HAIKU日本2022冬の句大賞
子に頼むタイヤ交換冬日和
[ 岐阜県岐阜市 辻雅宏 ]
(評)自動車のタイヤを冬用
のものに交換する場面
でしょう。降雪量や路面
の凍結状況は地域によ
って異なるので、タイヤ
交換をせずノーマルタイ
ヤで一年を過ごす所も
あるでしょう。掲句で注
目したのは、「子に頼む」
という上五です。ここから
想起したのは、これまで
作者は自分でタイヤ交換
をしていたが、今冬から
は子に頼まざるを得ない
事情が生じたのではない
かということです。
私の周りでは、年波によ
る体力的なことでタイヤ
交換は業者に頼むように
なったという方もいます。
これまで自分でできたこと
を子に任せるようになった
という感慨が、下五に据え
られた「冬日和」の青空を
通して、私の胸内にも晴れ
やかに、そして切なく響い
てくるのでした。
特選
寒紅の微笑みダンスパートナー
[ 東京都渋谷区 駿河兼吉 ]
(評)ダンスの優雅さと真剣
さの中に、一人の女性
の存在がくっきりと浮か
び上がります。「寒紅」
は寒中に紅花から作ら
れた紅。俳句では寒中
に口紅をさすことも言
います。
凜とした風情を醸し出す
冬なればこその彩りが
あり「ダンスパートナー」
に対する憧れや尊敬の
眼差しが感じられます。
「微笑み」によってピリピ
リとした感覚ではなく、
優しさや柔らかさも感じ
取ることができます。
ふるさとに洗い晒しの冬銀河
[ 大阪府大阪市 清島久門 ]
(評)ふるさとの夜空に冴え冴
えとかかる星たちは、冬
の容赦ない寒風に晒され
ています。その輝きに親
しみを込めて「洗い晒し」
と詠みました。キラキラと
した特別な夜空ではなく
いつも通りの見慣れた夜
空。目立たず少し色褪せ
たようにさえ感じる「冬銀
河」です。「洗い晒し」の
措辞が絶妙で、上五と下
五の両方の名詞に掛か
っており、スケールの大き
い漆黒の空間を詩情豊か
に表現した作品です。
準特選
悔い多く束ねてくべる焚火かな
[ 東京都練馬区 符金徹 ]
(評)かつては町中や野山や
浜でも、焚火の周りに人
が集まり、暖を取り話に
興じました。最近はなか
なか焚火をする場所も
見つかりませんがキャン
プブームもあって、その
魅力が復活しています。
火を見つめつつ思い起
こすのは在りし日の自分
楽しかった思い出と共に
悔いることも増えてきます
「悔い多く」と言いながら
何処かさわやかさの漂う
一句です。焚火を見つめ
る作者の心情が強く炙り
出され読者の共感を誘い
ます。
一杯のセイロンティーや日脚伸ぶ
[ 兵庫県尼崎市 大沼遊山 ]
(評)冬至を過ぎると一日ご
とに日が長くなります。
日脚が伸び春の足音を
感じますが、現実は寒の
盛り。「セイロンティー」は
スリランカで生産される。
紅茶で、セイロンは旧国
名です。スリランカの山間
地域の標高によ風味風味
も異なり個性味わい味わ
いを楽しめるそうです。
「セイロンティー」に懐か
しい茶葉の香りと昭和の
香りが漂います。静かに
春を待つ心境が句に込
められています。
オリオンの哀輝あふれて吾ひとり
[ 香川県高松市 宮下しのぶ ]
(評)冬の夜空はいくつもの
一等星が輝き、とても
華やかです。その中で
も、三つ星を中心に均
整の取れたオリオン座
は雄大です。ギリシャ
神話の美しき狩人オリ
オンが、天に上げられた
姿だと言われています。
作者は星になったオリ
オンの哀しい光を
「哀輝あふれて」と叙情
たっぷりに詠んでいます
「吾ひとり」が味わい深く
大自然の大らかな活力
の中に立つと、己れの矮
小さに気付かされます。
HAIKU日本大賞2022冬の写真俳句 発表
2022冬の写真俳句大賞
写真をクリックすると新しいウィンドウで大きく表示されます。ぜひ皆様の力作を拡大画面でご覧ください。(オリジナルの写真サイズが小さい場合は拡大されません。)
雲水の足裏赤し冠雪
[ 東京都足立区 田倉悳子 ]
(評)モノクロでの切り取りで
家の壁や木々などの黒
が映えます。奥行きの
ある構図が雰囲気を醸し
出しています。俳句には
赤という言葉を使い、色
のない世界を鮮やかな
裏返しで表現しています
裸足で歩く修行僧の姿が
目に浮かぶようで、上質
な写真俳句だと言える
でしょう。
次点
大の字の雪の児何を夢見るや
[ 東京都町田市 横山千砂 ]
(評)大賞作品と同じ雪の
風景を題材としていま
すが、こちらはとても
微笑ましい作品です。
写真の配置、子供の服
の色がとても良いです。
何気ない日常を切り取り
ましたが、作者の温かい
心が句によく表れている
写真俳句です。
透き通る本音本心木の葉髪
[ 神奈川県厚木市 折原ますみ ]
(評)写真に惹かれます。
枯れて、筋だけとなり
隙間から空を仰げる葉
いったい幾つの歳を思
い描いてこの写真と句
を合わせたのでしょう。
人が本心を全くあらわ
にすることなどほとんど
ないでしょう。それを口
にすることも。それでも
透けて見える、その心
をうまく表現した写真俳
句です。