢えて重く詠まずに、警鐘を鳴らしてくれているように思えます。明智小五郎に加勢する少年探偵団のような話に、季語「旱星」が実に効果的です。誘拐は世界中に存在し、現代社会の闇とも言われます。夜空の赤と飴との対比が鮮明で、作者の非凡さを知らしめます。赤い飴が想像でき、赤が危険なイメージの色として読後のインパクトを強めています。

 

 

 

お気に入りのアロハ柩に掛けてやる

[ 大阪府大阪市 清島久門 ]

 

(評)友人との別れを詠んだ一句には、深い情愛が滲み出ています。上五を「お気に入りの」と六音にした理由。友人と作者の間で交わされてきた言葉の中で、「お気に入り」が最も相応しかったのでしょう。情の細かい男気が感じられ、優しさに溢れていて胸にジーンと伝わります。心情を露わにせず、控えめな表現に一層心惹かれます。「アロハ」に託した作者の想いに、省略の文芸である俳句の原点を見た気がします。

 
 

準特選

南無三と夏のVegasのカジノかな

[ 東京都豊島区 名山花仙 ]

 

(評)「南無三」は南無三宝の略で、仏・法・僧の三宝に帰依すること。感動詞的に、驚いたり失敗したりしたときにも発します。名詞と助詞のみで詠んだ一句。漢字、ひらがな、カタカナにアルファベットまで登場させて賑やかに詠まれ、視覚からも取り合わせの妙があり、ドキドキする様子を窺い知ることができます。一瞬の状況を明快に十七音に仕立て、気迫と緊張感が感じられます。

 

 

 

再会を約して終はるキャンプの炎

[ 兵庫県神戸市 花袋 ]

 

(評)ここ数年人気が高まっている「キャンプ」。キャンプ場で知らぬ者同士が仲良くなって、再会しようということもよくあることでしょう。大自然の中にあっては、人は皆、素直になれるようです。炎を囲んで集う人たちの楽しげな表情が見えるようで、キャンプ地ならではの解放感が詰まっています。人生は一期一会の連続で、キャンプが出会いの絆を深めてくれます。

 

 

 

薫風や十八歳の分水嶺

[ 島根県出雲市 石佛三太 ]

 

(評)「分水嶺」は、降った雨水が異なった水系に流れる境界を成す山脈のこと。転じて、物事の方向性が決まる分かれ目をも言います。「十八歳」と「分水嶺」を繋ぎ合わせることで、将来の方向性を決める色々な分かれ道が浮かび上がります。「薫風や」で迷いなく切って、十八歳の明るい未来へと繋がっているかのようです。若葉の香りを運んでくる風が、さわやかなエールに感じられます。

 
 
 

2022夏の写真俳句大賞

 

ジーンズの空遊びたる瀬戸の夏

[ 東京都町田市 横山千砂 ]

(評)様々な色のジーンズが干してある様子がとてもユーモラスに表されています。空の青とジーンズの青、「青」という色にも関わらず、それぞれ違った色合いなのが面白いです。実際に、青を遊んでいるようですね。写真は少し工夫があっても良かったのかな、と思うところもありますが、着眼点の面白い写真俳句です。とても心惹かれる写真俳句です。

 

次点

 

木漏れ日の沈く新樹の淵の底

[ 神奈川県横浜市 楽ハイシャ ]

 

(評)写真に添えられた俳句一つでミステリーを感じさせてくれる作品はなかなか難しいものです。写真だけ見ると、明るい俳句にもできたと思いますが、この神秘的な雰囲気に暗い秘密を持たせて、恐ろしくも感じさせてしまう熟練さに感心しました。

 

夏シャツを探す口実初デート

[ 東京都武蔵野市 伊藤由美 ]

 

(評)高級店が並ぶ街並みを見るところ、大人の恋でしょうか。初デートを夏のイメージに上手くマッチさせています。写真と俳句が響き合ってストーリーを感じさせる良作品です。